ザー、妨害……しま、す…ザザー……ブチッ
「ヒィッ。」
またこの夢。起きたときには何にも覚えてないけど、何か目覚め悪いんだよね。私は八神さんを起こさないようにソロリとベットから降りる。そして、私は見た。やっと、見れた。
「夢原さん!」
思わず大声を出してしまったのは許してほしい。でも、居たのだ。やっと戻ってきたんだ!良かった!私の声で飛び起きた八神さんも一瞬フリーズしたが、目をうるうるさせて夢原さんに飛びついた。
「ん、んん、あれ?だ…れ……?」
夢原さんがベットから起きて私達を交互に見つめる。ん?どうしたの?夢原っち。
「夢原さん?」
八神さんが心配そうに呼び掛ける。
「ん、あ、何だ。八神と黒葛原ね。」
夢原さんはベットから降りてぐーっと背伸びをする。その姿はいつも通りで変わった様子は無い。
「ね、ねぇ、大丈夫だった?変なこと……は、されたよね。とにかく大丈夫?」
「え、何?急にどうしたのよ。」
夢原さんが心配そうに訴えてくる八神さんを抑えながら私に「こいつ、頭うったんだじゃない?大丈夫?」と耳打ちする。が、どちらかというと今回は八神さんの肩を持つよ。でも、めんど…
「ど、どうして……う、うひっく……夢原ざあん…!よがっだああ!」
「うええっ!?どうしたの!?」
「大丈夫かと聞きたいのはこちらの方ですよ。」
流石に八神さんが可愛そうなのでフォローを入れる。てか涙目で訴えてきてる八神さんの眼差しに負けた。
「って黒葛原まで…?どうしたのよ?」
説明すんの面倒い。だけど、うん、八神さんの圧に負けたよ。話すよ、もう。
「何日間も帰ってこなかったので心配してたんです。何もされませんでしたか?」
「え…?なにもないわよ。それに………私は、」
ザーザー、ザザー、妨害し、ます。ザー……
「え…?なにもないわよ。それに………私は、」
駄目だ。それ以上言っちゃ駄目だ。
「待って。言わないで。」
多分、本音を言うのは初めてでは無いだろうか?本心から、というか私がこういうふうに話す事は無いし。でも、それでも止めなければならない。それが今私に出来る最善の策だ。
「ひっ!?や、やめ…」
冒険者たちが無惨に殺されていく。その元凶である僕は剣を鞘に収める。
「ふぅ…」
冒険者の人達には悪い事をした。古代遺跡なんて言うロマンで人を呼び寄せ自分の手で殺す。お陰で久しぶりにレベルが2つも上がったよ。でも……
僕は辺りを見渡す。これだけ殺して2つレベルが上がっただけ、か。僕はそんな事を思いながら死体の山を踏み、最下層へと降りていく。そう、ここは古代遺跡でも何でも無い、僕の知り合いが作った迷宮だ。
「ショウさん。」
大扉の前に立ったとき隣から声がした。あはは、僕の探知には何にも引っ掛からなかったんだけどな。その女性__シーナさんは僕を見つめて、「久し振り」と言い、その綺麗な髪を耳にかける。その姿は普通の人なら女神と言われても信じそうなほど綺麗だ。
「久し振り、シーナさん。」
まあ再会を楽しみたいところだけど今はここに入らないとね。多分、来てると思うし。僕は扉を開ける。まあ開けると言っても扉を砂に変えて消しただけだけども。
「シーナさん、あれって…」
扉の向こうは大広間となっていた。ひび割れも何も無い綺麗な壁と天井。そして真ん中に誰かが佇んでいる。
「停戦中だからって私達が動かないとでも思ったの?。」
シーナさんがそう呟き前へと進む。何故僕らがここに来たか、その答えを知るのはシーナさんと僕ぐらいしか居ない。あの戦争から何年が経っただろうか。停戦中だからと言って僕らが何もしなかったとでも?笑わせるな。
「ああ、そうだね。」
これが僕達の有利に働くかは分からない。でも、だからってたじろぐ僕らでも、無い。
「うん。」
シーナさんが短く返事をする。でもその瞳には強い信念が宿っていた。
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中心には幼女が佇んでいた。銀髪の髪を持つ幼女が。幼女は思った。私は死ぬんだと。母に振り回され貴族令嬢の身でありながら大変な目にあってきたと言うのに何てツいてないんだろうか。
「この子は私が預かる。」
澄んだ声。しかもこいつよく見なくても美人じゃ無い。何てことを考えて現実逃避してたんだけど、え、何?何て?
「え、どうして?」
「……かわいいから。」
「え?」
私がその場から動こうとしたとき、私の体に激痛が走る。その瞬間、私の意識は遠く彼方へと飛んでいった。
でも、その少しの瞬間見えたのだ。隣の私と同じぐらいの幼女を。その子も綺麗な子だった。でも、驚いたのはそこじゃない。この娘は__
シュルゲンワイズ王国、レルフィスト辺境伯家にて長く行方を眩ませていたイザベラ・レルフィストの娘、シルフィーナ・レルフィストの帰還の報告が僕の耳に入った。
イザベラ・レルフィストとは僕の伯母にあたる人だ。伯母、父、そして幼い時に行方不明になった叔父。伯母はその行方不明になった叔父を見つけ出すため至るところへと探しに出かけていた。父はそんな伯母に、何度も諦めようと言っていたが伯母は頑固として聞かなかった。そして、伯母に娘が生まれてからだろうか、何処かへと旅に出てしまった。勿論、娘のシルフィーナを連れて。僕はもう伯母の顔を思い出せない。それは双子の姉のナディアと同じだ。弟のアシュレイに関しては会ったこともない。
「父様。」
「ああ、ロバート。ナディアは?」
「さあ…。」
ロバートは僕の名前だ。父様が困ったように首を傾げる。
「ねーさまなら、おめかしなくちゃ!ってへやにはしっていきましたよ。」
「…アシュレイ。」
弟のアシュレイ。まだ4歳という幼さだというのにこの落ち着きと冷静さ。本当に僕の自慢の弟だ。
「何で止めなかったんだ。」
「すみません。でも、ねーさまはとめてもきかないでしょうとおもいまして。」
だからこそ、厳しく接する。ああ、弟可愛い。ちょっと焦ってる。可愛い。じゃなくて!そう、姉様は一体なにを…
「大丈夫、ナディアならちゃんと連れてきたわよ。」
「怖い怖い怖い怖い」
「ぜったいだいじょうぶじゃない。」
ありがとう、アシュレイ、僕達のかわりに代弁してくれて。姉様を首根っこ掴んで連れてきたのは母様だ。首根っこ掴まれてきた姉様は呪文のように「怖い怖い怖い」と言っているがもう無視で良いだろう。
「ハイン、例の子は?」
「ああ、一応、応接室に。もうすぐで来るだろう。」
「そう。」
ハインとは父様の名前だ。その父様は母様からそう言われ僕達の居た部屋のドアをチラリと見る。丁度その時ドアからノック音がし、執事の声がした。
「旦那様、シルフィーナ様がお見えになりました。」
「入れ。」
ガチャリとドアが開き執事と一緒に一人の少女が部屋に足を踏み入れる。
「え、えっと、はじめまして!私はシルフィと申します、じゃなくて!えっとシルフィーナ・レルフィストです!宜しくお願いします!」
入ってきたのは僕と同じぐらいの少女だった。大きなキラキラした金色の瞳に、青みがかった綺麗な銀髪の女神のような少女。
「まあまあ…!」
母様が頬に手を当てにっこりと微笑む。姉様は目を大きく見開きあんぐりとしている。父様はその空気に圧倒されて何だか小さくなっているような?
「あ、えっと、よく来てくれたね、シルフィーナ。歓迎するよ。だからそんなにかしこまらなくて良いんだよ?」
「は、はひ!」
その場に笑いが起こる。まるで先程のような少し弛緩とした空気が無かったように。でも、このとき僕は気づくべきだった。いや、気づいたとしても何も出来なかっただろう。それでも未来を変えることが出来たのかもしれない。自分の描いた理想の未来へ近づけたのかもしれない。でも、それは高望みだったとやっと思い知らされたよ。僕は恐る恐る後ろを向く。
「……クソッタレが。」
一粒の雫が地面で弾けた。
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シーユーアゲイン