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どこかモゾモゾして切ない感じがすごくいいですね…
⚠学パロ ⚠曲パロあり
ーーー
カツカツ
いつも通りの歩幅が合わない二人の足音。
合流してからまあ予想通り驚かれた。俺が楽しみにしていたことがバレてはいないだろうか…
変なところ心配症だとよく言われるがなんだか否定できない気がしてきた。
けれど、レトさんもレトさんで心なしかウキウキしているような感じがしたので俺もそんなことはサッパリと忘れていった。
そうだ。思い出した。忘れていたこと。
レトさんと二人きりなんだ。
友達と二人で来るのは変なことじゃないはずなのに嫌な汗が噴き出てくる。
「二人きり」ということを意識すればするほどなぜか達成感がじわじわと溢れてくると同時にニヤニヤが止まらない。
そう考えるとよく誘えたなぁとしみじみ、身にしみる。
あーやべ…泣きそう
そんな俺の気持ちもお構いなしにキョロキョロと屋台を見渡して「まずは食べ物だね」とはねるような声で言ってくる
「そうだね」
「じゃあね…綿あめでもいっときますか」
レトさんが指をさした方向には『わたがし』と平仮名で書かれた屋台ののぼりが見えた。
その屋台にはプリキュアや、サンリオ、仮面ライダーなど子供受けしそうなプリントの袋の中に綿あめが入っているお店だった。
「このアンパンマンいいじゃん」
「ホントだw」
俺がチョイスした袋はアンパンマン。うん。実に可愛いな。
レトさんはふざけながらもその袋の綿あめを買っていた。また、二人でのんびりと歩き出す。
こんな夏祭りの最後の花火大会の日
袋を開けておもむろに袋から一切れのわたがしを取りだす。
それを小さめの口へと運ぶ君はそうすると
そのわたがしを見てそれになりたいと思ってしまっている俺にこう告げた。
「楽しいね」
って
まだ来てから10分も経っていないはずなのにこんな幸せなことが起こっていいのだろうか
珍しく素直なレトさんに「そうだね」と俺も素直に返そうとした。
だが上手く言葉が出ずにコクリと縦に首を振り、頷いた。こんな肝心なときになって頭には沢山思い浮かんでいるのに、ぺらぺらと喜びそうな言葉を形に出来ない。
「……はぁ…」
聞こえないように溜息をついたつもりだったがバレていたようで少しだけ綿あめをちぎって「はい」と口の近くに持ってくる。
あーんと大きく一口頬張るとケラケラ笑って「そんなうまかった?」と聞いてきた。
その瞬間の楽しそうなひまわりが咲いたような笑い顔を見て
俺の「好き」という想いは器からどんどん溢れてきてしまう。
手をつなぎたい
そんな馬鹿らしい考えもでてきてしまって、きっかけなどを必死に俺が探しているとレトさんが急に手を引っ張る。
「ぅえ?!」
「しー……!」
レトさんが目配せをしたので俺も目を泳がせると例の付き合っている三人組がダブルデートならぬ、トリプルデートをしていた
「えー……」
「気持ちは分かるけど、今は黙って…」
「…はーい」
見たこともない三人の楽しそうな姿が二人とも眩しくてこちら側が恥ずかしくなってきたので逃げるようにその場を去って行くことにした。
ーーー
「ここまで来ればもういいよね」
「うん」
レトさんは息が切れていてつないでいた手をそっと振りほどく。
あのときの現場のインパクトが強すぎて手の感触なんてものは覚えていない
あー…チャンス逃したなぁ……
手を離した瞬間人混みの中に入ってしまった。
「レトさん!」
「え、ぅわぁ?!」
背景に紛れていくように
離れていく
消えていく
パシッ
「は?!」
絶望に陥らないようにしっかりと手を握る。
柔らかくはないし、骨張っている所もある。
だけどガラスみたいに壊れそうで
自分よりもほんの少しだけ小さいレトさんの手をどんな強さで握ればいいのか、俺には分からなかった。
多分俺の顔は真っ赤だ。レトさんの顔を見たくても、見つめれない。
あれ?こんな時、どうやって表情を変えたらいいんだろう?
反対の空いた手で自分の顔を触る。
その顔は予想を遥に上回り、口角が思い切り上がっておりニヤけているような形をしていた。
必死で口元を隠しながらレトさんを見ると、定番である夏の歌を音程が所々ハズレているが鼻歌で楽しそうに歌っていた。
時々こちらをチラチラ見てきて目が合う。
可愛い。
けれど、そんな行為に意味なんてない。分かってる。
…悲しいけど。
それから、ゆっくり射的で勝負したりなど、ゲーム癖がついているからか勝負ごとばかりして、食べて、の繰り返しをした。
レトさんがその度に笑顔をこぼす。
それを見たら、家に帰ったような安心感に包まれる。隣にずっと居るみたいだ。
けどそれも叶わない夢だから胸が
うるさい
痛い
もどかしい
ーーー
「迷子になったら困るから」
と、レトさんがいかにも怒りそうな理由をつけて屋台を回るごとに離して、また繋いでの繰り返しをする。
レトさんも渋々終わるごとにぎゅっと握り返してくれる。
そうすること約三時間経った頃だった。
「もうすぐ花火が上がるよ!」
元気な女の子の一声が聞こえた。
「……花火、見よう」
「せっかく…だしな。付き合ってやるよ」
人混みを避けて人がいない祠の前まで訪れる
そこに二人で腰を下ろす。
食後のデザート!と言って花火が上がる前に二人で購入したりんご飴といちご飴。
俺は自分のいちご飴をチロリと舐める。甘酸っぱくておいしい。
レトさんは手で直接掴んだのかと疑うレベルで手をベタベタに汚していた。
「どうやったらそうなるのwww」
「食べたらいつもこうなるんだよ!w」
花火が上がる
その時にレトさんのキレイな横顔を焼き付けるように見ていると
食べていた飴がキラキラと反射していてとてもキレイだった。
「綺麗…」
レトさんの目も輝いて、ポツリと呟いていた。
胸に針がチクリと刺さる。
花火にまで嫉妬してるのか?
この痛みをレトさんにも知って欲しいなぁ。
苦笑しながら冗談か本気かさえ自分にも分からないぐらいの事を考える。
駄弁る話題はいくらでもあるけど、きちんと会話が弾む話題は底についてしまった。
普通に喋ればちゃんと話題は切れないんだろうけどね。
花火が上がり終わって最後は決まって、別れの言葉で終わってしまう。
レトさんの家の前で。
ーーー
帰り道
もう一度、レトさんはわたがしを買っていた。おばあちゃんと一緒に食べるんだとか。
だけどレトさんは我慢が出来ずに帰り道に食べていた。
そうして最後までわたがしを口で溶かすレトさんに、わたがしを羨ましいと思っていた俺は言った。
「楽しいね」
って
「もう家につく頃だけど?」
レトさんの家の前につく。
最期の本当の一言。
俺はへらりと笑ってこう言う。
「バイバイ。レトさん。」
ーーー