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「……っ、は……ぁ、あ……っ♡」 赤い瞳が潤み、震える吐息が喉から零れ落ちる。BはLに縋りつくように肩を掴み、必死に声を抑え込もうとする。
けれど抑えきれない甘い声が、途切れ途切れにこぼれ落ちていた。
「……もっと……L……っ」
欲望と焦燥の境目で震える声。
ベッドを揺らしながら、二人の距離はもう、誰にも引き剥がせないほど近づいていた。
けれど、その関係はやがて歪み始める。
監視のはずが、気づけば三人を縛り上げる三角の枷となり……逃げられない絆と、壊れるほどの嫉妬が、三人の心を蝕んでいく──
☾ ☾ ☾
──朝。
夜神月は相変わらずBと鎖に繋がれたまま、日々を過ごしていた。
カーテンの隙間から、朝日が漏れる。
重たいまぶたをゆっくりと持ち上げると、最初に目に入ったのは──隣で寝ている黒髪の頭だった。
「…………おい」
月は彼に声をかけてみたが、動かない。いや、それどころか、Bはまるで自分の居場所を主張するように、ぐい、と身体を寄せてきた。
「……っ、もう……」
眉間に皺を寄せ、目を開けぬまま、Bから距離を取った月。ぐいっと頭を押し離れようとしたが、Bは更に抱きついてきた。
(……邪魔……)
まだもう少し寝たい……寝たいのに……すりすりと寄ってこられると気が散って眠れない。
それどころか、相変わらず手首についている手錠も邪魔くさい。鎖が腰の下に当たっている。……痛い──けど、ほんの僅かな寝返りさえしようとしない、月は再び眠ってしまった。
──のも、ほんの数分。
「っ、ぅ……」
Bが更に抱きしめてきた為、目が覚めた。
内心なんだよっと声をあげ、チラッと片目でBを見ると、僕の胸元にスリスリ頬を擦り付けていた。
自分と体格の変わらないやつが隣にいると、余計動きづらい。重いし……実際のところは僕より軽いんだろうが、足の上に乗ってる彼の足は重く感じる。
「んー……っ」
眠そうな声でうねると、月は、腰元までずり落ちた布団をぐいっと引っ張った。月にもBにもかかっていない、掛け布団。それはもう掛け布団の役割をしていない。
僕は軽く自分に掛け布団をかけたあと、残りの半分でBを包み込むように布団をかけた。
ほんの僅かに目を開けたB──僕は収まりの悪いところにいるBが気になって眠れそうに無いため、ぐいっと腰を引き寄せ、抱き返した。
「……、……」
離れようとしない、引き剥がせないと直感で感じた為、大人しくしてろよという意味をほんの少しと、収まり良いところにきた、よしよしの意味を込めて、背中をポンポンっと叩いた。
それが良くなかったのか、Bはくすぐったそうに身じろぐと乱れた長い髪が僕の首元に当たってくすぐったい。
動くな、動くな。
でも、ここで動くなと言って強制ホールドをするほど月は冷たい人間では無い。というより、月にそんな発想はない。──いくらあのキラと呼ばれた月でも、力づくで誰かを支配するような真似はしない。
だから、月はBの頭をポフポフ……いや、ボフボフと叩き、じっとしろの合図を送ると、ようやっと落ち着いた。
さあ、二度寝しよう。
「………………」
のも、つかのま、腰の下に敷かれっぱなしの鎖を退けるのを忘れていた。
(ぁー、痛い、邪魔だ……痛い)
このゴツゴツとした……金属が……めり込んで……痛い。
(ったく……邪魔)
ただちょっと、鎖をずらせば済む話なのに、なぜだろう。寝起きのこの時間帯だけは、ほんの少し動くことすら、世界で一番疲れてしまう。
この鎖の存在も、「誰のせいでこんなことになったんだ」と、Lの顔を思い浮かべて心の中で愚痴愚痴と文句を言う。
まあでも、寝てしまえば、分からない。
「……我慢しよう」──そう決意したのは、たったの30秒前。
じわじわと僕の腰を傷めつけてくる鎖達。心身共に攻撃されている。圧倒的に邪魔すぎる鎖を退けることにした。
ジャラ……ジャラ……。
金属の音が、小さく主張する。控えめに鳴く鎖たち。いや、控えめなのにうるさい。
腰からずらしたと思ったら、今度は尻の横に滑り込んできて──骨に直撃。
「……っ、」
思わず、無言で鎖を弾く。
すると、今度はBの方に当たったらしく、嫌がるように身じろいだ。
僕の腕からほんの少し離れるB。もぎゅっと抱いていたぬいぐるみ(B)に僅かな隙間ができた。
……なんか……寒い。
心地よさが崩れたせいで、もう全部がどうでもよくなった僕は、Bの頭をぐいっと押し剥がし、鎖ごと引っ張って──自分の体を180度、寝返りを打った。
──快適。
Bから距離をとれば僕を邪魔するものは何も無い。密着されてた熱も、腰の痛みも無くなり、開放感に打ちのめされていると、後ろで、もぞっ……もぞもぞ……と、聞こえる。
そして、案の定、Bが体を起こし、僕を上から見下ろしていた。
まるで「なぜ見放したの」とでも言いたげに、じっと僕の後頭部を責めてくる。
か、気づかないフリを決め込む。
──が、ダメだった。
Bが、ごそっ……と身を乗り出し、何を思ったか──大胆に揺らした。
「……っ……やめろ……っ」
肩に乗る重量と、布団全体に広がる振動。
わざとらしく、左右に身体を揺らしながら、Bは無言で僕を起こしにかかってくる。
「……B、今何時だと思ってる」
「6時です。夜神さんが私を捨てた朝です」
「捨ててないよ……」
「夜神さんの胸に抱かれている途中、頭をひっぺがされて、寝返られた側の気持ちを考えたことがありますか?」
……んー、面倒くさい。
Bはさらに揺らしを強めてくる。まるで、見捨てられた子犬のように──否、質の悪い猫のように。
「分かった、分かった。悪かったよ。ほら」
そう言って、僕は半ば諦め混じりに、布団から腕を出して、広げた。
すると、「わぁい」などという可愛げな声を出すわけでもなく、Bはただ無言で滑り込んできた。ごく自然に、当たり前のように僕の胸に顔を埋め、体重を預けてくる。
「重い……」
「愛がですか?」
「……お前がだ」
くくくくっと笑い出すB。
僕でからかってるのは一目瞭然だ。
なんだか、もう、目が覚めてしまった。
寝ようという気になれず、Bをチラリと見ると、今までのいがみ合いは何だったのか、穏やかな声で返した。
「眠れた?」
「ああ、寝れた」
「そう、なら良かった」
微かに笑って目をそらすと、まだ開ききらない瞼を閉じてぽつりと呟いた。
「ぃや、ほんと、助かるよ……Lだと寝ないから」
それは半分、愚痴のつもりだった。何気なくこぼれた、本音に近いもの。
だが──
「……やはりLは寝ないのか?」
すぐさま返ってきたBの声は、思ったよりずっと真剣だった。
「寝ないよ……ずーっとパソコン見てる……まったく、忙しないな、Lってやつも」
「そうか……やはり、寝てないのか……」
ぶつぶつ呟くB。
何をぶつぶつと。
「Lは寝ない……なら、Bも……50時間、60時間、あとは糖分さえ補給できれば……」
何を言っているんだ?と、Bの方へ視線を向けた瞬間、僕はさっき自分が放った軽口を、心底後悔することになる。
「分かりました。では、私もこれからは──寝ません」
「は……はあ?」
「寝ません。絶対に。100時間……いえ、その先、200時間は寝ません」
バカなのかこいつは。
死にたいのか?
「……」
呆れすぎて、言葉が出ない。
黙った僕に、Bは勝手に“承認”と受け取ったらしく、何かを決意した顔でうんうん頷いていた。
「これも“L超越”の一歩……」
やれやれ、と心底呆れて、僕は言葉を挟んだ。
「またそれか?そんなの気にするなよ、いちいち……」
「うん?……気にするな?」
Bが、目を細めた。表情から笑みが消えていた。
「Lを超えるとか……なんですぐ、誰かと比べるんだよ。……くだらない」
自分でも、少し強く言いすぎたと思った。けれど、止まらなかった。
「お前がLより寝るとか、寝ないとか、そんなのどうでもいいだろ。“Lに勝ってるかどうか”なんて基準で、自分を測るなよ。……BはBだろ?Lになりたいわけじゃないくせに、どうしていつも、その名前を引きずるんだ」
Bは微かに目を見開いた。
「自分らしく生きればいいじゃないか」
「……自分らしく?」
Bが首を傾げる。その声音には、本気の戸惑いが滲んでいた。まるで、そんな言葉を生まれて初めて耳にしたかのように。
「……そうだよ。BはBだろ」
月は軽く肩をすくめるが、その表情は思った以上に真剣だった。
「……Bとして……?」
かすれた声。Bの脳裏には、ワイミーズハウスにいたLの姿を思い出した。背中越しに見た“L”の影。いつも、背中ばかりを追っていた。
Bには“B”としての居場所など与えられず、ただ“Lの代わり”か、“次善”として育てられてきた。
「……Bはずっと……Lの影──バックアップ。それだけで……」
「だから、逸れてるんだよ」
月は遮るように言った。視線を外さない。
「Lに勝つためとか、Lと同じであるためとか。……それじゃあ、結局、自分を捨ててるだけだ。そんなもんで張り合って……何になるんだよ」
Bの目が揺れた。赤い瞳に、一瞬だけ迷いが走る。
今まで考えたこともなかった問い。
「……Bは……Bで、いいのか?」
「当たり前だろ」
月は息を吐くように即答した。
「BはLじゃない。“Lにもなれない”。でも──Lだって“Bにはなれない”」
しんと静まり返る。
窓の外では、朝の鳥の声がどこまでも澄んでいる。
Bは、布団の上で膝を抱えるように身を小さくした。強がりでもなく、笑いでもなく、初めて見せる素直な仕草。
「……そんなふうに、言われたことはなかった」
「……そうか」
月は、そこでやっと気づく。Bの執着が、ただの狂気や対抗心ではなく、存在の証明を求めるための叫びだったのだと。
気づけば、Bは布団の中へずるりと身を滑らせ、月の胸元へと顔を埋めていた。乱れた黒髪が肌に触れて、くすぐったい。
「……っ、よしよし……」
月の手は自然とBの後頭部へ伸びていた。撫でてやれば、猫のように身を丸め、嬉しそうに喉を鳴らす仕草まで見せる。
──従順。
あの、狂気に満ちた瞳の奥にこんな姿があったのかと思うと、月の胸の奥でざわめきが起こる。
可愛い。危うい。……そして、欲しい。
頭では分かっている。危険だ。けれども、腕の中で甘えるBを撫でているうちに、喉が渇くような熱を覚えてしまう。すると、ふと、Bが見上げた。
「……夜神さん」
「なんだ」
「兄妹って……いますか?」
唐突な問いかけに、月はわずかに目を瞬かせる。
「……いるよ。妹がひとり」
「妹……」
Bは小さく呟き、胸に頬をすり寄せながら笑った。
「羨ましいですね。……私は一人っ子でした。だから、兄に憧れていた」
「兄?」
「ええ。叱ってくれて、褒めてくれて、抱きしめてくれるような……兄」
ぽつりと吐き出された願いは、あまりに素直で、あまりに幼い。
月は思わず背中を軽く叩き、「よしよし」と囁いていた。Bはその声を嬉しそうに受け止め、腕を回して月の腰にしがみつく。
月は、Bの頭を撫でながら大きな欠伸をした。
「……ふわぁ……眠い……」
まだ薄暗い朝の光が部屋を包み、布団の中の空気だけがぬるく温かい。
そんな中、Bはふと、月の胸に頬を押し付けたまま呟いた。
「……夜神さん」
「ん?」
「昔……孤児院に、夜神さんにそっくりな人がいたんです」
「ふーん?」
欠伸の余韻を引きずったまま、月は気のない相槌を返す。
Bの瞳が、ゆっくりと細められる。
「優しい人だった。兄のようで、みんなから慕われて──」
言葉を区切り、ほんの一瞬だけ懐かしむように目を伏せる。
「彼は……『私の初めての友達』です」
その一言に、月の思考がぴたりと止まった。
──初めての友達。
胸の奥に蘇るのは、Lが口にした同じフレーズだった。
《……月くんは、私の初めての友達ですから》
偶然か? いや、あいつも、同じことを言った。
背筋に薄ら寒いものを覚えながらも、月は無意識にBの黒髪を撫で続けていた。
「……そうか。……初めての友達、ね」
思わず呟いた声は、感情の色を押し隠したはずなのに、どこか震えを帯びていた。
Bは胸元から顔を少しだけ上げ、じっと月を見つめる。
「夜神さんも……誰かに、そう言われたことが?」
問いかけに、月は少し間を置いてから肩をすくめる。
「……まあ」
それ以上は語らなかったが、否定もしなかった。
Bはそれで満足したように、再び胸に頬を預ける。
「……そうですか」
呼吸が少し落ち着き、声が柔らかくなる。
「……あの友人も、寝れない日は……こうして、一緒に寝てくれた。……懐かしい……温かい」
そのままBはくたりと力を抜いた。
さっきまでの不眠200時間発言は何だったのか。意図も簡単に眠ってしまった。月が半ば呆れで息を吐いた時には、すでに小さな寝息が返ってきていた。
あれだけ意地を張っていたのに、月の胸元に顔を埋めたまま、子供のように眠りに落ちている。
撫でていた手を止めると、鎖がわずかに揺れてカチャリと鳴った。月はその音を聞きながら、もう一眠りしようと静かに瞼を閉じかけた。
──と、その時。
Bの唇がわずかに動いた。
「……『A』……」
寝言だった。
月はピクリと目を開ける。
喉の奥でかすかに息を飲み込みながら、胸元で眠るBを見下ろした。
「……A?」
不意に部屋の空気が重く沈む。
さっきまでの温もりが、一瞬にして別の影を呼び覚ましてしまったかのように──
☾ ☾ ☾
窓から差し込む光はすっかり白く強くなり、机の上には取り分けもされないままのケーキがひとつ。月は椅子にもたれ、顎に手を添えていた。
「……全然見つからない……」
呟く声には焦燥が混じる。新たなキラの影を追って数日、糸口すら掴めていない。紙の上で行き詰まった資料と地図が、彼の苛立ちを象徴している。
そんな空気を、まるで他人事のように崩す声がした。
「夜神さん、Lって……どういう人なんです?」
ケーキをフォークでつつきながら、Bが軽い調子で問いかける。
「またそれ?」
顔を上げると、Bは目を輝かせていた。
「気になるんです。あの人、テニスのジュニアチャンピオンだったとか。どういうことなんですか?」
月は一瞬だけ目を細めた。
「……そんなの、今はどうでもいいだろ」
「よくありません。Lですよ?わかってます?あのLですよ?」
Bは身を乗り出す。
「気になるんです。あの人が、コートの上ではどんな顔をしているのか。サーブを打つ姿……想像できますか? 信じられませんね」
月は深い溜め息をついた。
「……Lだって人間だ。子供の頃から何かしらやってたんだろ。テニスが上手かった、それだけの話だ」
「だけ?それだけで世界を手に入れた男ですよ?」
Bの声には、いつもの皮肉と妙な憧れが混じっていた。
月はため息を吐きながら、心のどこかで悟る。
──Bは結局、Lに囚われている。
そして、それを口にするたび、彼自身がLの影から逃れられないことを思い知らされる。
「……そんなの知らないよ」
月は困ったように肩を落とした。Bの好奇心はとどまるところを知らない。
「Lのことなんて、僕だって全部知ってるわけじゃない。……本名だって、知らないのに」
ぼそりと呟いた声には、わずかな疲れが滲む。
その瞬間、Bがフォークを置いた。
赤い瞳がすっと細まる。
「──私は知っていますよ」
空気が止まった。
月の瞳がわずかに震え、視線がBに向けられる。
「……は、はあ?」
「知っています。Lの本名。夜神さんが知らないなら、余計に……教えてあげたいくらいです」
声は軽い調子なのに、どこか本気を含んでいる。
「な、なんでLの本名なんて知ってるんだよ」
「私がBだからです」
さらりと放たれた言葉に、月は眉を寄せる。挑発とも、冗談ともつかない調子だったが、その赤い瞳はどこか誇らしげに光っていた。
「……お前な……」
月は深く息を吐き、声を低める。
「そういうこと、あんまり口にするもんじゃない」
月は視線を机から外さず、淡々と続けた。
「Lの本名どころか、正体を探ってる連中は山ほどいる。そんなのに見つかったら面倒だし、キラの有利になるようなことばかり言ってると──」
フォークをカタッとお皿の上に置き、Bを見やる。
「……“お前も監禁されるぞ”」
その言葉に、Bの赤い瞳がきらりと光った。
「監……禁……?」
小さく繰り返し、次の瞬間、Bは机に身を乗り出した。
ぐっと距離が詰まる。
「っ……」
「夜神さん、それはどういう意味です?」
机に両手をつき、顔が間近に迫る。月の息がかかるほどの距離。
月はわずかに眉を上げた。
「……も、文字通りだ。Lがやろうと思えば、実力行使も何でもする。お前みたいに“Lの名前を知っている”なんて不用意なことを言うやつがいたら、疑われて、拘束されるかもしれない」
「……監禁?監禁、ですか?Lが?あの人が?」
「……あ、ああ」
月は少し視線をそらしながらも、肯定する。
するとBは、さらに身を乗り出した。赤い瞳が光を帯び、月との距離はほとんどゼロに近い。鼻はぶつかっている。
「夜神さん……その話、本当ですか?」
「……っ、近い」
「Lが『犯人』を監禁するなんて、聞いたことがない。詳しく教えてください……」
「勘違いするなよ。僕はキラじゃないし、Lに強制的に捕まったわけでもない」
「じゃあなぜ……?」
互いに繋がれた鎖を見せびらかすように手を上げた。
「──自分から望んで監禁されたんだ」
一瞬、Bはぽかんと目を丸くした。
次の瞬間、ハッと息を飲むと、ぱあっと明るくなった。
「あっはははははは!監禁、かんきん、そうか……その手があったかぁ……!」
「……は?」
月は眉をひそめる。
「考えもしなかった……自ら監禁を望むなんて……自白して、監禁してくれと……そしたら──Lに会うこともできた──」
「おい、何の話をしてるんだ」
怪訝な顔で問いかける月をよそに、Bはひとり頷いている。
「Lを出し抜くには……いや、Lに近づくには……それが一番……」
(何言ってんだ……)
月の声に、Bはようやく現実に戻ったように肩を揺らして笑った。
「かっかっかっかっ……!」
Bが突然、喉を震わせて笑い出す。その声は乾いていて、どこか壊れた音に近かった。
笑いの余韻のまま、机越しに伸ばされた手が月の手をぎゅっと掴む。
「夜神さん……見直しましたよ」
「……何が?」
月は怪訝そうに目を細める。
「そんな方法でLに接近するなんて……凄い。誰も思いつきません。自分から監禁されるだなんて」
赤い瞳は真剣そのもの。だが、その顔は異様に興奮に満ちていた。
月は鼻で笑い、肩をすくめた。
「は、はぁ……」
本気で自慢するつもりはなかったが、Bがあまりに食いつくので、否定する気にもなれなかった。
Bはそのまま月の手を離さずに、じっと見上げて言った。
「……夜神さん。もっとLのことを教えてください」
「Lのこと?」
「ええ。──何でもしますから」
「……」
その言葉に、月の目がわずかに輝きを帯びた。
さっきまで苛立ちと戸惑いの中にあったはずなのに、今は別の欲望が胸の奥を満たしていく。
Bは従順で、無防備で、しかも“Lの情報”という最も危険なものを餌にして揺さぶられている。
「ふーん……」
月は顎に手をやり、わざとらしく気のない声を返した。しかし、その瞳は明らかに光を増していた。
☾ ☾ ☾
机の上に残されたケーキは手つかずのまま。月は椅子に深く座り、Bの黒髪に手を添えている。
「っ……んぶ、んっ……んぅ」
「……もっと」
低く抑えた声が落ちる。
「もっと舐めてくれる?」
Bは小さく頷き、従順に従う。熱に浮かされたように、月の指がその頭を軽く押さえ込む。
「裏の方……そう……」
吐息まじりの声が、いつもの冷静さを崩していた。
Bの動きはぎこちなくも一途で、その度に月の喉から抑えた音が漏れる。
「……くっ……そこ……」
赤い瞳がちらと見上げ、月の表情を伺う。その仕草すら、月の欲を煽った。
「あむっ、んむっ、んんっ♡んっ……」
「……いい子だ」
頭を撫でながら、月は熱を帯びた目でBを見下ろす。Bの赤い瞳が潤み、必死に上を見上げながら囁く。
「……はっ、っ、早く……Lの情報を、ください……」
月は熱を帯びた吐息を洩らしながら、Bの頭をよしよしと撫でる。掌に伝わる髪の感触が、異様に甘く感じられる。
「……後で、ね」
指先が優しくも支配的に髪を梳く。
腰の奥からせり上がってくる硬さに、もう自分でも抗えない。昂ぶりきった肉が、熱を持って脈打っている。
「イッたら……」
喉の奥からかすれる声を落とす。
「……教えてあげるよ。Lのことを」
「んむっ、んむぅっ……んんっ♡」
涙をにじませながら必死に舌を絡め、さらに深く喉を開こうとする。
熱を帯びた肉は脈打ち、僕の腰が無意識に揺れる。喉奥を擦る感触が強烈すぎて、限界が迫る。
「……くっ、もう……」
赤い瞳が潤んで僕を見上げる。切実な願いが滲むその目に、思わず喉奥で声を噛み殺した。髪を掴んで引き上げ、顎をぐっと固定する。
「上向いて。そう──いい子だ」
汗ばんだ掌で頬を支え、赤い瞳を真っ直ぐに絡め取る。喉を開いたまま固定し、逃げ場を奪う。
「ちょっとだけ、我慢できるね」
喉の奥へと深々と突き込む。奥を押し広げる感触に、痙攣するように全身が震える。
潤んだ瞳から涙がこぼれ、赤い瞳は必死に僕を追い続けている。
「……そう、まだ……僕が許すまで……絶対に」
Bはその言葉に、さらに執着を深めるように身を預ける。
顎をしっかり固定したまま、僕は容赦なく喉の奥へと突き込んだ。
「んぐっ──! んぶっ、ぐっ……♡」
奥を押し広げられた瞬間、赤い瞳が大きく揺れ、Bの喉からくぐもった嗚咽が洩れる。
「……いい、えずいても。全部受けとめて」
涙が頬を伝い、必死に喉を開けて飲み込もうとする。その震えが直に熱へと伝わり、痺れるほどの快楽に変わる。僕は空いた指先で、Bの首筋をなぞりながら喉のあたりを軽く突いた。
「……ほら、ここまで入ってる」
首の奥を押さえつけられた感覚に、Bの身体がびくんと痙攣する。
「んぐっ、んんっ……んむっ、むぅ……っ♡」
喉奥に形を刻まれながら、苦しげな喘ぎと甘い声が交じり合って漏れ出していく。
僕は指先で喉の膨らみをそっと押さえながら、優しく囁いた。
「……苦しい? でも──まだ飲めるね?」
まるで慰めるような声音。けれど首をなぞる指先は、逃げ場を許さない。
「んぐっ……ごふっ、……んんっ♡」
赤い瞳に涙が滲み、喉がびくびくと痙攣する。
苦しみと快楽が入り混じるその震えを、僕は愉悦のまま見下ろしていた。
「……そう、いい子だ」
優しい囁きの直後、僕は一転してBの顔を押さえ込み、ゴツゴツと突き上げるように腰をふった。
「んぐっ……! ごぼっ、んんっ……っ♡」
赤い瞳が涙に滲み、喉奥を押し広げられた嗚咽が空気を震わせる。
やがて限界を超えた瞬間、白濁が一気に溢れ出した。
「……くっ……はは、鼻から垂れてるよ」
顎を固定したまま顔を仰向けにさせると、鼻筋を伝って粘つく雫がとろりと滴り落ちる。
その惨めで甘美な姿を見下ろしながら、僕は髪を撫でてやさしく囁いた。
「……いい子だ。ちゃんと受け止めたね」
赤い瞳は潤んだまま、羞恥に染まりながらも必死に僕を見上げている。
「ほら、口開けて。全部僕に見せるんだ……」
顎を掴んで上を向かせ、指先を唇の間に差し込む。舌に軽く指を押し当てると、熱を帯びた吐息と共に濡れた舌がわずかに震えた。
「んぇっ……♡」
「……そう。いい子だ。全部、僕に見せて」
濡れた舌の上を、僕の指先がゆっくりとなぞる。Bはわずかに身を竦め、涙に濡れた睫毛を震わせながらも抗えずに舌を差し出した。
「……そのまま」
指を押し広げるように差し込み、舌の奥を軽く押す。喉の奥がびくりと痙攣し、Bの赤い瞳が恥辱に潤む。
「んっ、んんっ♡……んっ!」
僕はその反応に口元を歪め、指先を舐め取らせるように前後へと揺らした。
「……全部、舐めて。そう……逃げるな」
Bは喉を鳴らしながら必死に従い、濡れた舌で僕の指を絡め取る。赤い瞳は羞恥と快楽に揺れながらも、忠実に従順さを示していた。
「まだ終わりじゃない。──もっと僕に奉仕できるね?」
指を舌の上から離すと、Bは荒い息を吐きながら赤い瞳を潤ませ、苦しげに息をつく。舌先に残る熱を恥ずかしげに震わせながらも、唇を濡らして小さく囁く。
「……Lの情報を……くれたら……っ。続き……してあげます……♡」
吐息に混じる声は、屈辱と渇望が入り混じったものだった。その赤い瞳は、恥辱に揺れながらも獲物を求めるように僕へと吸い寄せられている。
「そうだね……ご褒美をあげないとね」
頭に掌を添えて、優しく撫でる。指先に伝わる髪の感触は、不思議と甘美で、支配する快楽を強調する。僕は目を細め、しばし考え込むように視線を落とした。
「……さて、何がいいかな」
囁きながら額へ口づける代わりに、わざと唇を近づけて離す。欲しがっているものをすぐには与えない──焦らすように。
潤んだ赤い瞳が僕を追い続ける中、ふと声の調子を変えて言った。
「Lは──数百人の捜査集団だ、なんて噂されているのは知っているか?」
その言葉に、Bは小さく肩を落とし、息を吐く。
潤んだ瞳を伏せて、恥辱に濡れた声で答えた。
「……はあ……そんなの……知ってますよ」
赤い舌先を唇で湿らせながら、Bは諦めたように肩を落とす。
「私が欲しいのは、そんな表向きの建前じゃない……」
悔しげに囁く声が、甘い熱と混じって震える。
「他には?」
「……そうだな」
少し考えるふりをしてから、わざと軽く口にする。
「Lは……同じ服しか着ない、とかは?」
赤い瞳がぱちりと瞬き、呆れたように僕を見上げる。喉を震わせるようなため息混じりに、Bは答えた。
「……それも知ってます」
肩を竦め、唇を湿らせる仕草には、退屈すら滲む。僕はほんのわずか、眉をひそめて吐き捨てるように言った。
「……なんだよ」
「こっちのセリフですよ……しかし、こちらからも一つ──」
赤い瞳は湿り気を帯びたまま、じっとこちらを射抜いている。呼吸が荒く、熱に浮かされた声が喉の奥でかすかに鳴った。
「……いかせてくれたら……」
舌先で唇を舐め、わずかに笑う。
「……Lの……本名……教えてあげますよ」
空気がひりついた。
あまりに簡単に口にされた禁断の報酬に、思わず眉間がぴくりと動く。
冗談にしては度を超えている。だが、彼の声には、嘘か真か見分けのつかない熱が込められていた。
「……B」
呼びかけても、その赤い瞳は逸れない。むしろ挑発するように、潤んだ光を揺らめかせている。
「本気……なのか?」
問いかけた刹那、彼は艶やかに肩を震わせ、吐息混じりに笑った。
「ええ」
すると──空気が一瞬、凍りつく。
背後のドアに白いTシャツ。
「……聞き捨てなりませんね」
独特の姿勢で現れた男。
黒い瞳がこちらを射抜き、甘さのかけらもない声が響く。
「B。分かっているとは思うが、私の本名は絶対に口にするな」
冷たい命令のような言葉に、Bはくすりと笑った。
「……もし、私がキラに“本名”を教えたら──あなたは速攻で裁かれる」
言葉に込められた悪意と快楽が、部屋を満たす。赤い瞳は楽しげに揺れ、唇の端には歪んだ笑み。
「つまり……私の勝ちですね」
告げられるその言葉は、冗談ではなく確信を帯びていた。月は思わず息を詰め、Lは感情を見せぬまま目を細める。
赤い瞳の挑発に、僕はわずかに息を吐き、ハッキリと言い切った。
「僕はキラじゃない。だから裁けない」
その断言に、場の空気がぴんと張り詰める。
だがすぐさま、横から冷ややかな声が割り込んだ。
「──いえ。夜神くん、あなたがキラです」
「ま、またお前は、そんなことを……!」
苛立ちを隠さず声を荒げる僕をよそに、Lは一歩踏み出した。
その黒い瞳は僕ではなく、真っ直ぐにBを射抜いている。
「……私の本名が見えているんですね?B」
伸ばされた手が、そっとBの頬に触れる。
冷たいはずの指先に、不可解な温もりが混じっていた。
「ああ──見えている。くくくくくくくっ……」
頬に触れる手を受けながら、Bは狂気を宿した声で笑い出した。そして……口を開く。
「L、ロ──」
その刹那、Lの手が素早く動き、Bの口を塞いだ。空気を押し潰すような静かな圧力。
「……っふ、ふぐっ……!」
Bはくぐもった声を漏らしながらも、なお必死に発音しようともがく。喉奥で押し殺された声が、どうにか形をなそうと震える。
「……ロー、ライ……んぐっ」
無理やり吐き出そうとする声。だがLは口を覆う手にさらに力を込める。黒い瞳は微動だにせず、ただ冷徹にBを封じ込めていた。
「……言ってはいけませんよ、B」
短く、鋭い声。その静けさが、かえって圧倒的な恐怖を纏っていた。
今度は冷徹な響きではなく、低く柔らかな囁きが耳元を撫でた。その声は命令というより、呪縛のように静かに染み込んでいく。
「約束、忘れたんですか」
塞いでいた手はゆっくりと形を変え、口を覆う圧から頬を包む拘束へ。
冷たいはずの指が、奇妙に優しく触れ、逃げ場を奪う。
「……ふ、ふふ……」
Bは息を吐きながら、赤い瞳を細めた。囁かれるたびに、その瞳の奥で甘美な狂気がさらに膨らんでいく。
「……Lが、抱いてくれるなら……黙っててあげますよ」
「……B……」
それでも黒い瞳は逸らさず、ただまっすぐBを見据える。
「病みつきになっていませんか?」
淡々とした口調の奥に、微かなため息が滲む。
「んふふ……どうでしょうね?」
拘束されながらも、Bは甘美な愉悦を含んだ笑みを浮かべた。まるでその困惑さえも、快楽に変えてしまうように。
☾ ☾ ☾
ベッドが激しく軋んだ。
――ぎし、ぎしっ。
「……っ、あ、ぁっ……!」
赤い瞳を潤ませながら、Bの喉から漏れる声が重なる。
「っ、は、あ、あぁ……っ!」
ぱん、ぱんっ。
皮膚が打ち合う乾いた音が、部屋に響く。
三度目の震えの合間、Bの唇が震えた。
「……ロー……ライ……ッ」
言葉の先が紡がれる前に、Lの手ががその口を塞ぐ。
「……っん……!」
声が喉奥に押し込まれ、くぐもった声が漏れた。
──ぎし、ぎしっ。
──はぁ、はっ、はっ……。
その全てを、夜神月はベッドの隅で聞いていた。
視線を逸らし、爪がシーツを握り締める。
耳にこびりつく音から逃げられず、胸の奥を焼かれる。
は……恥ずかしい……!
何を見せられているんだ、僕は……。
頭では拒絶しているのに、意識はどうしてもそこへ向かう。
Lに……あんなふうに、打ち付けられて……もう……全部、入ってる……。
想像してしまった瞬間、喉が詰まる。
僕は……あそこまで、届かないのに……。
「っ、」
月は頭を振る。
(だめだ、考えるな。見るな……! 見たら……っ、欲しくなる……っ)
頬が熱を帯び、呼吸は乱れ、指先が小刻みに震えていた。
視線を逸らすはずが、気づけば月の赤みを帯びた頬は真正面を向いていた。
──とろん。
濡れた瞳が、抑えきれぬ熱に揺らめく。
Lはその顔を見て、ふっと口の端を持ち上げた。
「……夜神くん」
囁きは低く、挑発の甘さを含んでいる。
「そんな顔で見て……あなたも、抱いてあげましょうか」
月の喉がひくりと震えた。
「……っ……」
言葉は出ない。だが、どうしようもない渇き。
ほしい、ほしい、ほしい……。
Lがほしい……。
Lが、Lが……Lが……。
「……夜神くん」
Lはゆっくりと手を伸ばし、ちょいちょいと指を曲げる。
拒絶を許さぬ導き。黒い瞳が真っ直ぐに吸い寄せる。
「……こちらへ」
その瞬間、月の胸の奥で何かが弾けた。
「……え、L……っ」
声は熱に震え、理性を突き破る。
気づけば身を乗り出し、唇が激しく重なっていた。
☾ ☾ ☾
──ちゅっ、ぐっ……。
舌と舌が絡み合い、互いを貪るように深く。
呼吸が焼き付き、喉の奥まで甘美な痺れが広がっていく。
「……っん、ぁ……っ……」
押し潰されるような口づけに、月は抗えず全てを委ねた。
熱く、激しく、ただ欲望に呑まれて。
そして──その光景を、ベッドの上でじっと見ている存在があった。
──B。
「……くっ、ふ、……ふ、ふ……っ」
笑おうとした唇が震える。
頬がぴくぴくと跳ね、全く笑えてない。
その顔には確かな嫉妬。
Lの袖を握り締めた指先が白くなり、視線がLと月を射抜くように揺れていた。
「……夜神くん……もっと」
Lの囁きは甘い罠のように低く、確信に満ちていた。
そのまま首筋に唇を落とし、噛みつくように跡を刻む。
「──っ……ぁぁっ……!」
月の声が裏返り、喉を震わせる。
腰を引き寄せられ、身体ごと飲み込まれるように絡め取られていく。
──ちゅっ、ぐっ、ちゅうう……。
濃密な水音が途切れなく響き、部屋の空気を熱で満たした。
「は……っ、L……もっと……っ……!」
月の潤んだ瞳が必死に見上げる。
Lはその視線を受け止めながら、ちらりと横目でBを見やった。
まるで見せつけるかのように、 いや違う──「月は誰にも渡さない」と言うように。
Bの胸を、嫉妬が焼いた。
「……っ……L……」
赤い瞳が揺れ、堪えきれずにLへ手を伸ばす。
しかし──
Lは肩に手を置こうとしたBの手を迷いなく払った。
いっそべしん!と叩き落としてくれた方が良かった──Lは邪魔なものでも払うかのように、手の甲で追い払うように払い除けたのだ。
邪魔だ、大人しくしてろ、動くな──と言われることもなく、Bの手すら見ず、まるで取り残されたような気持ちに余計Bを煽っていく。
「……っ……ん……っ……」
堪えきれず、Bは自分から腰を動かしてみる。
だが、うまくいかない。
むしろ──わざと浅いまま、深く届かない位置に留められている。
「……ぁ……っ……!」
少し動けば、かえって離れてしまう。
求めても届かない。掴もうとした瞬間に零れ落ちる。
わざとなのか、本気なのか。
Bの胸を焼く焦燥は、答えの見えないまま、熱と渇きだけを増していった。
「夜神くん」
「……んっ?」
低い声で名を呼ぶと、Lは月に視線を落とした。
「……服、脱げますか」
「……っ……」
月は目を泳がせ、羞恥に頬を染める。
「あ、ああ……」
震える指先でボタンに触れ、ぎこちなく一つ目を外した。
「……ぇ、L……、っ、はっ、はあっ……」
抗うように言葉を紡ぐが、その声音は弱々しい。
Lはゆっくりと手を伸ばし、月の手をそっと退けた。
「無理はしなくていい。私が……外します」
優しい指先が布を滑り、ボタンを一つひとつ外していく。
その仕草は穏やかで、どこまでも慈しみに満ちていた。
──対して、自分はどうだ。
置き去りにされ、視線すら向けられない。
胸の奥に渦巻くのは、嫉妬と狂気の混濁。
「……っく……っ」
Bの赤い瞳がぎらつき、体が勝手に動いた。
片足を持ち上げ、Lの胸を軽く蹴りつける。
「……B……?」
蹴りは本気ではない。ただ、訴えるような衝動。
──こっちも構え。無視するな。置いていくなと訴えるように。
言葉にせずとも、足先の一撃がその欲望を雄弁に語っていた。
「蹴らないでください」
Lは静かに告げると、またBの足を払い除けた。
「……っ」
それでもBは諦めきれず、今度は強く足を振り上げる。
ガシッとLの胸を蹴りつけた。
だが──
Lはその足を振り払っただけで、注意すらせず。反応も、言葉も、何もない。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
次の瞬間、Lは迷いなく夜神月を押し倒していた。
「……っL……!」
潤んだ瞳で訴える月を、優しい手つきで抱きしめる。
唇が触れ合い、舌が絡む。水音と甘い吐息が重なり、部屋の空気は濃厚に染まっていく。
「……さっき、Bにしていたこと──夜神くんにもしてあげましょうか」
耳元に落ちる囁きに、月の背筋がぞくりと震えた。
顎をそっと掴まれ、視線を逸らすことを許されないまま、喉を指でなぞられる。
「ここまで……いや、ここまで入る」
喉仏よりも下をつん、と押される。
イメージだけで喉が押し広げられる感覚が蘇り、月は思わず身を震わせた。
「……ここまで犯されてみたいですか?」
吐息まじりの言葉に、頭の奥で熱が爆ぜる。
「……っ、あ……っ♡」
ぐり、ぐり、とLの指が月の喉仏よりも下を押し込む。
「……や、やだ……っ」
月はかすれた声で否定をもらすが、潤んだ瞳は抗えない熱に揺れていた。
「怖気付きましたか?」
淡々とした声音。だが、その黒い瞳は逃がさない。
「……顔は欲しそうに見えますけど」
「ちが……っ……」
否定の言葉は、耳元に落ちる囁きにかき消される。
「──本当は、私に犯されたいんでしょう?」
喉を押さえられたまま吐息を浴びせられ、月の背筋がびくんと震える。
熱に浮かされた顔を逸らそうとした瞬間──
「……夜神くん。目を逸らさないで」
顎を掴まれ、完璧な支配に絡め取られる。
「あなたにはまだ、早いかもしれませんね」
低く甘い煽りに、月の唇がわななく。
「……っ、……♡」
その光景を横目で見ながら──Bは自分の首筋へ手を伸ばしていた。
指先で喉をなぞり、ぐっと押し込む。
「……ここまで……入るのか」
小さな声が漏れる。
赤い瞳が潤み、想像の中で喉奥を貫かれる感覚に身を震わせた。
だが次の瞬間──Lの黒い瞳と月の潤んだ視線が絡み合い、互いに熱をぶつけ合う姿がBの視界に飛び込む。
唇を近づけ、囁き合い、触れ合う。
目の前で繰り広げられる「自分の欲しかったもの」。
「……あぁ」
喉元を押さえていた手が力なく落ちた。
熱に浮かされるはずの心臓が、すうっと冷えていく。
赤い瞳は逸らされ、唇が歪む。
──欲望よりも先に、萎えてしまった。
「もういい……」
枕をぐいと抱き寄せ、そのまま顔を埋める。
「……っ……」
小さく肩が震えたかと思うと、暫くするうちにそのままBはうとうとと眠りに落ちていった。
嫉妬も狂気も、夢の中へ置き去りにして──
☾ ☾ ☾
──ぐっすりと眠り込んでいた。
朝早かったせいか、枕を抱いたまま、子供のように浅い寝息を立てている。
だが──突然。
「……っ……!」
頭にずしりと重みがかかった。
目を見開く。
視界の隅に写ったのは冷たく見下ろす黒い瞳。
……L。
彼の足が、Bの顔をしっかりと踏みつけていた。
「……一回は一回です」
彼の足が、Bのこめかみを正確に、確実に踏みつけるように押さえつけていた。
軽くではない。乱暴でもない。けれど、逃げられぬ圧力で頭蓋をベッドに縫い止める。
「……頭を踏むなんて……あんまりじゃないか……っ」
掠れた声で、かすかに抗議する。
「……南空ナオミですら……顔までは踏まなかったのに……」
その言葉は、恨みの棘を装っていながら、どこかで甘えているような響きを帯びていた。
まるで「比べてみせる」ことで、少しでも圧を和らげようとする軽いジョーク。
「…………」
しかし──Lの瞳は揺れない。無言で踏まれている。本気の支配の視線が、冗談すら踏み潰すように突き刺さっていた。
じわじわと血流を奪われ、耳の奥で脈が荒れる。
──これ以上の屈辱はない。
あのLに、顔を。しかもこめかみを、正確に踏まれている。
嘲笑されるよりも、殴られるよりも、この“無言の支配”は残酷で、何倍も屈辱だった。
喉の奥でかすれた声が洩れる。
「やめろLッ……」
ぞくぞくとする反面、これは最大の屈辱だ。だが同時に、Lだけが与えられる“絶対の支配”の証でもある。
屈辱はある閾値を超えると、快楽に変わる。
──もっと、もっと強く。
こめかみを踏む足に力がこもるたび、頭の奥で痺れるような熱が弾ける。
(……いい、もっと踏み潰せ……!)
しかし次の瞬間──Lはふと戸惑ったように視線を落とし、ほんの僅かに力を緩めてしまった。
「……っ」
その瞬間、Bの胸に広がったのは期待の裏切り。
一気に全身から熱が引き、快楽は冷めていく。
そこに残ったのは、空虚と、そしてどうしようもない怒りだった。
「どけッ……L……」
最初はぞくりとしたが、今は逆に鬱陶しい。
Lの足はなおもこめかみを押さえつけ、動かない。
その横で、夜神月が小さくビクッと震える。
──ふっ。と目を細めてLが笑ったその瞬間、その顔に逆上した。
「──殺すぞ」
低く吐き出された言葉に、場の空気が張り詰める。
Lは数秒、無表情のままBを見下ろしていた。
やがて──彼はそっと足をどけた。
圧が抜け、こめかみに鈍い痺れだけが残る。
「……殺す、なんて。物騒ですね」
そう言って肩をすくめるLの声は、いつもの淡々とした調子に戻っていた。
まるで何もなかったかのように、軽くおちゃらけている。けれどその黒い瞳の奥には、ほんのわずかな愉悦が潜んでいた。
──やりすぎたことを理解していながら、遊んでいるのだ。
Bの怒りと震えを、確かに楽しんでいる。
──なんて変態だ。
Bの胸を焼いた怒りは、次の瞬間、逆に好奇心へと変わっていた。
支配と嘲弄をこんな形で両立させるなんて──しかも、Lは無意識だ。
屈辱は確かにあった。けれどそれ以上に、「この変態のさらに上に行きたい」という衝動が芽生える。
──Lを、超えたい。
この異常なやり口すら、自分のものとして追い抜いてみせたい。
屈辱と怒りと好奇心が混じり合い、頭の奥で不気味な熱となって渦を巻いていた。
「さあ、B……次はあなたの番です」
淡々と告げるLの声。だが、踏まれてなお性行為に及ぶほど、Bは安直な変態ではない。
冗談じゃない。ふっと視線を逸らした瞬間──横合いに異様な光景が目に飛び込んだ。
「……ひゅー……ひゅー……♡」
荒い呼吸を繰り返し、肩を震わせる夜神月の姿があった。
胸元から下、ドロドロに濡れ、精液の匂いが室内にこびりついている。
濡れたまつ毛の隙間からのぞく瞳は半ば裏返り、焦点を失っている。白く濁った雫が喉元から胸へと垂れ、粘りつくように皮膚を這う。
指先はかすかに痙攣し、握ろうとしても力が入らない。それでも腰だけが小刻みに痙攣していて、まるで快楽の残滓を拒めないようだった。
「……あ……っ……♡」
掠れた声に甘い震えが混じる。
それは敗北の吐息か、なおも欲している証か──見分けがつかない。
乱れきったその姿は、淫靡でありながら同時に残酷な美しさを孕んでいた。
ぞくり。
その淫靡な残骸を前に、Bはふと己の胸の奥がざわめくのを感じた。
背筋を撫で上げるような寒気と、抗いがたい熱が同時に走った。屈辱の果てにあるはずの姿が、なぜか甘美な未来像のように心に焼きついて離れない。
今はどういう顔をすればいい?
どの感情が正しい?
──笑うべきか、拒むべきか。
だが瞳の奥で芽生えた衝動は、どちらでもなく──ただ見たい、知りたいという好奇心だった。
(もし、LがBを抱いたら ……Lはどうするのだろうか……夜神月よりも深く、もっと壊してくれるのか……?)
想像するだけで喉が乾く。
快楽に沈む夜神月の姿が、次は自分かもしれないという予感と重なり、身を震わせる。
Bは無意識のまま、口角を上げた。
あまりに異常で、あまりに純粋な欲望に染まった笑み……。
「……何ニヤけているんですか」
すぐ傍で声が落とされる。
冷えた刃物のような声。黒い瞳がBを見据えていた。
「……やはり、あなたは危険すぎますね」
吐き捨てるように言いながらも、その声には揺らぎがあった。
Bが抱く欲望を──Lはすでに察してしまったのだ。
「そんな顔をして……私に壊されることを、望んでいるのではありませんか」
囁きに近いその言葉は、嘲りにも警告にも聞こえる。
「あっはははははは……気づいた、か?」
赤い瞳を細め、狂気混じりの笑い声を洩らすB。
Lはその顔を冷ややかに見つめ、低く応じた。
「……ええ。バレバレです」
言葉と同時に、Lの顔がゆっくりと近づいてくる。唇が触れ合う寸前──Bの呼吸が止まった。瞳がとろんと溶け、焦点を失いかける。頬は熱に染まり、無意識のまま唇がわずかに開いた。
だが、寸前でLは止まった。
触れることなく、その顔をまじまじと凝視する。
「……………」
「……………」
「……………」
長い沈黙が、二人の間に落ちていた。
呼吸すらも絡み合うほど近い距離。Bの唇はかすかに震え、潤んだ赤い瞳が上を仰ぐ。
「…………L?」
掠れた声。期待と昂ぶりに震える問いかけ。
Lはその顔をじっと見つめたまま、冷ややかに口を開いた。
「……キス、してもらえると思いましたか?」
囁きは甘さを含んだ刃のようで、Bの耳を刺す。
期待を踏みにじるような問いかけに、Bの胸がぞくりと熱を帯びた。
「……ふ、ふふ……」
唇がわなわなと、笑いとも嗚咽ともつかない声が零れた。まるでその残酷さにすら、快楽を見出すかのように。
「……思いましたよ。だからこそ……今のLは、たまらなく意地悪だ」
くすぶるように笑うBを前に、Lは表情を変えないまま、黒い瞳を細めた。
一拍の沈黙。やがて淡々とした声が落ちる。
「……夜神くんに言われました」
「……?」
「あなたに干渉させすぎるのも、距離を離しすぎるのも──よくないと」
囁きは穏やかだが、そこに含まれる意味は重い。至近距離で視線を絡めたまま、Lは寸分も動かずに言葉を続ける。
「だから今の私は……必要以上に踏み込まず、かといって突き放しもしない」
「っ……」
その静かな言葉が胸を貫いた瞬間、Bはぐっと奥歯を噛みしめた。
そんな──そんなの──
そんなのは望んでない──
けれど、頭のどこかで理解している。
それこそが“最適解”であることを。
Bはこれまで、ただ「Lを超えたい」という理由だけで、躊躇なく殺人を犯し、事件を作った。倫理も理屈も、Bにとってはどうでもよかった。超えるため、ただそれだけのために、人を手にかけた。
だからこそ、夜神月が言った言葉──「干渉させすぎても、突き放しすぎてもいけない」──その理屈が正しいと嫌でも分かってしまう。
夜神月が『Bを想って』『Bの為に』『BがBである為の──Bがオリジナルでいられる為の最適解』をLに告げたことも理解できる。結局それが、Lとの『程よい関係』を生むのだということも、痛いほど分かってしまう。
「……」
赤い瞳が揺らぎ、Bは唇を噛みしめた。
理解した瞬間、抑えていた何かがぷつりと切れる。
ぽろり──
ひと筋の涙が、頬を伝い落ちた。
「……っ」
Lの黒い瞳がかすかに見開かれる。
「び……B……?」
その瞬間、普段の冷静さは跡形もなく崩れ去った。
「……、……B……」
どうしていいか分からないとばかりに、あからさまにキョロキョロと周囲を見回す。
手を伸ばそうとして引っ込め、口を開きかけては閉じ、挙動不審。
情けないほど狼狽し、あちこちに視線を泳がせる。
「……あ、あの……」
情けないほど狼狽したまま、Lは机の上に視線を移した。そして、カゴの中に入った見覚えのある甘いものを見つける。
「……あ、甘いもの……食べますか?」
慌てて指先でドーナツをひとつ摘み、差し出す。
だがBは涙に濡れたまま、ふるふると首を横に振った。
「…………っ」
言葉もなく、ただ小さく左右に揺れる仕草。
Lはその拒絶にさらに焦り、目を泳がせ、落ち着きなく指先をもぞもぞと動かす。
キョロキョロと周囲を見回し、助けを求めるように視線があらぬ方向へと逃げる。
額にはうっすら汗が滲み、わなわなと震える指先。
その姿はいつもの論理的な探偵の顔ではなく、ただの不器用な青年にすぎなかった。
「……な、泣かないでください、困ります」
Lはしどろもどろにそう言いながら、恐る恐るBの頭へと手を伸ばした。しかし、その動きは慰めというにはあまりにぎこちなく、撫でるというより──ぬるり、ぬるりと奇妙に手のひらを這わせる。
「…………」
普通に撫でればいいものを、髪の毛を指先で摘まんで離したり、掌をすべらせて同じ場所を往復したり。一定のリズムもなく、まるで「撫で方」を知らない人間が、必死に真似をしているかのようだった。
「……っ、ふ、ふふ……」
涙で濡れた赤い瞳が、その不可思議な仕草に思わず細められる。笑うべきか、もっと泣くべきか分からず、Bの胸には新たな混乱が生まれる。
Bは袖でごしごしと涙を拭った。
その仕草さえも、どこか不器用でぎこちない。
「……泣いたのなんて、初めてですよ。いや、厳密には2回か」
赤い瞳が潤んだまま、ぼんやりとLを映す。視界が水に濡れたように滲み、輪郭が揺れる。
「……ふふ……目が潤むと……視界がぼやけて……」
そこで、Bはかすかに息を呑んだ。
涙に曇った瞳には──いつもなら必ず見えてしまうはずの寿命も、名前も、何ひとつ映っていなかった。
「……ただの……人間らしい視界が、見れた……」
ぽつりと零れる言葉。嘘でもない、ごく純粋な喜びが滲んでいた。
BはLの首へとゆっくり手を回し、自らの額を近づける。
そして、逆に──今度はBの方からLの頭を撫でた。
「……ありがとう」
囁きは小さく、笑みはかすかに震えていた。
けれどそれは、いつもの狂気とも演技とも違う、Bが初めて見せた“人間らしい”仕草だった。
☾ ☾ ☾
軋む音と共にベッドが揺れる。
押し殺したような、それでも甘さを滲ませた声がBの喉から零れ落ちる。
「……ん、あっ……♡」
瞳は熱に濡れ、意識の焦点を失いかけていた。
Lがさきほど告げた言葉──「干渉させすぎるのも、距離を離しすぎるのもよくない」──その理屈は理解している。
けれどBは、理屈ではなく本能で願っていた。
(……もっと……もっと近くに……)
心も、体も、すべての境界を壊してほしい。
距離なんて一切なくして、ずっとこのまま──
「……L……もっと……っ」
掠れる声に、Lは一瞬視線を落とした。
しかし次の瞬間、腰を深く打ち付ける衝撃がBの奥を貫く。
「……っ、あ……♡」
深く突き上げられる衝撃に、Bの身体は震え、声が漏れる。
必死に爪を立てながらも、赤い瞳は涙で濡れてLを見上げていた。
「……あなたが欲しいものは、分かっています」
淡々と落ちる声に、Bの胸がぎゅうっと締めつけられる。もっと強く、もっと壊してほしいのに──
「……でも、堪えてください」
Lは囁くように告げながら、わずかに動きを緩めた。優しく、深く、けれど壊すほどには打ち込まない。
「激しくすれば……あなたは壊れてしまう」
冷たい理屈と共に、それでも確かに寄り添うような声。
「だから……っ!」
Lの声が胸を刺すように響いたその瞬間──腰がぐっと深く沈み込み、奥まで容赦なく押し込まれる。
「……っあ、あぁ……♡」
Bの身体がびくりと跳ね、赤い瞳が潤みながら大きく開く。甘い吐息が漏れ、喉の奥から押し殺した声が零れ出す。
冷たい理屈のはずなのに、そこに滲むものは確かな“保護”。
震える吐息がBの頬をかすめた。
「……私は、あなたを失いたくない」
黒い瞳が、揺るぎなくBを見据えていた。
その声音は淡々としているのに、押し込む腰の動きは必死なほど深く──
まるで、自分から離さないと証明するように。
「そう──Aのように、あなたを失いたくない」
低く落とされたその声が、Bの心臓を直接掴んで離さない。
胸を締めつける熱と寒気が交錯し、息が詰まる。
「……私のせいで、またひとり……またひとり……いなくなるのは、もう見たくない」
そのまま──Lの動きが変わった。
深く突き壊すのではなく、浅く、何度も。
「……っ、あ……っ♡」
擦り上げられるたび、Bの奥で快感がじわじわと広がる。
強烈な衝撃ではないのに、むしろその繰り返しが堪えきれない甘さを生んでいた。
「……はぁ、あっ……っ……ぃや、やだ……♡」
赤い瞳が潤み、涙と熱に滲む視界が震える。
Lの言葉が頭にこびりついたまま、身体は否応なく快楽に反応してしまう。
Lの呼吸が乱れはじめる。
その吐息は耳朶をかすめ、熱と震えを伴ってBの胸を満たした。
「……失いたくない……」
掠れた声が落ちる。
「……もう誰も……何も──」
その瞬間、抑えていたものが外れたかのように、再びぐっと深く奥まで貫かれる。
Bの喉から、ひきつるような声が漏れた。
「……っ、ああぁっ♡」
体の芯を震わせる衝撃。
快楽と痛みが混じり合い、涙で霞む視界が揺れる。
「……だから……!」
LはそのままBを強く抱き寄せた。
胸板に押し付けられる熱。
耳元に届いたのは、弱々しく縋るような囁きだった。
「……置いていかないでください……」
強く、けれど震える腕。
冷徹な探偵のはずの彼が、今はただ、失うことを恐れる一人の人間としてBを抱きしめていた。
弱々しい囁きに、Bは赤い瞳を細め、熱い息を吐きながらかすかに笑った。
「……置いていくのは、どっちなんでしょうね……?」
揺れる身体の奥で快楽に震えながらも、Bの声は確かだった。
「……あなたがあの家に来てから、ワイミーズハウスの“常識”は変わった。いつの間にか、子供たちは皆──Lを超えたいと願うようになった」
Lは息を呑み、瞳を揺らす。
Bはそれを楽しむように、喉を震わせた。
「……でも、私はあなたを置いていくことはない。Bはずっと前からいた。Lよりもずっと、ずっと、前に──“2番目”にいたんです」
吐息混じりの囁きが重なり合い、快感と共に胸を抉る。
「Lに近づけば近づくほど……蜃気楼のように遠ざかる。私たちはいつだって、手を伸ばし続けてきた。Lに近づいてるはずなのに……届かない。どんどん遠ざかってしまう……」
赤い瞳に一瞬、影が差す。
「でも……Aは違った。あいつはLに近づいた。極限まで──」
Bの声が震える。
「……けれど、耐えきれず……自殺した。……まさか、あいつが、あんな死に方をするなんて思いもしなかった」
「……っ……」
Lの黒い瞳が見開かれる。
その瞬間、Lの動きに余裕がなくなった。
「はっ……っ……あ……っ♡」
パンパンと響く音。
浅さと優しさを保とうとしていたはずの律動が、崩れていく。
Bの言葉が、心を突き刺して揺らしたせいで──Lはもはや理性を繋ぎとめられなくなっていた。
「……っ……はぁ、あ……っ♡」
崩れていく律動に、Bは赤い瞳を潤ませながら必死に声を絞り出した。
「……置いていくな、って言いたいのは……っ……こっちの方ですよ……っ♡」
腰を打ちつけられるたびに声が震え、涙混じりの吐息がもれる。
喉の奥で嗚咽が混じりながらも、Bは必死に言葉を繋いだ。
「……っ……L、手を……引っ張ってください……っ……♡」
「……っ……!」
「……あなたが……認めた一人を……ワイミーズハウスから……引きずり出して……っ……っ……♡」
パンパンと肌のぶつかる音が早まり、Bの背筋が跳ねる。
その中で必死に、赤い瞳を潤ませながら訴える。
「……私達は……“Lにはなれない”ッ……だから、っ……だから、私達が手を伸ばすんじゃなくて……っ、あなたが……手を差し伸べて……っ……♡」
パンパンと肌のぶつかる音が早まり、Bの背筋が跳ねる。
汗に濡れた白い肌が揺れ、赤い瞳は涙と熱で滲む。
それでも──いや、だからこそ──声を振り絞る。
「L……私を──」
小さな声で名を呼びながら、涙を伝わせ、唇を噛む。
そして最後の一言を、吐き出すように零した。
「私を──捕まえて……」
熱と涙に濡れたその囁きに、Lの胸が目が大きく揺れた。次の瞬間、腕をぐっと引かれた。
「──B!」
強く腕を掴まれ、次いで力いっぱい抱き寄せられる。
「……っ……!」
逃げ場を与えないような抱擁。
肩越しに感じる体温に、Bの赤い瞳は熱に溶け、ぐにゃりと力が抜けていく。
「……はぁ……っ……♡」
涙と吐息が混ざり、声は掠れて震えた。
けれど、その顔には陶酔の影が浮かぶ。
求めていたもの──置いていかないという証拠を、今や確かにLに掴まれた。
「──やっと捕まえました」
耳元で落とされた囁き。
それは勝利の宣告のようで、確かな熱を帯びていた。
Bの胸はぞくりと震え、強く抱きしめられたまま、甘く熱い吐息を漏らした。
「……Bの負けですね」
甘く零れるその囁きに、Lは一瞬の迷いもなく答えた。
「──はい」
短く、しかし揺るぎない声。
Bの赤い瞳が一層潤み、熱を帯びる。
勝ち負けの言葉が、ここではただ甘美な支配の証となっていた。
「……っ、あ……」
そのまま、唇が重なる。
深く、絡み合い、呼吸さえ奪うほどに。
「……っ、んむぅ……っんんっ♡ んっ、ふ……っ♡」
Bの舌は絡め取られ、涙と涎に濡れて震えていた。腰を突き上げられるたびに──
「……あっ♡ やぁっ♡♡ んぁっ……♡ はっ、はぁ……っ♡♡」
甘く切羽詰まった声が漏れる。
ベッドが激しく揺れ、交わる身体は乱暴に突き動かされ続ける。
「んっ♡ んあぁっ♡♡ やっ……あっ♡♡ そこっ……♡♡」
奥をぐっと抉るような衝撃。
Bの脚が痙攣し、爪がシーツをかき乱す。
「……あぁっ♡♡ L……っ、だめ……っ♡♡ も、もう……っ♡♡」
喉奥から嗚咽のような甘声が漏れ、限界が迫る。Lの唇は離れず、荒い呼吸も、震える声も全て呑み込むように塞ぎ続ける。
「っあ──♡♡ イくっ……♡♡ も、もぉおっ♡♡ イくぅっ♡♡♡」
最後の強烈な突き上げで、Bの身体は大きく弓なりに反った。
全身が痙攣し、赤い瞳が涙で滲み、口からは甘い悲鳴が零れる。
「──っああぁぁぁぁっ♡♡♡♡」
──絶頂。
身体の奥から一気に弾け飛ぶ快感に、Bは完全に飲み込まれていった。
限界を超える絶頂の瞬間、Bの身体は大きく跳ね上がり、そのまま力が抜けてガクッと崩れ落ちた。
赤い瞳はとろんと焦点を失い、意識は薄れていく。
「……Bっ」
Lはその身体を強く抱きとめ、ベッドの上で支える。熱と汗に濡れた髪をそっと撫でながら、静かに囁いた。
「──よく、頑張りましたね」
声は驚くほど柔らかく、慰めと労いが滲んでいた。冷徹な探偵ではなく、ただ隣に寄り添うLとして──意識のないBの唇からは、まだかすかな吐息と甘い声の残響だけが零れ続けていた。
☾ ☾ ☾
数時間後──
Lの腕の中で意識を失ったはずのBは、目を覚ますと何故か夜神月へと身を寄せていた。
汗で湿った髪を揺らしながら、赤い瞳を細めて、にいっと笑う。
「夜神月……やがみらいと……気に入りました」
ぎゅううぅっと抱きつかれた月は、思わず体を硬直させる。
「……な、なんで僕に……」
あんなに激しく抱いたのはLだったはずだ。
なのに、何故かBはLではなく自分にまとわりつき、甘えるように笑みを浮かべている。
月は眉をひそめ、腑に落ちない顔でBを見下ろす。
その向かいでLは、指を咥えたまま。黒い瞳を細めていた。
「……夜神くん。これはどういうつもりですか」
「どういうつもりって……僕に言われても……」
互いの視線が鋭く絡む。
しかも追い打ちをかけるように、月を監視するために用意された鎖は──なぜかLとB、二人を繋げていた。
「……それ、僕を監視するための鎖じゃなかったのか」
月はじとりとした視線をLへ向ける。
するとLは、指を咥えたまま淡々と答えた。
「そうですよ」
その声音は平板だが、どこか楽しげな影が潜んでいる。そしてわざと月を見ずに、Bへと視線を滑らせた。
「……ただし、今は監視ではなく──『逮捕』として、Bに繋げています」
「……っ……」
月は思わず言葉を失った。
監視ではなく──逮捕。
その言葉が、あまりにも不吉に響く。
Bは鎖をくいと引っ張り、くすりと笑った。
「……きゃはっ!……逮捕?ずいぶん愛のある仕打ちですね」
「……っ」
月の眉がさらにひそめられる。
Lは何も動揺せず、指先を口から外すと、冷えた声音で囁いた。
「夜神くん……どうして不服そうなんですか?」
Lの声は冷ややかで、しかし皮肉めいた響きを帯びていた。黒い瞳が月を射抜き、鎖をくいと持ち上げる。
「鎖が外れてよかったじゃないですか」
月の眉がさらにひそめられる。
Lは淡々と、けれどわざと挑発するように言葉を重ねた。
「それとも、私と鎖に繋がれてたいですか?」
「な、なっ……!」
月の顔がかっと赤くなり、唇を噛んでぷるぷると震える。
その反応を楽しむように、Lはほんの少し口元を歪めた。
「でも……夜神くんにこれは必要ないですよね?」
鎖をぽいっと投げ捨てて見せた。
かしゃんっ──。
「……私からは逃げられないんですから」
淡々とした口調に、底知れぬ重みが潜む。
月の胸に走ったのは屈辱か、それとも別の感情か──答えられぬまま、赤い顔で震えるしかなかった。
「くっ……Lの馬鹿……」
かすれた声が、鎖の重みを揺らすように漏れる。
──この鎖は、誰を縛るのか。
それとも、誰を解き放つのか。
鎖の軋む音が、三人の間に張り詰めた関係を告げていた──