テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
柘榴とAI

441
#没入感フィクション
柘榴とAI

391
柘榴とAI

298
「早乙女さん、今日の夜って空いてますか? 前に言ってた託飲み、今日やりませんか」
「ブフッ!」
白川君が、やけに真面目な顔をして急におかしな事を言い始めたではないか。
大丈夫、分かっている。
コイツがこういう顔で言いだしたのだから、間違いなく仕事の話なのだと。
なんだけども……普通さ、オフィス内で平気で言うかね。
しかも今は休憩中でも何でもない。
つまり、周りには他の社員だって大勢いる訳で。
「アンタは……相変わらず。“仕事モード”になると、空気を読まない上に場所を選ばないわね。んで? 今回は何が相談したいのよ。というか、そんな接待みたいな真似までするって事は、私が頭下げる案件なんでしょ? もしくは無茶言い出すのか……どっち?」
吹き出してしまったエナジードリンクを、グイッと口元から拭いつつ。
相手に向かってジトッとした眼差しを向けてみれば。
白川君は表情一つ変えずに。
「両方です」
「おっ前……今は特にサポーターの面々は忙しいって知ってるでしょうに。賞金首の要望を聞き出して、それを可能な限り再現しながらデザインの方に送る。私達はその入り口でもあり、内容を練る役目でもあるのよ? 尚且つ、これ等を実装して問題無いかってのも会議しつつ決めて行く立場。その辺、分かってる?」
「はい、なので……本格的な勝負する前に、早乙女さんを今の内に味方につけておこうかと思いまして」
「可愛くない……私の部下、本当に可愛くない。飲みのお誘いなのに、行く前からため息しか出ない……」
こんなの、思いっきり仕事増やしますって言っている様なモノじゃないか。
月に数回ペースで、彼の妹さんにはお弁当作って貰ったりしてるけどさぁ……だからコイツのお願いなら、ある程度は聞いてあげるつもりでは居たけどさぁ。
こういうのは、違うじゃん。
食事で回復させて、仕事でダメージ食らわせてどうすんのよアンタ。
そんな訳で、思い切りため息を零しつつ彼の方へ向き直ってから。
「話は聞いてあげる。んで、アンタの所に行った方が話しやすいっていうか……そっちの方が都合も良い内容なのね? でも最初に聞かせて、“会社としてのメリット”は?」
キッと目尻を吊り上げながら言い放ってみれば、彼はまた……表情一つ変えずに、手にしていた資料を此方に差し出して来る。
コレを受け取ってから、そこに書かれている内容に目を通してみれば。
えぇと? 6keyによる実績……というか、会社への貢献度みたいな?
それから、賞金首専用のハンドガン。
リアルで売り出された、モデルガンの販売傾向などもきっちり調べてある様だ。
あの武器は、ガンサバイブオンライン当初の顔……というか、特別感が増してくれたのは確かだ。
しかも、此方が思っていた以上に。
最初こそコラボ商品、ウチでもトイガンメーカーでも話題作り。
そういう意味合いで実装されたモデルなのは間違いない。
だがハンドガンと言えば、ガンゲーにおいてはサブウェポン。
なので、このゲームをやっている人なら認識している銃の一角……というのを狙った商品ではあったのだが。
いざ蓋を開けてみれば、コレをメイン武器として戦う賞金首の存在。
彼の妹、6keyこと白川夢月さん。
あまりにも目立つ彼女の存在のお陰で、この銃の反響は想定以上どころの騒ぎでは無いのだ。
武装パックはもちろんの事、リアルのトイガンだって予想されていた数の何倍も予約が入り、制作側がヒーヒー言った程。
そもそもガンサバイブオンラインをプレイしていない人間だって、広告を見た、紹介動画を見た。
たったそれだけの理由で、件の賞金首とこの銃を知っているという発言を、かなりの頻度でSNSでも見かけている。
未プレイの人、というか無関係の人達だって、コラボ商品の購入者は多いという結果を叩き出している程。
元々銃が好きな人物ならまだしも、単純にPV映像に憧れて購入に踏み切った層や、もっと言うのならコスプレイヤーやコレクターなどなど。
6keyを主人公の様に扱った紹介映像を見て、様々な人がこのゲームとこの銃に興味を持ったのは確か。
これは間違いなく、彼の妹の実績と言って良いのだろう。
しかしながら“彼女だけの武器”ではないからこそ、会社側としては評価し辛い点でもあるのだ。
実際問題の武装パックでは、ある意味“彼女の特徴の無さ”が災いして。
この“保険”とも呼べるアイテムを、誰でも簡単に手に出来る状態にしてしまったのだから。
「私が言いたい事は、大体分かるわね?」
「もちろんです。だからこそ、前回同様……それ以上に話題になりそうな“アイツの為の武器”を、俺は作りたいんです」
それだけ言って、白川君は静かに頭を下げて来た。
もはやこの雰囲気を、周囲の社員たちも固唾を飲んで見守っている状態。
先程まで託飲みだなんだと、それこそ噂されそうな話題が上がっていたというのに。
現状では、そんな色っぽい話などまず発生しない緊張感に包まれているという。
なので、もう一度大きなため息を零してから。
「わぁぁかったわよ。でもとりあえず、“話を聞く”だけだからね? 何度だって言うけど、私達の最優先事項は“会社”。6keyさんだけ特別扱いなんて絶対できない、これだけは理解してね?」
「分かってます。その上で、他の賞金首達に対しても“切っ掛け”になればと思って。その企画書も、さっき渡した資料に載ってます」
「……どうせそっちは、サクッと考えた内容でしょうに。アンタの頭の中は、80%が妹さんの事で構成されてるもんねぇ~。んで? 私が仕事終わりにアンタの家に行って、アンタの我儘を聞きながらまた仕事する“私の”メリットは?」
もはや慣れたわ。
白川君は仕事では優秀、けど対人関係は基本的にドライ。
けどこの会社の、というかガンサバイブオンラインという企画に妹さんが加わった後から。
本当に必死で仕事しているのが、傍から見ても分かるのだ。
彼女の為に、裏方が出来る事は全部やる。
それくらいの勢いで、仕事との向き合い方を変えたのが分かる程。
そんな事情も有り、どーせ他の面々の為の企画書なんぞありきたりな言葉が並んでいる上に。
こんな意地悪を言っても、シレッと声を返して来ると思っていたのだが。
「妹に頭を下げました、早乙女さんを家に呼んでも良いかって。その時に、食事系のサポートをお願いできないか……と」
「…………詳しく」
「早乙女さんが我が家に来るのなら、と。食費の増額を求められました。つまり……豪華です。酒のつまみになりそうな物も、全て妹が作ってくれるそうです。あと、酒飲んだ人間は眠くなるって認識らしく、勝手にお泊りセット準備し始めてます。なので、そこらのホテルより快適な環境で休める事を保証します。アイツは家事完璧ですから。なんと、素晴らしくバランスの取れた朝食もセットです」
「…………」
私も、社会人ですから。
まったく、何を言っているのやら。
誰かの家でお泊り会、みたいな学生のノリが今更気軽に出来るかと言ったら、ねぇ?
しかも我々は、同年代と言っても良い“大人の男女”な訳ですよ。
そんなのがお泊り会とか言ったら、当然社内にも悪い噂が流れてしまう訳で……待て、周りの仲間達。
特に賞金首サポーターの面々。
彼の妹さんの手料理食べ放題的な話が出た瞬間、何故お前達はちょっと腰を上げた。
彼女に関わっている賞金首のサポーターは、確かによく話を聞いているかもね?
更に言うなら、私がお弁当貰う度にちょこちょこ覗きに来るスタッフも増えたね?
それは知っているけど、自分が代わりましょうか? みたいな雰囲気で、ジッとこっちを見つめて来るな。
忙しいと皆食生活が酷くなってくるのは知っているが、料理一つでそこまで釣られるんじゃないよ――
と、偉そうに言えればよかったのだが。
「着替えは持って行きますので、お世話になってもよろしいでしょうか。シックスのご飯、食べたいです。リラックス空間、欲しいです。滅茶苦茶興味あります」
ここ最近も激務だったので、思考の前に身体が癒しを求めた。
私も、駄目なヤツでしたよと。
「えぇ、是非。妹も喜びます」
という訳で、この歳になって。
物凄くお気軽なお泊り会が決定してしまうのであった。
いや、普通あり得ないからね。
こんな事したら、翌日から針の筵だからね。
だというのに、さっきから私のパソコンに同じ室内に居る社員から立て続けにメッセージが届くんだが。
チラッとそちらを覗き込んでみると……。
『早乙女さんだけズルいです。そこは会議という名目にして、むしろ妹さんを会社に呼びましょう』
『食べる前に、絶対写真撮ってくださいね? 私、6keyさんのお弁当参考にしてるんで』
『早く謝恩会の件進めて下さい。かなり自由な席だったら、白川さんの妹さんが料理する可能性だってありますよね? 我々にとって“手料理の美味しいご飯”の存在意義ってのが、どれくらい重いか早乙女さんならご存知ですよね?』
健康診断デッドラインの面々からは、怒涛の如くそんな通知が届くのであった。
ハッハッハ、ウチのチームは仲が良くって本当に助かったよ。
だぁれも私の貞操を心配するヤツが居ない。
いや、分かるよ?
今私を託飲みに誘っているの、少し前まで“感情無いんじゃないか”って言われてた白川君だからね?
誰しもが仕事人間だと思っていた人が、仕事に妹が関わった瞬間にココまで変化してるんだからね。
それはまぁ、妹さんが居る環境でコイツが何かする訳が無いって思っちゃうよね。
しかも問題の妹は、あの6keyだし。
そんでもって皆、私とコイツの関係がどうとかより。
色々と話題になっている賞金首の中身の方が気になっちゃうよね。
ホントに、色んな方向で目立つ子が居たものだよ……。
そんでもって今回の件は、流石にsevenには伝えられないかなぁ。
何を言われるか分かったもんじゃないよ。
コメント
1件
「お疲れ様です、みぅです🤍」 久しぶりにオフィスでの空気感が生々しくて、笑っちゃいました。早乙女さんの「仕事増やしますって言ってるようなもの」っていうツッコミ、めっちゃ分かります……。あと、周りの社員が一斉に「妹さんの手料理食べたい」で動き出すの、なんか可愛くて好きです。6keyの存在が職場全体のモチベになってる感じ、じわじわ来ました。お泊まり会、どう転んでも面白くなりそうで楽しみです🌙