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「私、ボディガードも兼ねていたと申し上げましたが、他のお二人は如何ですか?」
すると照中さんは取り繕うように笑った。
「私はそういったものはまったく……。人脈ならあるのですが」
彼が答えたあと笹島さんはしばらく沈黙し、焦れた岩淵さんが「笹島さんは?」と尋ねられて初めて、私たちのほうを見て窺ってきた。
「この問いに答えてもよろしいですか?」
「お願いします」
尊さんが言うと、笹島さんは岩淵さんを見ず、私たち面接官のほうを向いたまま答えた。
「履歴書に書いてあります通り、合気道八段、師範です」
すごーい!!
私は心の中で猛烈な勢いで拍手をした。
岩淵さんは悔しそうに表情を歪め、ゆっくり椅子に座り直す。
「他にありませんか?」
尊さんはもう一度三人に尋ね、返事がないのを確認したあと頷いた。
「それではこれで面接を終わります。ご退室してください」
彼が言ったあと、三人は立ちあがり、一礼をしてから退室していった。
「はぁ……」
私は溜め息をつき、テーブルの下で手を組んで静かに伸びをする。
尊さんは人事部長や秘書室長と確認し合い、「決まりですね」と言っていた。
……うん、私も決まりだと思う。
その後、私たちは面接会場をあとにして、一旦副社長室に戻ったあと、ランチをとる事にした。
「おーっす」
社食に行くと出入り口付近に恵がいて、私の姿を見ると手を上げて声を掛けてきた。
「面接してたって? お疲れさん」
「ありがと」
今日のおすすめは何かな? と掲示を見ようとした時、ヒソヒソと「上村さん……」と言う声が聞こえ、私はハッとそちらを見る。
(わ……)
すると島流しになるらしい、総務部の三人と、取り巻きらしい人たちがチラッとこちらを見ていたところだった。
「朱里、気にしたら負けだよ。どうせあいつら処分受けるんでしょ。朱里は被害者なんだし、堂々としてなって」
恵は耳元でボソッと言うと、「何食べようかなー」と少し大きめの声で言う。
彼女の言うとおりだし、ここで動揺すれば相手の思う壷だ。
分かっているけれど、私は今日のおすすめを見ながら聞き耳を立てていた。
「お世話になったのにお気の毒に……」
取り巻きに言われ、南郷さんは溜め息をついて笑った。
「仕方ないよね。〝上〟のお気に入りを怒らせてしまったんじゃ」
「裏でどんな事をしても、いい子ぶってると周りからの受けがいいんだろうね」
橘さんが言ったあと、年上の女性――多分、斎木さんが言った。
「私の息子が法学部を卒業してるから、この処分に問題はないか聞いてみようかなぁ……」
「うそー、優秀なんですね」
(裏ってなんだ……)
チベットスナギツネみたな顔をしてその会話を聞いていると、恵にドンッと背中を叩かれた。
「ほれ、行くよ。個数限定の手作りプリン、奢っちゃる。朱里はいつも通り大盛りパスタでも、大盛りカツ丼でもモリモリ食べなって。……夜に焼き肉あるけどね」
「うん……。ありがと。……大盛り食べても焼き肉は入るから大丈夫」
「……落ち込んでるように見せかけて、食欲は落ちないよね……。頼もしくて好きだわ」
恵はカウンターに向かう途中、彼女たちから私を庇うように右手側を歩いた。
なるべく気にしないようにしているのに、どうしても耳はヒソヒソ話を拾ってしまう。
チラッと彼女たちのほうを見ると、近くのテーブルに紗綾ちゃんが座っているのが見えた。
(私の事を応援してくれるって言ったのに、悪く言われてるのを聞かれて格好悪いな……)
私は物凄い恥ずかしさを覚え、腹いせに大盛りカルボナーラを食べようと決意した。
料理をトレーに載せた私たちは、彼女たちから離れた場所に座った。
「これから、謝罪会見があるんでしょ?」
「んふっ……、会見って」
「あいつらとは縁が切れるんだから、それでよしとしよう? もう二度と会う事はないんだからさ」
「そうだね。私は恵がいればいいや……。しゅきぴ」
「給料下がるからやめて」
恵がいつものようにクールに突っ込みを入れた時、テーブルの上に置いてあった彼女のスマホが震えた。
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