世界は燃え尽き、時さえも灰に還った。
海は静まり、空は沈黙し、星はすべて墜ちた。
残されたのは――彼、ひとり。
廃墟と化した神殿の上、ルシエルは座していた。
かつて光を司った天使、いまは燃え尽きた世界を見下ろす“孤独の王”。
彼の周囲には、焼け焦げた羽根と灰が舞う。
その腕の中には、灰と化した彼女の残骸。
あのとき抱きしめたはずの温もりは、
もうどこにも存在しない。
「……結局、救えなかった。」
かすれた声が、冷たい風に溶ける。
涙はもう出なかった。燃え尽きていた。
彼は空を見上げる。
そこには、光はない。
だが、遥か彼方に一つだけ――
かすかな輝きが、夜を裂いて瞬いていた。
それは“明けの明星”。
かつて、自らが象徴した光。
「神よ、罰を与えるがいい。」
「どんな痛みも、受け入れよう。
痛くはない。ただ……寒いだけだ。」
風が吹く。
焼けた世界に、わずかに残った灰が舞う。
その灰のひとつが、彼の頬に触れた。
――温かかった。
まるで、エリシアが触れているようだった。
「……エリシア。」
名を呼ぶ。返事はない。
ただ、遠くの明星が微かに瞬く。
その輝きが、彼の頬を淡く照らす。
それは、彼がかつて信じた“夜明け”の色だった。
彼は静かに目を閉じる。
“暁”を象徴した天使が、闇を抱いて微笑む。
「ようやく……朝が来るのか。」
その言葉と共に、風が止んだ。
そして、世界に静寂が訪れた。
――それが、光だった頃の最後の祈り。
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