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蜜柑先輩のコスプレが脳内から離れない。
お祭りの後のような余韻(よいん)を残したまま俺は部屋へ戻った。
風呂でも入って落ち着こう。
シャワーを浴び、体を清めたところで浴槽へ落ちる。
――ふぅ、落ち着く。
今頃、先輩は何をしているんだろう……そう思っているとスマホに反応があった。
風呂でネットを見る為に持ち込んでいるスマホに連絡が入るとは……いつも音沙汰なんてないのに。しかも先輩ではないか。
ラインを覗いてみると驚くべきメッセージがあった。
柚:電話していい?
で、電話だって!?
まてまて……心の準備ができないし、俺は全裸なのだ。恥ずかしすぎるって。
慌てていると先輩から『ビデオ通話』が入ってしまった。
ウソだろ!!
これは出るしかないよな……。
電話を切るとかあってはならない。
先輩に嫌われてしまう!!
だけど、俺は全裸だ!!
全裸なのだ!!
いいのか……ええい、仕方ない。
「……先輩、なんでしょうか」
『こんばんは、愁くん……って、あれ、なんか裸じゃない……!?』
先輩は顔を真っ赤にしながらも、察し始めた。
「俺、入浴中だったんです」
『ご、ごめん! 覗くとかそんなつもりはなかったんだけど……。しゅ、愁くんって結構体鍛えているんだね……おいしそう』
「おいしそう!?」
『あ……なんでもない! 良い体してるねって意味』
もしかして先輩ってマッチョとか好きなのか。もうちょい筋トレしようかな。
「親父の相手をしていると勝手に鍛えられるんです」
『へ、へぇ……』
先輩、俺の体をジロジロ見ている。
なんだか恥ずかしい。
「それにしてもビデオ通話なんて、いきなりですね」
『そ……それは、その、愁くんの顔が見たいなぁ……って』
「――ッ!」
それは不意打ちすぎる。
本当に恋人みたいじゃないか……!
『な、なんちゃって』
「まったくもう、先輩ってば俺をからかっていますね?」
『どうかな~? それより、今日はぬいぐるみを取ってくれてありがとね』
「俺の方こそキスをしてもらいましたし、おあいこです」
『そ、それは……うん』
語尾が弱々しくなって先輩は固まってしまった。顔が真っ赤だ。俺も思い出したらドキドキしてきた。
まずい、話題を変えよう。
「そ……そういえば、さっき冒険者ギルドに蜜柑先輩がいましたよ」
『え……蜜柑が?』
「はい、魔法使いのコスプレしていましたよ。肌の露出が凄かったですよ」
『えっ、そうだったの! わたし、蜜柑がコスしているって初めて聞いたよ』
マジかよ。蜜柑の秘密だったのかもしれない。
そもそも、蜜柑は平日限定のようだし……先輩の方は土日限定。会うことがないんだな。
しかも、コスプレしていることはお互いに秘密だったのか。
「今度、集まってみませんか。きっと面白いですよ」
『そうだね。でも、先に愁くんだけにわたしのシスター服を見て欲しいな』
「それは嬉しいです! じゃあ、土曜日にどうっすか」
『いいよ。じゃあ、明後日だね』
「楽しみにしています」
『うん。それじゃ、そろそろ切るね。ありがと、愁くん』
「俺の方こそ風呂で先輩と話せるなんて夢のようでした」
『わたしも話せて良かった。おやすみ』
手を振って――通話は切れた。
先輩の表情、仕草、声には癒されるなぁ。
* * *
アラームがピーピーと叫んでうるさい。
気づけば朝を迎えていた。
……そうか、昨晩は先輩と通話できて楽しかったから、日常生活のことなんて吹き飛んでしまったようだ。
今日も学校へ。
着替えて朝食を食べ――登校開始。
外へ出るとパラパラと雨が降っていた。
傘を差して学校を目指す……はずだった。
「まって、愁くん!」
背後から声がして振り向く。その瞬間、たまたま通りかかったトラックが水溜りに突っ込んだ。
スピードが出ていたせいか、水飛沫がドバッと上がって――その水の塊が先輩の頭上に落ちた。
バシャァァァ……と、バケツをひっくり返したような、そんな感じの威力だった。
「せ、先輩!? ちょ、ずぶ濡れじゃないですか!!」
「あぅ……」
「と、とにかく家が直ぐそこなので、タオルを貸しますよ」
「ありがとう、助かる」
スカートを絞っていく先輩。ふとももがあんなに……その光景が少しエロかった……じゃなくて! 先輩が風邪を引いてしまう。
「さあ、行きましょ。学校は遅刻ですけどね」
「ううん、いいよ。このまま行くわけにはいかないし」
「そ、そうですね」
……俺は気づいてしまった。
先輩のブラウスが透けて下着が薄っすら見えていることに。
「愁くん? どこ見てるの――って、きゃっ!」
やっと気づいたのか、先輩は胸元を両腕で隠した。……これは良いモノを見れた。