テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「――マーロケリー国へ、ですって?」
思わず聞き返したダフネ・エレノア・ライオール侯爵令嬢に、向かいのソファへ腰掛けたウィリアム・リー・ペイン男爵は静かに頷いた。
「ええ」
「私が?」
「そうです、貴女が」
「……どうして?」
ダフネは、意味が分からない! と眉を寄せる。
今日は話があるからと客間へ呼ばれたものの、まさかそんな話を聞かされるとは思ってもいなかった。
「先方から正式に婚姻の申し入れがあったわけではないよ。現段階では、こちらから王太子妃候補としてダフネ嬢を推す、という話なだけで」
「王太子妃……?」
そこで初めて、ダフネの表情がわずかに変わった。
「そう。お相手はマーロケリー国第一王子――セレノ・アルヴェイン・ノルディール王太子殿下だ」
「…………」
聞き覚えのない名に、ダフネはしばし瞬きをした。
けれど、続けられた言葉に、その目が大きく見開かれる。
「以前こちらの王都へいらしていた際には、事情があって身分を伏せておられた。――セレン・アルディス・ノアール様。そう言えば分かるかな? キミもよく知っているお方のはずだ」
「……は?」
間の抜けた声が落ちた。
「あの人が……?」
「そう、あの方が」
「本当にマーロケリー国の王太子なの……?」
なんの迷いもなく頷くウィリアムを見ても信じられない。
いや、それ以上に――。
「だったら、なおさら嫌よ!」
勢いよく言い放ったダフネに、目の前の男は僅かに眉を上げた。
「王太子妃なんて、望んだってなれるものではないのに?」
「だから何だというの!?」
ダフネは不機嫌になったことを隠そうともせず、あからさまにプイッと顔を背ける。
「確かに王太子妃という立場は悪くないわ。でも、マーロケリー国でしょう? どうして私が、わざわざあんな国へ行かなくてはいけないのよ」
幼い頃から、ことあるごとにマーロケリー国は敵国だと教えられてきた。
父と母からしてそうだった。
イスグラン帝国こそが誇り高き国であり、マーロケリー国は所詮北の辺境国。赤い髪や緑の瞳――敵国の色を持って生まれたリリアンナを、母エダが蔑んでいたこともよく覚えている。
そうしてダフネ自身は、黒い髪に赤い瞳。
実にイスグラン帝国民らしい晴れがましい色を、生まれながらに持っている。
それを密かに誇りにも思っていた。
なのに。
「あそこは辺境だわ! イスグラン帝国ほど栄えてもいない! それにすごく寒いんでしょう?」
「繁栄に関してはどうだろうね。もしかしたらマーロケリー国の方が……」
そこで、ウィリアムはダフネを見て口をつぐんだ。それがなんだか気に入らないと思ってしまった。
(なによ! まるでイスグランの方があっちより劣ってるとでも言いたげじゃない!)
そんなこと、あろうはずがない。
キッと目の前の男を睨んだら、小さく吐息を落とされた。そうして諦めたように「まぁ、北方の国だから寒くはあるだろうね」と言葉を結ぶ。
ウィリアムの態度がどうにも気に入らなくて、ダフネはほら見たことか、と鼻を鳴らした。
「ほらね! 寒いのなんてまっぴらごめんだわ。……私はこのまま穏やかに王都で暮らしたいの。王太子妃だか何だか知らないけど、見知らぬ国で赤毛に囲まれて暮らすなんて冗談じゃないわ!」
「ダフネ嬢」
言い切った途端、ウィリアムが少しだけ声を低くした。
「なによ! 怖い顔したって嫌なものは嫌なんだから!」
負けじと声に怒りをにじませたら、小さく吐息を落とされた。
「勘違いしてもらっては困る。これは俺が勝手に持ってきた縁談じゃない」
「は? ……どういう意味?」
「国と国の話だよ。そんなの、ちょっと考えれば分かるだろう?」
まるで分かって当然とでも言いたげな物言いに、ダフネはますます頭に血がのぼる。
#ハッピーエンド
高瀬船
885
#溺愛
星キラリ

6,282
#異類婚姻譚
和泉
420
コメント
2件
ダフネ、安定してるな(笑) 色んな意味で(爆)
ああもうダフネ様の反応が最高すぎた……!!「あの人が王太子!? だったらなおさら嫌!」って、ツンデレにもほどがあるだろ〜〜😭💕 しかも「辺境・寒い・赤毛に囲まれるの嫌」って連発してるけど、過去にセレノ殿下とどんな関わりがあったのか気になりすぎる!ウィリアムさんの「国と国の話」って意味深な言葉も怖いし…次回どうなるの!? 早く続き読みたいよ〜🎀🔥