テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
10,618
静かに、ピザを食べる。
さっきの出来事のせいで、妙に落ち着かない。
視線を上げると、すぐそこにノスフェラトゥがいる。
近い。
さっきよりも、ほんの少しだけ意識してしまう距離。
「……」
無言。
だが、空気は張りつめているわけじゃない。
奇妙な、静けさ。
そのとき。
ふと――
「……っ」
胸の奥が、引っかかる。
視線が、自然と止まる。
ノスフェラトゥの顔じゃない。
その“距離”。
近くに誰かがいる、という感覚。
それが――
「……あ」
浮かぶ。
誰か。
笑っている。
「……っ」
頭が、じんと痛む。
明るい声。
軽い口調。
「ほら、焦げるぞ」とか言ってくる。
勝手に食べようとして、怒ると笑う。
「……」
息が止まる。
「……なんだよ」
小さく呟く。
映像はある。
感情もある。
――でも。
顔が、ない。
「……っ」
手が、震える。
「……おい」
ノスフェラトゥの声。
「……どうした」
気づいている。
様子が変わったことに。
「……いや」
首を振る。
「……思い出しかけた」
絞り出すように言う。
「……誰か」
目を閉じる。
必死に掴もうとする。
「いつも笑ってて……」
声が、少しだけ柔らかくなる。
「周り、明るくしてて……」
断片は、確かにある。
大切だった。
それだけは、はっきりしている。
「……でも」
目を開ける。
「顔も……名前も、出てこねぇ」
沈黙。
ピザの湯気が、ゆっくりと消えていく。
「……」
ノスフェラトゥは、じっと見ている。
何も言わない。
ただ、観察するように。
「……くそ」
小さく吐き捨てる。
「そこまで出てんのに」
拳を軽く握る。
悔しさ。
苛立ち。
それ以上に――
「……忘れたくねぇのに」
ぽつりと。
本音が、こぼれる。
「……」
ノスフェラトゥの瞳が、わずかに揺れる。
その言葉に。
「……なら」
静かに、口を開く。
「焦るな」
「……は?」
意外な言葉。
「無理に引きずり出すな」
低く、落ち着いた声。
「壊れる」
短いが、確信のある言い方。
「……」
言い返せない。
「……その“感情”は残っている」
続ける。
「なら、いずれ辿り着く」
「……」
数秒、沈黙。
そして。
「……お前に言われると」
少しだけ、笑う。
「妙に説得力あんな」
「……そうか」
短く返る。
だが、その声は――
ほんの少しだけ、柔らかい。
「……」
pizza guyは、ピザを一口かじる。
さっきより、味がする。
「……そいつ、多分さ」
ぽつりと。
「俺のこと、名前で呼んでたんだろうな」
小さく、笑う。
「当たり前か」
自嘲気味に。
だが。
その言葉のあと。
ほんの少しだけ。
空気が、変わる。
「……」
ノスフェラトゥは、何も言わない。
だが。
その沈黙は――
ただの無関心ではなかった。
ふたりの間にある距離。
近いまま。
だが。
さっきまでとは違う意味を持ち始めていた。