※4月1日に投稿された📄の歌ってみたを元ネタに書いています。
※るむふぉが遊女、基本は 受け側になりますが場合によっては攻めにもなります。
※名前、口調は変えていませんので時代背景と合わない場合があります。
※捏造設定が多く含まれます。
※他、人によっては不快と思われる表現があります。ご注意ください。
※ややグロテスクな表現があります。
「ん……?もう、朝か…」
いやに重い体を起こし、奏斗は辺りを見回した。
昨夜、あれだけ情を交わした相手はすでにそこへは居らず、裳抜けの殻だけが残されていた。
どれだけ体が怠くとも起きて、仕事を始めなければならない奏斗はやっとの思いで床から這い出た。すると、枕元に小箱と手紙が一つずつ、置かれていたことに気がついた。
「なにこれ…昨日来たときなかったけど……、あれ、手紙…?」
簡単に折りたたまれただけの手紙を裏返すと几帳面な流れ文字でセラフの名前が書かれていた。奏斗は嫌な胸騒ぎを感じて、中身を開くと、向日葵の図柄にただ短い文が添えてあるだけだった。
『その簪はあなたのものです。どうか、覚えておいてくんなんし。』
ハッとして奏斗は寝癖の残る髪を探ると 、簪を取った。手の中にある簪は赤い牡丹を模した細工が見事な簪、セラフに一番最初に買ってやったものだった。
初めて街へ繰り出した日、自分で何を選んだらいいのかわからない様子のセラフに奏斗が目の色と同じという理由だけで買った赤い牡丹の簪。
買ってやった次の日から、もう気に入ったのか髪を結う時にはいつもあったのを覚えている。
胸の奥がきつく縛られるような感覚がして、奏斗は焦燥感のまま小箱へと手を伸ばす。開けると檜の香りがふわりと広がり、中には細長い何かが入っていた。
奏斗は目を見開いた。
中にあったのは小指だ、おそらくセラフのものに違いないだろう。
何度も見た爪紅の色を見間違うはずもない。
「あの馬鹿…っ」
床を拳で力強く叩くと、奏斗はもういない相手に悪態をついた。
遊女が自身の小指を切り落とし、渡すのは最大の愛情表現だと教えたのはいつだったか。決してやるな、身は売っても削るな、と何度言って聞かせただろうか。
それを反故にしてまでもセラフは奏斗へと愛を伝えたかった。それだけが事実として目の前にある。
「こんな、忘八者に……馬鹿な奴…」
気づけば奏斗の顔辺りから床へぽたぽたと水滴が落ちていた。
薄暗い明け方、すぅ、すぅ、と規則正しい寝息を立て、無防備に眠る楼主の前髪を軽く撫ぜる。汗ばんだ額と乱れた髪や服を見れば、無茶をさせたとセラフは少しばかり反省した。
セラフは奏斗の髪を撫で、一房すくい上げるとそこへ口をつける。もう触る日は来ないだろう。
名残惜しそうに立ち上がり、セラフは小刀を手に持った。躊躇なく小指を切り落とすと檜でできた綺麗な小箱へと入れ、手紙を添えて奏斗の枕元へと置いた。
「じゃあね、元気でねぇ」
朝焼けが照らす街をセラフは迎えも見送りもなく、出ていった。
その袂には黄色の簪を大事に抱えて。
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