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しかし、新婚生活が5年目に突入した矢先、そんな幸せは長く続かないことを知る──。
「ごめん、今日飲み会で遅くなる、先に寝てていいから」
朝食を食べたあと、そう言いながらスーツの上にジャケットを羽織りカバンを持つと、それじゃあとだけ言って出勤して行った。
私はその背中を見送った後、小さく溜息をついた。
彼は最近、仕事終わりに同僚と飲みに行く機会が増えた。
それも付き合いで仕方なく行っているだけで、本当は早く帰宅して家でゆっくりしたいのだろう。
私だって出来ることならそうしたいが、朝から夜遅くまで働き詰めの彼にこれ以上負担を掛けるわけにもいかないと考え直し、今日も1人で家事をこなしていた。
それから数時間後──
私は夕飯を作り終え、テーブルの上に並べていたときだった。
ガチャっと玄関のドアが開く音がしたので出迎えるとそこには彼が立っていた。
しかしその表情はとても暗くて、明らかに酔っている様子だった。
すると彼は私の存在に気付いた途端駆け寄ってきて抱き締めてきた。
突然のことに戸惑いながら
どうしたのと聞く前に、口を塞ぐようにキスを落とされた。
「んん…っ!」
いつもの優しいキスではなく、貪るような激しいものだ。
舌を入れて絡め取られるとお互いの唾液を交換し合い、糸を引いた。
幾度と舌を絡ませる度に聞こえる水音が耳を犯していき、頭が蕩けそうになる。
しばらくして唇同士が離れた後、彼は私を抱き締めたまま甘い吐息を漏らしながら耳元で囁いた。
「……ごめん、玲那…」
その声はとても弱々しくて消え入りそうな声だった。
同時に、その一言で全てを察した私は彼の背中に手を回して優しく擦った。
すると彼は安心したように息を吐き出す。
そんな彼に対して私は微笑んで言った。
「お仕事お疲れ様…だいぶ疲れているみたいだし……とりあえず、横になりましょ?」
そう言って寝室へと連れていき、ベッドに横たわらせる。
すると彼はすぐに寝息を立て始めた。
そんな彼を見てクスッと笑うと、私は彼の頭をそっと撫でて呟いた。
「……いつもありがとう」と────。
しかしその日以来、何度誘ってもえっちはしてくれなくなった。
それどころか、同じベッドで寝ても抱き締めてくれることも無ければキスすらしてくれない。
というか、何かと理由を付けて避けられるようになった気がする……。
そんな生活が続くこと、あの結婚から7年が経とうとしていた。
次第に私は不安になった。
ある日のこと──
夕飯の買い物帰りに、私は思いもよらぬ再会を果たした。
「…ねえ、玲那、ちゃん…?え、玲那ちゃんだよね……?!」
突然名前を呼ばれて振り返るとそこには懐かしい顔があった。
それは私がまだ高校生だった頃に、同じ部活に所属していた先輩で、一颯くんの双子の兄であり、私の初恋でもあった人──。
名前は、天宮和くん。
彼は私を見るなり驚いたような表情を浮かべて駆け寄ってきた。
そして私の手を取り、感極まった様子で見つめてくる。
私はそんな彼に対して戸惑いながらも、なんとか平静を装って答えた。
「も、もしかして和くん…!?ひ、久しぶりだね…?」
すると彼は嬉しそうに微笑んで言う。
「……うん、すごく久しぶり。玲那ちゃん」
それから私たちは近くのカフェに入り、お互いの近況報告をしつつ雑談をしていた。
和さんは高校卒業後、大学に行きその後に就職し、今は都内の企業で働いているそうだ。
「和くんは今、一人暮らし?」
「うん。実家から会社に通うのに遠いし不便だから思い切ってね。今は会社の近くに住んでるよ」
「そうなんだ……あの……えっと……」
そこで私は言葉に詰まってしまった。
何を話したらいいのか分からなかったからだ。
そんな私に対して彼は心配そうに聞いてきた。
「……玲那ちゃん?どうしたの……?」
「い、いや!何でもないよ……!」
慌てて取り繕うように笑顔を作ると、和さんは少し訝しげにしながらもそれ以上追及してくることはなかったので安心した。
「そういえば玲那ちゃんって……一颯と結婚したんだったね?一颯から話は聞いてるよ」
「あ、うん…!そうだよ」
「そっかぁ、やっぱりね、あいつ昔から玲那ちゃんにだけは甘かったけど……幸せそうで良かったよ」
「……っ」
「うん、幸せだよ」
自然と嘘の言葉が出た。
すると和くゆは優しく微笑んでくれて、なんだか照れ臭くなって思わず俯いてしまった。
「あ……あのさ、和くん……」
「ん?なに?」
「……あの……さ……えっと……」
いざ話そうとするとなかなか言葉が出てこなくてもどかしい気持ちになったが、それでもなんとか振り絞って声を出した。
「実は最近、一颯くんと上手くいってないの…」
その言葉を聞くと、和くんは真剣な表情になって私の話に耳を傾けてくれた。
「なにがあったのか、詳しく教えて?」
そう言われ、私はここ最近の悩みと不満を洗いざらい話した。
「…疲れてるのは分かるんだけど、私にキスをしてくることはあっても、隣で寝ててもえっちは全然してくれないし」