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萩原なちち
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「……どうしよう。水族館か、それとも動物園か……」
家に帰って一人、スマホと睨めっこをしている。カレンちゃんを遊びに誘いたいけれど、気の利いた誘い文句がちっとも見つからない。友達だけど、相手は女の子。変に意識しないで、自然に一緒にいられる場所がいいんだけど。
「……あ、アイコン。これ、カワウソじゃん」
なんで今まで気づかなかったんだろう。茶色多めの画像だったから、てっきり自撮りか何かだと思っていた。
『今度の休み、水族館行かない?』
一通目のメッセージが、挨拶もなしにこれか。俺、友達偏差値が低すぎるかもしれない。
『いいですよ! りゅうせいくんたちも来ますか?』
うわぁ……。これ、どっちの意図なんだろう。みんなが来た方が変に意識せずに済むし、やっぱりその方がいいんだろうな。
『もちろん! でも、また蕎麦食って腹壊して、全員欠席しちゃったらごめんね?』
『はい! だいきさんは今回も、みんなからハブられますように!!』
「……っ、うわ、かわいい」
思わず声が漏れた。これって、また二人でお出かけしたいってことなのかな? もしかして、カレンちゃんも俺と二人きりで行きたかった……なんて。……いや、ちょっと先読みしすぎか、俺。
『ハブられるように頑張るよ(笑)』
よし! とりあえず約束は取り付けた。また初詣の時みたいに、楽しい時間になるといいな。あんまり期待しすぎてもカレンちゃんに失礼か。次は俺も、もっと盛り上げないと。
風呂にでも入ろうかと腰を上げたら、またメッセージの着信音が鳴った。スタンプでも送ってくれたのかな?
『髪を切ろうと思うのですが、だいきさんはショートカットはお好きですか?』
そんなの、もちろん大好きに決まってるだろ。ショートの似合う中性的でかっこいいお姉さんなんて、実は見た目だけなら一番のストライクなんだよ。
『めっちゃ好き。でもカレンちゃんの今の髪色と、ふわふわした感じも可愛くて好きだよ』
――あ。
送ってから、血の気が引いた。何これ、勢いでとんでもない彼氏面したキショい文を送っちゃった。既読がつく前に、一刻も早く取り消さないと……!
返事は来ていない。いけたよな? 間に合ったよな?
……いや、間に合っていなかった。
『スクショしました。アイコン、これにしていいですか?』
『ごめんなさい! なんでも言うこと聞くので、今のなしにしてください!』
『じゃあ、その次の休みは動物園に行きたいです』
『はーい、そんなことで良ければ……』
やばい。……めちゃくちゃ楽しい。
俺が願っていた通りの流れで、すぐに返信が来て、それをカレンちゃん側からリードしてくれている。
たった数分のやり取りがこんなに楽しくて、ウキウキするなんて。俺、こんなの初めてかもしれない。
♢♢♢
「おはよう、いつきくん。次の休み、カレンちゃんと水族館に行こうって話してるんだけど……いつきくんたちも来ない?」
「お、いいじゃん。りゅうせいに聞いてみるよ」
ロビーを通る時、もう一度カレンちゃんに直接確認しようと思ったのに、珍しく受付に二人ともいなかった。いつもは必ずどちらかが座っているはずなのに。
「おはよっす~!」
「おっはようございまーす! あれぇ? 何かあったんですかぁ?」
いっちゃんとりゅうせいの仲良し同期コンビが一緒に入ってきた。早速こっちに寄ってくるあたり、まるで大型犬だ。
「次の休み、カレンちゃんと遊びに行かないかって話してるんだけど……どう?」
「無理っすね。どうせだいきくんとカレンちゃんのイチャイチャを見せつけられるんでしょ?」
「え、珍しい! 絶対いっちゃんなら『行く!』って言うと思ってたのに!」
ちょっと食い気味に断られてしまった。俺、そんなにカレンちゃんとイチャイチャしているように見える?付き合ってもいないし、ましてや相手は女の子だぞ。
「いっちゃんが行かないなら、ただのダブルデートじゃん。二人で行くのと変わらないんじゃない?」
「確かに。いつきくんの言う通りだわ」
りゅうせいまで納得しているけれど、だからなんで「デート」前提なんだ。俺たちはあくまで友達。みんなでワイワイやりたいだけなのに。
「それより、受付にカレンちゃんもミレイちゃんもいなかったっすよね? 毎朝彼女たちを見るのを楽しみに出勤してくるのに」
「また社長室に呼ばれてるんじゃない? それか、奥さんにコスプレでもさせられてるとか!!」
「うわっ、見てぇ……! どうしよう、どんな衣装がいいかな」
若いやつの発想力は凄まじいな。俺なんて、普通に「体調を崩したのかな」って心配していたのに。……でも、もし本当にコスプレだったらどうしよう。
「ちょ、一回見てきます!」
「なんでコスプレしてることになってるんだよ。興奮しすぎ!」
笑いながらいっちゃんを見送ったけれど、今はその猪突猛進な原動力が助かる。病気じゃなければいいんだけど。
「カレンちゃん、今日はなんか有給をとっているらしいっす。ミレイちゃんが言うには、なんかの資格を取るためになんかの勉強してて、なんか試験が近いからじゃないかぁ……って、なんか言ってました」
「『なんかなんか』って、ふわっとしてるな。どうせいっちゃん、話聞かないでミレイちゃんの顔しか見てなかったんだろ?」
「え!? なんでわかるんすか!? だいきくん、超能力者かなんかっすか!?」
女の子成分をチャージして、いっちゃんが目に見えて元気になっている。本当に俺とは真反対で、女の子にしか興味がないんだな、あいつは。
でも、よかった。
体調が悪いわけじゃないとわかって、心の底からホッとした。