始めは優しくて丁寧な言葉で。
少しずつ距離を詰めたら、強めの上から目線の言葉をつかう。
ミハルのように、自分の信念がなくどこかふわふわとして所在なさげな女は、強くて頼れる男に惹かれる…と思っている。実際、そんなふうに態度を変えていったことにまるで気づいてもいない。
“僕”から“俺”になっても、口調が命令形になっても特に違和感も言ってこない。嫉妬心を見せたら、強く言い聞かせればそれだけ自分を愛しているからだと勝手に勘違いしてくれる。誰かに頼って、自立していない女はコントロールするのが簡単だ。
初めて抱いたあの日から、ミハルの感情は手に取るようにわかる。これまで誰も俺のことを見ていなかったが、今は俺のことだけを考えるミハルという女がいる。
それだけで、味気なかった毎日が面白いと思えるようになった。
ある日、R18のサイトを見ていたら、目隠しをした女が男からの言葉責めだけで達してしまうというものがあった。
___声だけで?
面白そうだな。それはSとかMとか言われる人たちの世界のようだが、やってみたい。とすれば、相手はミハルしかいない。
声、ということは電話か?
電話ができる時間を確かめておく。その時、できれば周りに人がいないほうがいいが、もしいたとしても俺には関係ないが。
あとはこちらの思惑通りに話を進めるだけだ。今のミハルならば拒絶することもないだろう。
頭の中で組み立てておいた筋書き通りに会話を進める。
「俺、ミハルにハマってしまったみたいだ、もっとさ、もっとしたくなった」
『…え』
「ミハルはどう?また、したくならない?」
『……えっと…』
「そっか、もうしたくないか、俺のこと気に入らなかったのかな?」
『そ、そんなんじゃ…なんて答えたらいいのか』
「答え?そのまま答えてよ、したいの?したくないの?」
『…したい』
ミハルの声が甘くなる。
「ほぉら、ミハルもしたいんだね?俺はもうしたくてたまらなくなってる、ほら」
『えっと…』
「想像してみて、俺はミハルのことを考えて熱く固くなってる。ミハルの声を聴きながら自分で刺激してるんだ…よ、そう、ミハルの唇がここを撫でたように」
ミハルが今どこにいて、この電話の相手をしているのだろうか?もしかして周囲には人がいるのだろうか?ミハルの声が小さくなる。
それでもかまわず、喋り続ける。
「想像して、ミハル。俺はミハルを思いながら自分で自分を…あー、ほら、わかる?もうこんなになってるよ…」
最初は嫌がっているような返事だったけど、言葉で強要したらすんなり従った。
電話でこんなことをさせられるとは、思ってもいなかったようだが、だんだん声が変わっていくのがわかる。呼吸が吐息に変わり声が喘ぎに変わる…もう少しだ。
___あれ?
声だけでイカせるつもりだったのに、なんでだ?俺も興奮してきた。演技のつもりがこっちまでこんな気分になるとは、意外だった。
電話の向こうでのミハルの様子を想像する。あの日の恥ずかしそうなミハルを思い出す。
___そうだ、うなじのあたりにホクロがあったっけ
艶しく喘いで、その瞬間は俺に強くしがみついた女。これまで抱いたどの女より記憶が鮮明だ。
『あ…イク…』
「俺…も」
思わず声をあげそうになった。そばにあったタオルで受け止めたソレは、ねっとりと指に絡んだ。
___何をやってるんだ?俺は
「はぁ…気持ちよかった、たっぷり出したわ。我ながらすごい。どう?ミハルは。初テレホンセックスの感想は」
『……恥ずかしい』
特別いい女というわけじゃない、なのにどうしてこんなに気持ちが昂るのか?俺としたことが。
「訓練だよ、次に会ったらもっと感じるようにね。じゃ、また電話するわ。電話した時はすぐ応えられるようにパンツ脱いどいて」
こんな気持ちになってしまったことを、ミハルに気づかれたくなくて、わざと下品なセリフで終わらせた。