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専用魔石と新たな名前が確定したところで、彼女と共にラクルに入った。真っ先に拠点倉庫に戻ると、尻尾を嬉しそうに振り回す彼女が出迎えてくれた。
「ウニャ! アック、お帰りなのだ!」
「あぁ、ただいま。出迎えはシーニャだけ?」
「ドワーフもフィーサも見ていないのだ。アック、何をするのだ?」
「見てないって……まぁいいか。シーニャはここで少しだけ待てるかい?」
「ウニャッ!」
予想するとすればルティは買い物に出かけ、フィーサは部屋で眠っていそうだ。ラクルに戻って来ても、何をするわけでもないのが課題でもある。
「アックさま。あたしのお部屋もあるのではなくて?」
まだ片付いていないが、ミルシェの部屋は階段を上がった先の一室だ。
「もちろん用意してあるけど、みんなとは少し離れた部屋になる」
「あら、あたしだけ離れのお部屋?」
「嫌か?」
「ウフフッ……好都合ですわね。小娘ばかりでうるさいのは好みませんもの。アックさまもお部屋に来て頂けるのでしょう?」
「……とりあえず部屋に行くぞ。使い方を説明して、それから……」
ミルシェが戻って来れるかについては正直言って未知数だった。長いこと行動を別にしていたし、ずっと王女の成り代わりをしていたからだ。その王国がどうなったかはまだ聞いてはいないが、仮に王女として暮らすことになっても不思議じゃなかった。
しかしおれが放ったデーモン族を使い、今またこうして戻って来てくれたのは幸運と見るべきだろう。
「フフ、ここですのね」
「悪いな。散らばったままで」
元々が倉庫ということもあって、全てを片付けるのは間に合わなかった。
「アックさまが気にすることではありませんわ。ここに戻って来たのも久しぶりなのでしょう?」
「まぁな。それでも、片付けくらいはしておくべきだと思ったんだ」
「それでしたら……詫びを頂いても?」
仲間であり従わせる側の彼女ではあるが、ここは素直に頭を下げるとする。
そう思っていたが、
「――のわあっ!?」
一瞬の出来事で理解が出来ず、抵抗する余裕も無いままおれは力強い引っ張りによって前方に倒れ込んでいた。片付いていない部屋だったとはいえ、ベッドやソファを無造作に置いていたのが幸いした。
おかげで倒れた衝撃は無く、上体に感じられるのは弾みがついたスライムのような感触だ。
もちろんスライムな訳は無いが……。
「アックさま……ずっとお会いしたくてたまらなかった。このままこうさせて欲しいですわ……」
「――もがががが! いや、それはまずっ――……」
「詫びとしてこのままあたしに埋《うず》まってくだされば」
ここが離れでミルシェの部屋だからと安心してはいけない気がする――とはいえ、彼女も人間の中で生きてきたことを考えれば、広い心で受け入れるのも悪くは無いのかも。
スライムでは無く、聖女エドラの体を乗っ取ったに等しい彼女。水棲怪物としての力も失われたことで、相当に厳しい目に遭っていたに違いない。そう思えばミルシェに抱きしめられたところで、悪いことをしていることにはならないはずだ。
「アックさま、あなたさまの息吹が欲しいですわ……」
「い、息吹……?」
「――そのまま力を抜いて……あたしの――」
何だ何だ、この妖しげな雰囲気は?
もちろん誰が見ているでも無いが、何だかとても無抵抗になってしまいそうな予感がある。
「ウウニャ!! 怪物!! アックから離れるのだ! ウゥッ」
何となく流されそうな感じになっていたところで、シーニャが飛び込んできた。多分だが、少し前に驚いた声を上げたことで何かに気付いたかもしれない。
「あら? 虎娘シーニャだったかしら? 何の用?」
「アックから離れろなのだ!」
「……全く、アックさまも無意識にやられておいでですわね」
「え、おれ?」
シーニャが乱入してきたことで妙な誤解をされているようだ。
「フフッ、まぁいいですわ。虎娘と戯れてやるのもあなたさまの努め。ご存分に……」
「そ、そうじゃないぞ? 違うんだからな?」
「アックさま。事が片付きましたら、お話を」
「……分かった」
何を言い訳しているんだおれは。どの娘に対しても特にどうということは無いのに。ルティは別としても。
「ウニャ? アック、下に降りて遊んで欲しいのだ!」
「分かったよ、シーニャ」
「フニャウ~」
ミルシェが戻って来たことを冒険者パーティーに例えるなら、これでようやくまとまりが出来たということになる。ラクルは確かに拠点ではあるが、自分たちがずっと落ち着ける場所ではない。
そうなると自然と自分の国を求めることになっていく――か。戻りたくは無いが、自分の生まれ故郷の国に戻ってそこを拠点とするのも手なのかもしれない。
ルティの故郷とは真逆の移動となりかねないが、こればかりは仕方が無さそうだな。
「よしよし……」
「フニャ~」