迷子になって、泣いていたカマルを無事にお姉さんの元へ送り届けることができた。
「じゃあ、俺はこれで!」
と、その場を立ち去ろうとしていた俺だったが、いきなりカマルがしがみついてきた。
お姉さんとやらが、しゃがみ込んでカマルを説得し俺から引き離そうとしているが、カマルはイヤイヤと顔をよこに振って、まったく聞き入れようとしない。
――やれやれ。
「よろしかったら私たちと一緒にまわりますか? うちの者なら言葉もわかるでしょうし」
「え、本当ですか。でも、カマルを送ってもらった上にこれ以上ご迷惑は……」
「な~に構いませんよ。俺もこれでは身動きが取れませんし」
足元でコアラ状態になっているカマルを指でちょんちょんと差し示した。
これにはお姉さんも苦笑いを浮かべている。
「……それでは、ご一緒させていただきますね。実を言うと、案内する者が今日急に来れなくなって困っていたんです。私はこの子の姉でアキーラといいます」
「おっと、これは失礼。俺の名前はゲン。今日はよろしく」
カマルをひょいっと持ち上げ腕抱きにすると、アキーラさんと並んで集合場所へ向かった。
シンデレラ城前左側にある木造橋に居るということだったが……。
ええっと、お――いたいた。
みんなは既に集まっているようだ。
「まーた、あんたは――っ! どっから連れてきたのよ!」
マリアベルのツッコミがひどい件。(汗)
確かに、向こう (クルーガー大国) ではストリートチルドレンを保護して、よく連れて来てたけど……。
「ああ、すまん、。この子が迷子になってて、送ってあげたのはいいけど、懐かれてしまってな……」
「うん、わかったよゲンパパ。みんな一緒に楽しくだね!」
メアリーはいつだってええ子やの~。
「ゲン様、ご無事で。お子様はお預かりしましょうか?」
「プッ……。 い、いや、このままでいい」
「かしこまりました」
クールな仕草で一礼して俺の後ろに控えるキロ。
彼女の三角耳が【ミニーのカチューシャ】に変わっていて、ちょっと吹き出してしまったのだ。
(やっぱり買っちゃったんだ~。可愛くてよく似合ってるけど)
そして、みんなにアキーラとカマルを紹介していく。
マリアベルの家族には ”シルバーイヤリング:多用途言語翻訳” を配っていく。
意識しているからかもしれないが、みんなで同じ型のイヤリングをはめているというのはどうなんだろう。
まわりに少し違和感を与えているかもしれないな。
こんどカンゾーに頼んで、イヤリングのデザインを変えたり、リングやネックレスに改造してもらおうかな。
アキーラは俺たちがアラビア語を話せることにすごく驚いていた。
カマルはみんなに構ってもらえるのが嬉しいのかニッコニコだな。
と、その時である。
んっ! ――またか?
刺すような視線……。
シロも反応しているがこの人の多さだ、うかつには動けない。
あれ、消えたな?
まったく何なんだよ……。
向こう (クルーガー大国) でならいざ知らず、こちら (日本) で監視されたり、狙われたりというのは……。
もしかしたら日本政府の関係機関? とも考えたのだが、感覚的には、そちらでないような気がするのだ。なぜなら、視線に害意や敵意がうかがえるからな。
それからは、アトラクションやショーを見ながら、みんなで楽しく過ごすことができた。
アキーラとカマルがおこなう礼拝にも二回お付きあいした。
キャストさんにお伺いしたところ、
なんと、自由に使える礼拝所 (QUIET ROOM) がパーク内にあったのだ。聞いてはみるものである。
アキーラたちも知らなかったようで大変喜んでいた。
お祈りのため、急きょ購入したマットにはミッキーのマークがいっぱいである。今日、出会えた記念として二人に買ってあげたものだが、ぜひお家でも使ってほしい。
はしゃぎ過ぎたカマルは途中で眠ってしまったが、俺が抱っこして遮熱の結界を張っているので、炎天下の中においても何の心配もない。
夕食を済まし、エレクトリカルパレードの際は抱っこしてやると、顔のよこで手をたたいて大騒ぎしていた。
そして、フィナーレの花火も見ることができ、カマルは大満足のようであった。
………………
楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。
そろそろカマルともお別れの時間だ。
表にあるキャリッジハウス近くに迎えの車が来ているらしい。
(キャリッジハウス:軽食や飲み物などを売っているテイクアウト専門店)
俺たちの駐車場も同じ方向なので一緒になって歩いていく。
まわりは明るかったが店自体はもう閉まっているようだ。
迎えの車は遅れているのだろうか、未だに到着していないようだ。
「あの~、もう大丈夫ですよ。私たちはここで車を待っていますから」
「…………」
すこし気にかかることがあった俺は、アキーラたちの迎えが来るまで付き合うことにした。
みんなには車の方で待機するようにお願いする。
「じゃあ、しばらくしたら、こっちまで車をまわしてくるよ」
剛志 (つよし) さんがみんなを連れて立体駐車場の方に歩いていった。
「おかしいですね~、もうとっくに着いてるはずなんですが……」
「まっ、迎えがくるまでは一緒に居ますから」
「何から何までホントすいません。その子も私も今日はいい思い出ができました」
俺の腕の中で眠っているカマルを見て、アキーラは申し訳なさそうに話していた。
そして5分程が過ぎ。
人の往来が途絶えた時を見計らっていたかのように、前の車道に黒塗りのワンボックスワゴンが止まった。
迎えが来たと、歩き出したアキーラの足が途中でとまる。
スライドドアが開き中から出てきたのは、顔を隠した黒ずくめの者が……4人。
そして建物の陰からも……3人、俺たちを挟み込むように近づいてきた。
シロが目の前に姿をあらわし威嚇をはじめる。
「――ゲン様!」
キロが俺の横に控える。
「雨に紛れてろくでもないものが紛れ込んできたねぇ」
「なんですか、それ? 雨も降ってませんが?」
真顔で答えるキロたん。ミニーのカチューシャはまだ付けたままである。
まあ、ツッコミはスルーさせてもらうとして。
抱いていたカマルをアキーラへ渡し、周りにあった3台の監視カメラを電磁パルス弾で1台ずつ潰していく。
これで、しばらくしたら警備員が駆けつけてくるだろう。
「あんな格好をしているんだ、やられても文句は言わないだろう。血を流さないよう当身でいけ」
「はっ!」
「無力化するだけでいい。銃を構えられたら射線は外せ」
「シロも頼んだぞ」
さて、一応どちら様かお伺いしましょうかね。
「何者だ。名を名乗れ!」
「「「「…………」」」」
一瞬、奴らの動きが止まった。
まあ、自分たちの母国語に聞こえるからね。正体がバレていると思うよね。
「邪魔をするな!」
賊の一人が銃を手にして迫ってきた。
声からして男か。
「アキーラさん。危ないから、ちょっと下がっててねー」
ワンステップで銃を持った賊の横に出て、左のボディブローを一発!
「ファイト――!」
男は横に吹っ飛んでいく。
あばらが何本かいったかな、男は地面に倒れこむとそのまま沈黙した。
銃はインベントリーに回収済み。
今度はナイフを持った賊が襲いかかってきた。
――が、遅い!
突き出してきたナイフのグリップに前蹴りを当て、弾き飛ばしたところを収納。
続けて回し蹴りを相手の左頬に軽く軽く打ち込んだ。
普通に蹴ると死んじゃうからね。
――パシュ、パシュ!
銃弾である。弾道の見える俺は体をひねってそれを躱す。
3人目は何を血迷ったのか発砲してきた。
銃を使わないで引いてくれれば、見逃すことだってできたかもしれないが、銃をぶっ放してくるような奴らに情状酌量の余地はない。
「シロ、待機している車と周りに見張りが居るなら、逃げられないように転がしてきてくれ」
「ワン!」
「キロ、残りを一気に制圧するぞ!」
「はい!」
残りは5人だったが1分とかからずに終了した。
それから、興奮して何を言ってるのかわからないカマルと、未だに固まっているアキーラにも光学迷彩をかけ、その場から離れることにした。
まあ、日本の警察は優秀だからね、いずれ正体がバレてしまうだろうが、こればかりは致し方ない。
紗月 (さつき) に電話を入れみんなと合流した。
今度はアキーラに電話をしてもらい迎えにくる場所を変えてもらった。
………………
程なくして迎えの車が到着し、2人は無事に帰えっていった。
やれやれ、大変な1日になったものである。
帰りの車の中では、先ほど起こった出来事をみんなに話して聞かせた。
「え――っ、そんなことがあったのかい!? それだけ大きな事件なら必ずニュースになるはずだよ。明日にでも確認しておくといいよ」
あまりの事の大きさに剛志さんは驚愕していた。
しかし、その日の晩も、そして翌朝になっても事件がニュースに取り上げられることはなかった。
表沙汰する気がないのか、それともできないのか。おかしいとは思ったが、こればかりはどうしようもない。
今日は帰るだけなので、朝はゆっくりとホテルで過ごしていた。
10時にチェックアウトして表に出ると、昨日と同じ白のワンボックスカーが止まっている。
マリアベル (葵) のお父さんだ。
昨日はマリアベルも本条家のマンションに帰っており、今朝は家族と一緒に出てきていた。
「まあ、私は荷物係りとして行っただけなのよね~」
テレ隠しのつもりなのか、本人はニコニコ顔でそう話していた。
俺たちは朝のあいさつを交わして、車に乗り込んでいく。
「まだ時間早いけど、どこか寄っていくかい?」
剛志さんが運転席から振り返って尋ねてくるが……、アキバは時間が足りないし、浅草は人でごった返しているだろう。
「そうですね、じゃあ近い所で巣鴨なんてどうでしょう?」
「ああ、それがいいね。午前中なら人も少ないし。みんな巣鴨でいいかい?」
「「「「はーい!」」」」
ということで、俺たちは巣鴨へ向かうことになった。
帰りは、東京駅から午後4時の新幹線である。
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