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『やれやれ……。どうやら彼等は、眼の曇った勘違いをしているようだ。君はどうなんだいノクティス?』
エンペラーはそんなエリミネーター達の結束を面倒そうに、それでも意に介さずノクティスへと振った。
「私は彼等の意見を尊重するのみだよ。創主として……彼等に全てを委ねたいと思う」
勿体振ってはいるが、つまり彼の返答は決裂を意味していた。
『そうきたか……。じゃあ交渉決裂。こちらも強行策で出るとしよう』
エンペラーとしても、どちらに転んでも構わなかったのか、あっさりと決裂の意を汲んでいた。
『それにしても、相変わらず残酷だねノクティス。本気で彼等が私を何とか出来ると、そう思っている訳でもないだろうに……』
「余り彼等を甘く見ない方がいい。君の悪い癖だ」
『単に実力だけの事を言っているのではないよ――まあいい。さて、何時やる?』
「時と場は此方で用意する。だからその間、これ以上の暴挙は控えて欲しい」
『……君との付き合いも長い。いいだろう、今回は君の顔を立てよう』
そして交わされる、二人の間での盟約。
今ここに狂座とネオ・ジェネシスの決戦が確約した。
これは単に裏の争いだけの問題には留まるまい。
『――では戦場で。今度こそ、君と私の“永き”に渡る決着をつけよう』
この闘いの勝敗の結果が、そのまま世界の命運を握っているのだ。
意味深な言葉を残し、エンペラーはモニターよりその姿を消したのだった。
王の間に何とも云えない空気が漂う。
「ハル。彼等との決戦の場の手配を」
「了解しました。超法規的措置により、全ての情報を一切シャットアウトした場を用意します。戦火の広がぬよう――」
エンペラーとの通信が途絶えた後、早速とばかりにノクティスと霸屡は、最終決戦の場の相談だ。
それは当然の成り行き。
「……待てや。まだこっちの話は何も終わってねぇぞ?」
だが納得いかない者達も居る。最初に声を上げたのは時雨だ。
ネオ・ジェネシスと闘うのはいい。彼等は最初っからそのつもりだったから。
「アンタは一体何を企んでいる? そこんとこ、こっちはまだ聞いてねぇ」
だが悠莉の事といい、隠しているだろう事が多過ぎる。
「そういう事だ。あやふやなまま、此方も動くつもりは毛頭無い」
同じく幸人も口を挟む。
「狂座の創主といえど、俺達は貴方の支配下に置かれたつもりは無い」
「そこの所はしっかりと説明して頂くのが、筋ではありませんか?」
薊と琉月もだ。
信用に足らないのは皆も同じ。不明瞭なままの気持ちでは闘えない。
「四人共、口が過ぎますよ? 今は仲違いしている場合では無い事は、承知している筈」
霸屡はそんな彼等を、正論で咎めた。確かにその通り――だが。
「いいんだよハル。彼等の言う事も尤もだ」
「しかしっ――」
ノクティスは目線で霸屡を下がらせる。どうやらある程度、訳を話すようだ。
「エンペラーであるユキの言う通り、その子……悠莉を彼が欲しがるのは無理も無い。彼女は特別にして、将来のSS級候補。ユキとしても自分に匹敵する戦力が欲しいのだろう」
ノクティスは玉座に座ったまま悠莉を指差し、その訳を語った。
「へっ、ホントにそれだけかね。エンペラーの野郎からは、戦力以前の問題に見えたんだがよ?」
当然、彼等にとってそれが納得出来る理由とは思えない。
戦力なら他に、何よりエンペラー自身で事足りる。
だがエンペラーは明確に、悠莉を己の上に置く事を匂わせていた。
「それでは納得出来ないかい?」
「ああ出来ねぇな。それに、匂うんだよ……アンタからは」
納得出来ないのか、こういう時、特に率先して事を荒立てる時雨の気質。
「傍観者を装いながら、茅の外で争い事を愉しもうってクズ共と同じような匂いがプンプンとよ!」
もはやこれは上司への暴言にも等しかった。
だがこれは誰もが思った事を、時雨が代弁したに過ぎない。
「…………」
それを受けたノクティスの表情に宿るは憤慨か。彼は肘掛け体勢を崩さぬまま、その瞳が妖しく眼下を見据える。
「フフ……」
ノクティスは微笑を浮かべる。
「頼もしい。やはりエリミネーターは、そうでなければね」
憤慨していたと思われたが、玉座から立ち上がるとノクティスは眼下を見据えながら讃えた。
「いや済まない。極論を言えば、悠莉は狂座の“正統後継者”だったと云う事」
「へっ? ボクが?」
これには悠莉のみならず、皆が驚いた。SS級候補処か、更にその上を見据えていた事に。
かつて二人の狂座の創主が特別視し、エンペラーが悠莉を欲しがる理由も分かる。
「私から言えるのはここまでだ。ただ一つだけ確かな事は、彼にその子を渡した場合、万に一つの可能性も潰えるという事」
ノクティスはそれ以上、語らなかった。何故悠莉がそれ程の影響を与えるのか、それは不明瞭なままだがとどのつまり、全てはネオ・ジェネシスを倒さねばならない事の一点に尽きる。
「いいだろう」
まだ理由としては弱いが、幸人が遮るよう詰め寄った。
「奴に悠莉を渡すつもりは無いし、奴等を生かしておくつもりも無い。予定通り、奴等は俺達が潰す」
狂座とネオ・ジェネシスとの決戦を承ったのだ。
「そうだな。アンタが何を企んでいるのか知らんが、ここは敢えて乗ってやる」
時雨も追従した訳でもないが、決戦には同意。
「奴等とケリを着けた後、もしあやふやなままでいようなら、その時は――」
幸人の言う意味。それは狂座もネオ・ジェネシスと同様という事。
「それでいい。全てが終わった後には、おのずと分かる」
先ずは目先の問題、ネオ・ジェネシスとの決着だ。
「この闘いは世界滅亡の危機として、狂座はこれをランクSSS(トリプルエス)依頼として定める――」
かつて狂座の依頼史上、一度たりとも無かった超特級措置。ノクティスは高らかに、そう宣言していた。