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会社に着くと、会長から呼び出された。会長室へ行くと、秘書は席を外すようにと指示があり、会長と2人になった。
「会長、お話とは?」
「まぁ、座れ」
高級なソファは座り心地がいい。
「香澄や葵とはどうだ?」
「可もなく不可もなしというところですね。仲良くしていますよ」
「そうか、じゃあ、これは?」
A4サイズの封筒から出てきたのは何枚かの写真だった。そこには見覚えのあるものが写っていた、ミハルと歩く自分だ。ホテルに入りエレベーターで部屋へ向かう姿が写っていた。ご丁寧に出てくるところまで。
「これがなにか?」
いたって冷静に質問する。パーティーの後にすることを昼間にやっただけのことだ、それがどうしたと言うのだろうか。
「相手は、どこかの主婦か?」
「えぇ、まぁ」
「何故こんな価値のないことをする?」
「価値?」
「お前が相手にするのは、それなりの立場の女ばかりのはずだ。それが意味するところはわかっているな?」
「まぁ、理解しているつもりです」
「そういう女の相手ということは、それはお前にとっては仕事の一部だ。だから香澄も何も言わないだろう?だけど、この女は違う、
こんな普通の主婦を相手にするなんて、どういうことだ?香澄にも説明できるのか?」
___今の俺は、女も好きには抱けないのか
“傀儡”
俺は、会長にうまく操られている傀儡なのだ。抱きたい女と、抱かなければいけない女、俺には選択する余地もないということか。
生活にも不自由なく、仕事もあくせく働くこともない。家族サービスもいらないけれど、家族からサービスされることもない。
___だから退屈で空っぽなのか
香澄はいい女だし、求めれば普通に交われるがそこに愛情のようなものはない。始めからわかっていたことなのに、それがとても虚しい。
「わかったら、今後こういうことのないようにな。その写真だって、偶然知り合いが撮ったものだ。どこで誰が見ているかわからんぞ。軽はずみなことをして自分の価値を落とすなよ」
___価値?俺の価値?
そんなこと、考えたこともなかった。
俺の価値とやらがなくなれば、会長から必要とされることはないということか。
「わかりました」
それだけ答え、会長室をあとにする。
「くそっ!」
見えない拘束に、息が詰まりそうだった。