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「つーワケだ。早い話がオレは、編集長の独断と偏見でウチに入社出来たつー事だよ」


机に向かい、原稿の下描きを進めながら、SD出版に入社した経緯を淡々と語って聞かせていたオレ。


そして、オレの笑えない失敗談を語り終えた頃、ちょうど原稿の下描きも終わりを迎えた。


「んん~~っ! ……どうだ、これで満足か?」


オレは座ったままで思い切り身体を伸ばしてから、黙って静かに話を聞いていた千歳の方へと椅子ごと振り返っ――


「って? おい、コラ……」


椅子ごと振り返った先。ずいぶんと静かに、聞き入っているなとは思っていたが……


オレにこんな話をさせた張本人は、事もあろうにローテーブルへ突っ伏してスヤスヤと寝息をたてていたのだ。


たく、この女は……眠いのはオマエだけじゃねぇーてのっ!


確かに時間もいい時間で、そろそろ新聞配達のおっちゃん達がスーパーカブでツーリングを始める時間だろう。


まあ、特にやる事のないコイツは、オレに付き合って起きていなくてもいいワケなのだが……

それでも、人に思い出したくもない失敗談を語らせておいて、先にグースカとイビキかいているとゆーのは、どうなんだ?


とはいえ、歩美さんから作家の健康管理も担当の大事なお仕事だと言われたばかりだし、こんなトコで寝かせて風邪でも引かれたら、オレの管理能力を疑われてしまう。


はぁ……しゃーない。


オレはため息をつきながら立ち上がり、千歳の肩を揺すった。


「おいコラ、起きろ千歳。風邪引くぞ」

「ん、んん……も、もう、た――」

「もう食べられないとかベタな寝言ほざいたら、とりあえず殴るぞ」

「もう、田植えやりたくない……」


た、田植えって……どんな夢見てんだ、コイツは……?


とはいえ『もう、田植えやりたくない』は、新しいな。もし、また同人を描く機会があったら、ネタとして使わせて貰おう――


って、いやいや、そうじゃなくてっ!


コッチは一段落したし、一応合鍵も持ってる。始発までどっかの|インターネットカフェ《ネカフェ》で仮眠でもしようかと思ったが……コイツをこのまま置いて行く訳には行かねぇよな。


さて、この|眠り姫《スリーピングビューティー》ならぬ、|眠り不良娘《スリーピングヤンキー》どうするか?


田植えをやらなくていいのがそんなに嬉しいのか、幸せそうな寝顔を見せる千歳……


しゃーない、最後にもうひと仕事して帰るか。


オレは寝室の扉を開けて、部屋の電気を点ける。


千歳からは立入禁止と言われているが、知ったこっちゃない。んなトコで寝てるオマエが悪いんだから、文句言うなよ。


そんな事を思いながら、舞浜の大型テーマパーク産のグッズが大量に並ぶ室内に入ると、ベッドの掛け布団を捲った。

そして、もう一度リビングに戻り、眠りこける眠り不良娘をローテーブルから引っ張り出す。


そして――


「よっこい、しょういち……っと」


今ではすっかり死語となった、旧日本陸軍軍曹の名を口にしながら千歳を抱きかかえ、寝室へと足を向けた。


まあ、そんな掛け声をかけるほど重くはねぇんだけど。


「てか、マジで軽いな――安い駄菓子ばっか食ってないで、ちゃんと米と肉を食え」

「………………」


ひとり言を呟く様に、千歳の寝顔へ文句を言うオレ。


って、コイツ……少し顔が赤くないか? 頼むから、風邪とか勘弁してくれよ。


オレは眉を顰めた目を千歳の紅潮した顔に向けながら、その細い身体をベッドへと寝かせた。


「後で、服がシワになったとか文句言うなよ――」


静かな寝息をたてる千歳に布団を掛けると、ベッドサイドに膝を着き、その寝顔を除き込んだ。


「まったく……コイツも、変にツッパってねぇで黙ってれば可愛いツラしてんのに……」


微かに香る趣味の良い香水と、透き通る様な色白の綺麗な肌――


漫画家という職業柄、日中にあまり外出する事がないのだろう。その白い肌の頬を紅く染め、吐息の様な寝息を漏らす千歳。


普段見せない無防備な寝顔にオレは――


「ヤバ……もう限界かも……」


規則的に上下する胸へ、まるで吸い込まれる様にゆっくりと顔を寄せて行く。


「ダ、ダメだ……もうムリ……我慢できねぇ。少しだけ……少しだけなら……いいよな……」


オレは静かに目を閉じて、その胸に顔を――


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