テラーノベル
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朝、7時30分。
「……んん、あと5分……」
布団の中で、こさめはもぞもぞと寝返りを打った。
ピピピピピッ!
「んわぁっ!?」
けたたましいアラーム音に、こさめはびくっと飛び起きた。
「うぅ……もう朝ぁ……?」
スマホの画面を確認すると、家を出るまであと10分。
「……え?」
数秒の沈黙。
「やっばぁぁぁ!!遅刻する!!」
バタバタバタッ!
こさめは制服に着替え、鞄をひっつかむと、慌てて部屋を飛び出した。
いつもどおりの朝。
いつもどおりの慌ただしさ。
そして、いつもどおり――。
「こさめぇぇぇ!! 遅い!!」
玄関の外から、聞き慣れた声が響いた。
「ご、ごめぇぇん!!」
こさめは靴を履きながら、勢いよく外へ飛び出した。
そこには、腕を組んで待っているらんの姿があった。
「お前、毎朝毎朝よくそんなに寝られるな!?」
「だって眠いんだもん……!」
「開き直んな!」
「らんくん、朝から元気すぎない……?」
「誰のせいだと思ってんだよ!」
らんがこさめの頭を軽く小突く。
こさめは、えへへ、と笑った。
そんなやり取りも、もう何度目か分からない。
ふたりは、いつもの集合場所へ向かって走り出した。
「おはよー!」
集合場所に着くと、みことが大きく手を振った。
その隣には、なつ、いるま、すちが並んでいた。
「おっそ!何分待たせんだよ」
なつが呆れた顔をする。
「ごめんってばぁ!」
「こさめちゃん、また寝坊したの?」
すちがふわっと笑いながら尋ねた。
「……はい」
「ふふっ、こさめちゃんらしいねぇ」
「すちくんまでぇ!」
こさめが頬を膨らませると、みことが楽しそうに笑った。
「まあまあ!全員そろったんだからいいじゃん!」
「お前は甘やかしすぎなんだよ、みこと」
いるまがため息をつく。
「えー?いいじゃん、別に!」
「よくねぇよ。ほら、遅刻するぞ」
いるまが歩き出す。
「待ってよ、いるまくーん!」
みことが慌てて追いかけ、なつとらんも続く。
「こさめちゃん、行こっか」
「うん!」
すちに声をかけられ、こさめは笑顔で頷いた。
六人は、いつも一緒だった。
誰かが落ち込んでいたら、誰かがそばにいる。
誰かが失敗したら、みんなで笑って、最後には助け合う。
性格も、好きなものも、得意なことも違う。
それでも、六人でいる時間が好きだった。
この時間だけは、ずっと続く。
誰もが、そう思っていた。
昼休み。
「なつくん!その卵焼きちょうだい!」
「やだ」
「えぇぇ!?一個くらいいいじゃん!」
「自分の弁当食え!」
「じゃあ、こさめの唐揚げと交換!」
「……一個だけな」
「やったぁ!」
なつが唐揚げを差し出すと、こさめは嬉しそうに受け取った。
「こさめ、食べすぎると午後眠くなるぞ」
いるまが弁当を食べながら言う。
「大丈夫! こさめ、今日は絶対寝ない!」
「昨日も同じこと言って寝てただろ」
「うっ……!」
「数学の時間、先生に当てられて飛び起きてたもんな!」
らんが思い出したように笑い出した。
「らんくん!それ言わないでぇ!」
「しかも答え、隣のクラスの問題だったし!」
「みことくんまでぇ!?」
「ふふっ……あはは!」
すちもとうとう笑い出した。
六人の笑い声が、教室に響く。
「……なんかさ」
ふと、みことが箸を止めた。
「ん?」
こさめが顔を上げる。
「こうやって、みんなで毎日ご飯食べるのっていいよね」
みことは、少し照れくさそうに笑った。
「卒業しても、ずっとこうやって集まれたらいいなって思う」
「なんだよ、急に」
いるまが笑う。
「いいじゃん! そういう話!」
「俺は賛成!」
らんが手を挙げた。
「じゃあ、卒業しても定期的に集まること!」
なつが指を一本立てる。
「おー!」
こさめも手を挙げた。
「絶対だよ!みんな、約束だからね!」
こさめの言葉に、すちは優しく頷いた。
「うん。約束」
六人は笑い合った。
その約束が、いつか自分たちを苦しめることになるなんて。
このときは、誰ひとり想像していなかった。
放課後。
「なあ、今日どっか寄ってかね?」
らんが鞄を肩にかけながら尋ねた。
「いいね! こさめ、ゲームしたい!」
「またゲームかよ」
いるまが呆れたように言う。
「いるまくんだって、ゲーム好きじゃん!」
「……まあ、嫌いじゃねぇけど」
「ほらぁ!」
こさめが得意げに笑う。
「じゃあ、みんなでゲームセンター行こうよ!」
みことの提案に、なつが頷いた。
「いいんじゃね?」
「俺も行くー」
すちも手を挙げる。
「決まりだな!」
らんが笑顔で言った。
六人は肩を並べて、学校を出た。
夕焼けに染まった帰り道。
他愛のない話をして、笑って、ふざけ合う。
いつもと何も変わらない。
そんな、幸せな時間だった。
夕方、18時42分。
ゲームセンターで遊び終えた六人は、駅前で別れることになった。
「じゃあ、また明日な!」
なつが手を振る。
「またねー!」
みことも笑顔で手を振り返した。
「こさめちゃん、明日はちゃんと起きてね?」
すちがにこっと笑う。
「うっ……が、頑張る!」
「頑張るじゃなくて、起きろ」
いるまのツッコミに、みんなが笑った。
「じゃあね、みんな!」
こさめは大きく手を振った。
六人はそれぞれの帰り道へ歩き出した。
こさめも、鼻歌を歌いながら家へ向かった。
今日も楽しかった。
明日もきっと、同じような一日になる。
そう信じていた。
夜、21時16分。
「ふぁぁ……眠い……」
こさめはベッドに寝転がり、スマホを手に取った。
六人のグループチャットには、まだメッセージが飛び交っていた。
らん: 明日こそ遅刻すんなよ、こさめ
こさめ: しないもん!!
なつ: それ昨日も聞いた
みこと: 明日もみんなで登校しよー!
いるま: だから遅刻すんなって話だろ
すち: ふふっ、みんなおやすみ。また明日ね
こさめ: おやすみー!!
こさめは、スマホを胸の上に置いた。
「……明日も楽しみだなぁ」
小さく呟き、目を閉じる。
そのときだった。
ピロンッ。
スマホが、一度だけ鳴った。
「……ん?」
こさめは目を開け、画面を確認した。
知らないアドレスから、メールが一通届いていた。
件名は、空白。
差出人も、表示されていない。
「……迷惑メール?」
何気なく開く。
そこには、たった一行だけ書かれていた。
『お前たち六人は、本当に昔から友達だったのか?』
「……え?」
こさめは、画面を見つめた。
意味が分からない。
何のいたずらだろう。
そう思いながら、メールを閉じようとした。
しかし、その下に添付ファイルがあることに気づいた。
ファイル名は――。
『第六世代エージェント計画』
「……なに、これ」
指先が止まる。
開くべきか。
無視するべきか。
少しだけ迷ったあと、こさめは添付ファイルをタップした。
画面が暗くなる。
数秒後、一枚の写真が表示された。
そこに写っていたのは、白い部屋。
そして、その部屋の中で並んでいる――六人の子どもたち。
緑色の髪。
茶色の髪。
紫色の髪。
ピンク色の髪。
銀色の髪。
黄色の髪。
見間違えるはずがなかった。
そこにいたのは、幼い頃の自分たちだった。
「……なんで?」
こさめの声が、静かな部屋に落ちた。
記憶にない。
こんな場所、知らない。
こんな写真、見たことがない。
なのに、写真の裏側には、はっきりと文字が記されていた。
『被験者六名。記憶改変、完了』
「……記憶、改変?」
その瞬間。
画面が切り替わった。
新しい文章が、ゆっくりと表示される。
『真実を知りたければ、旧第七研究所へ来い』
『ただし――』
文字が、一度途切れた。
そして。
『仲間を信じるな』
「……っ」
こさめは息を呑んだ。
その言葉を見つめていると、スマホが再び震えた。
今度は、グループチャットからだった。
すち: みんな、明日もいつもどおり学校で会おうね
たったそれだけの、いつもと変わらないメッセージ。
こさめは、しばらく画面を見つめた。
そして、震える指で返信した。
こさめ: うん! また明日!
送信したあと、こさめはもう一度、写真を見た。
幼い六人の後ろに、何かが写り込んでいる。
写真の端。
壁に貼られた、古い名簿。
そこには六人の名前のほかに、もうひとつ名前があった。
しかし、その名前だけは黒く塗りつぶされていた。
「……七人目?」
こさめが呟いた瞬間、写真のデータが突然消えた。
画面には、エラー表示だけが残っていた。
『ファイルは削除されました』
「……うそ、でしょ?」
何度開き直しても、写真は戻らなかった。
部屋の中が、急に静かになった気がした。
今日、みんなで笑ったこと。
昼休みに交わした約束。
明日も一緒に登校しようと話したこと。
そのすべてが、頭の中を巡っていく。
――もし。
もし、あのメールに書かれていたことが本当なら。
自分たちの思い出は、いったい何なのだろう。
「……そんなわけ、ないよね」
こさめは、無理やり笑った。
「だって、みんなは……俺の大切な友達だもん」
スマホを伏せ、布団に潜り込む。
けれど、その夜。
こさめは、なかなか眠ることができなかった。
そして同じ頃。
暗い部屋の中で、ひとりの人物が端末を見つめていた。
画面には、こさめへ送信したメールの記録。
その人物は、小さく息を吐いた。
「……ごめんね、こさめ___。」
悲しそうに目を伏せたあと、端末に新しい文章を打ち込む。
『対象者こさめ、データへの接触を確認』
『計画を次の段階へ移行する』
送信。
画面に表示された名前は――。
_______。
「……これで、もう戻れない」
______は目を閉じた。
その頬を、一筋の涙が伝った。
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#sxxn
麗華

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コメント
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いやあ、最初はほのぼのした日常ものかと思ってたら、最後の一気呵成な伏線の畳みかけ方、痺れましたね……。「仲間を信じるな」と「七人目」の示唆、しかもすちの「明日もいつもどおり」が逆に不気味に響く。記憶改変ってワードが出た瞬間、一気に世界観が反転する感じがして、続きが気になって仕方ないです。