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Side.青
会議を終えると、少しネクタイを緩める。プレゼンだったからかなり緊張した。
あとは大我の迎えに行き、家に帰るだけ。
デスクに戻るとパソコンを片付け、「お先に失礼します」と声を掛けてからオフィスを出た。
教室に顔を出すと、気づいた大我が駆け寄ってくる。
「今日もありがとうございました。うちの子どうでしたか」
担当の教諭に尋ねると、予想通りの回答だった。
「ピアノを弾いたり、歌をうたったり、たまに本を読んだり。あとはピアノを弾く…ですね。田中さん、心配されなくても大丈夫ですよ。大我くんはしっかりやっていますから」
この園では発達障がいの子どもたちがたくさんいる。性格も特徴もバラバラで、みんな思い思いに過ごしている。
サヴァン症候群の彼は、自閉スペクトラム症をもつ反面特に音楽の才能に秀でているらしい。いつでもとにかく奏でることが大好きだ。
「やっぱそうですよね」
何かなかっただけでもいい。それで安心だった。
「ねえ大我、今週末におじいちゃんとおばあちゃんのところに行こうか」
後部座席のチャイルドシートに座る大我をルームミラー越しに見て、訊いてみる。
ちょっと遅れた会社の夏休みが取れるようなので、久しぶりに帰省しようと思った。
本当に理解できているのかはわからないが、こくんとうなずいた。「…いく」
おっ、と声が出た。きちんとした応答ができることは滅多にない。
これまでは、あちらから家に来てもらうことしかなかった。長時間の移動は負担になるからだ。
でも大我も来年から小学生。そろそろ頑張らせても大丈夫かもしれない。
「大我、電車ってわかる?」
問いかけるが、答えは返ってこない。後ろを振り返ると、あからさまに顔にハテナが書いてあった。
「そうか、わかんないよね。あとで説明してあげようか」
電車のカードはないから、スマホでイラストの画像を見せる。
「これが電車。これに乗って行くの」
帰ってくるなりテレビでアニメを見ようとしていた大我は、首を向けて画面を凝視する。
が、数秒後には視線はテレビに戻っていた。どうやら鉄道男子にはならないようだ。
そして電話で両親に帰省する旨を伝えると、すごく嬉しがっていた。それはそうだろう、初めて孫が来るのだから。
不安はあるけれど、楽しんでくれたらいいなと思った。
続く