テラーノベル
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パタパタと小走りをする音が聞こえ部屋の扉が開いた瞬間、全員の時が止まった。ネット上では時間停止系のAVは9割が嘘だという話がまことしやかに囁かれているが、もし、これがそのAVの世界であれば残りの1割に当たるだろう。長い沈黙の末、それを破ったのはミィだった。
「あんた彼女がいたの? 『元カノに振られてラブコメ作品が書けないよ~。』って泣きついてきたのに……。」
誰がミィに泣きついたって? むしろミィが勝手に俺の家をまるでシェアしているかのように使っているだけじゃねえか! と言いたかったが、ミィの顔を見ると眉毛がぴくぴくと動き明らかにキレていることがわかる。一方で紅羽を見ると、満面の笑みを浮かべ俺の方を向いた。紅羽のやつ……明らかにこの状況を楽しんでいやがる……。
「ミィちゃん、まず勘違いだ。こいつは俺の彼女じゃない。」
紅羽は俺に抱き着いて身体を密着させた。更に、俺の頬と自身の頬をくっつけてミィに対して上目遣いで話す。
「そうだよ~。僕と優斗は恋人同士じゃないんだ。もっと仲が良いんだよね~。」
そう言って俺の顔を掴み少しだけ唇を開き目を瞑る。いわゆるキス待ち顔と言うやつだ。俺は紅羽の手を払う。
「冗談はやめてくれ! 勘違いされるだろ!」
恐る恐るミィの方を向くと、ミィは半べそをかきながら歯を食いしばり、今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。
「今日も一緒のベッドで寝てあげようと思ったのに!」
ミィも誤解を招くような言い方はやめてくれ……。この場がますます混乱する……。
「そっか、優斗はミィちゃんにいつも慰められながら、同じベッドで眠っているのか~。じゃあ、今日は3Pでもする?」
紅羽も馬鹿なことを言っているんじゃねえ! 誰がするかよ! ミィは半べそを掻きつつも、まるでチンピラのような表情を浮かべ、俺と紅羽の顔を覗き込むように交互に見ながらガンを飛ばしている。
「一緒にラブホにまで泊まったのに! もう知らない! 勝手にすれば!」
ミィは肩を怒らせながらリュックを背負いドシドシと玄関に向かって歩き出した。紅羽はそんなミィの腕をつかむ。
「ごめんごめん。まさかメルラブのミィちゃんが優斗と同棲しているなんて思わなくて、思わずからかっちゃっただけなんだ。」
ミィは頭の上にはてなマークを浮かべたような表情のまま紅羽を見返す。
「え? 何で私がメルラブで働いていること――私のキャスト名を知っているの……?」
「よく見て――僕だよ僕。分からない?」
紅羽はウィッグを外す。ミィは舐めるように紅羽の顔を覗き込み、ハッとした表情を浮かべ目を見開いた。
「もしかして……ひーくん? アイさん推しの! ひーくんって女の子だったの?」
「逆だよ逆、僕はイベントで女装コスプレをするんだ。今度、冬コミがあるんだ。その時のコスプレの出来を優斗にチェックしてもらうために来たんだよ。」
そう……紅羽は博巳のコスプレネームで、実は有名な女装コスプレイヤーなのだ。ネット上では男の娘作家として有名で、中には博巳の作品をイベントに持参してサインを求める人もいる。紅羽こと博巳はニヤニヤとしながら俺とミィを交互に見た。
「でも驚いたよ。ミィちゃんと出会ってから1週間くらいしか経っていないのに、既にホテルにまで連れ込んで、今では毎日ベッドを共にしているなんて……。優斗って手が早いんだね。意外~。」
紅羽の時の博巳は、俺と女の子がいると女の子の事をからかい始める。もしミィと紅羽が鉢合わせたら、からかってくる紅羽に対してミィが面倒くさい返答をして、とんでもなく面倒なことになると思っていたんだが、その通りになってしまった……。俺は頭を抱えながら博巳を見る。
「あのな、信じてもらえないかもしれないけれど弁解をさせてくれ。まず、ホテルに行ったけれど何もしていない……。酔っぱらったミィちゃんを介抱するために立ち寄っただけだからな……。あと、確かに一緒のベッドに寝たりはするけれど、マジで手を出していないから……。」
ミィは何を怒っているのか頬を膨らませ、未だにムスッとしてそっぽを向いている。博巳は笑いを堪えながら「くくっ」と笑っていたが次第にこらえ切れなくなり「ワハハ」と大きな声で笑い俺の肩を叩いた。
「まあ、今のミィちゃんの反応と優斗の焦り方を見る限り、優斗の言葉を信じるしかないね。ただ、優斗はマジで甲斐性がないな――。もっとミィちゃんの気持ちに寄り添ってあげなよ。」
ミィの気持ち……俺としては十分にミィに寄り添っているつもりなんだけれどな……。博巳は人差し指で涙をぬぐいながら俺の顔を覗き込む。
「まあ、優斗くらいの方が、リアルなラブコメ主人公を作ることが出来そうだけれどね。」
そう話すとウィッグを付けなおし、ハンガーに掛けていたミドルコートを羽織る。そして後ろ手に手を振りながら玄関へと向かった。
「僕はもう帰るよ。これ以上食べると太ってコス衣装が入らなくなっちゃうかもしれないからね。優斗の新作、どんな作品になるのか楽しみにしているから。」
そう言って扉を閉める。部屋には膨れっ面のミィと食べかけのピザ。そして何とも言えない空気だけが部屋に残った……。
#長編
結愛
329
#地雷系
#夏休み
トド村
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コメント
1件
うわあああ第22話やばかったです😭💕💕 紅羽(博巳)がまさかの女装コスプレイヤーでしかもミィちゃんとも繋がってるの!?ってなるし、ミィちゃんの嫉妬&半べそ顔が可愛すぎてキュンとしました…! 「3Pでもする?」の紅羽のノリ、優斗の焦りっぷり、全部がラブコメの良いとこ詰め合わせすぎてて鼻血出そうになりました🩸笑 新作楽しみにしてるって去っていく紅羽、かっこよすぎでは…!? 次話も絶対読みます🔥