目を開けると見覚えのある顔が三つ並んでいて、一つはレイ、もう一つは千明さん、もう一つは炎夏先生
千明さんは目から水が出ていて、いいなぁ、人間の特権…
そんな事を思っていた。
千明さんが保健室から出た後、私とレイは炎夏先生から、私の内部損傷が激しいため一度研究所に帰って直してもらった方がいいと説明された。
基本、炎夏先生でも私達AIは直すことが可能
AIは対になるようにつくられているから、片方の部品が壊れれば、もう片方が壊れない程度にその損傷した部分の部品を取り替える。
そうすれば、長期休みまでは持ち堪える事ができるからだ。
でも、炎夏先生は兄妹の中で個体が末の私とレイは特殊な為、取り替えることが不可能と判断したそうで、レイと一緒に一度研究所に帰り、直してもらえとの事だった。
その後、炎夏先生と迎えの車に乗り、研究所に行くまでに話をした。
「どうしましょう。炎夏先生」
と言った後、ポツリと呟いた。
「人間を傷つけてしまいました。私は廃棄でしょうか?」
炎夏先生は顎に手を置いて悩んでいる手振りを見せた後。
「レイ、よーく聞いてちょうだいね。人間の世界には“正当防衛”というものがあるの」
私もレイも顔を見合わせた後、私が炎夏先生に尋ねた。
「その〝セイトウボウエイ”とはどのようなものなのですか?」
「そうねぇ、正当防衛は例えば、今回はレイがアイを殴られているのを見て、内部からブワーと火が上がるようになって、瀬尾くん?だっけ、男の子を殴ったでしょう?」
内部から熱が出るのだったらヒートに入るのに、レイが壊れていないことに驚いた。
レイはスッキリとした声でこう答えた。
「私達AIは人間を傷つけてはいけないとプログラムされているはずなのに、何故殴ってしまったか、自分でも理解できませんでした…」
私は何故”人間は殴ってはいけないのだろう?”と思って聞くことにした。
「炎夏先生、何故人間は殴ってはいけないのですか?私達AIもボディの損傷は人間と同じようにします。まだ実験段階ですが、人間と同じように”ココロ”もあります…」
炎夏先生は私を指差すと、口角を上げて笑った。
「やっぱりアイとレイは”トクベツ”ね」
「じゃあ、レイの質問から答えるわね。人間は殴ってはいけない。このプログラムはそもそも貴方達の中には存在しないわ」
私達がきょとんとすると炎夏先生は話を進めた。
「ある種の自己暗示でもあるわね。貴方達の上のAIである1号はわかるかしら?1号はまぁ、初号機だからということだろうけれど、力の加減ができなかったの。それ故に実験中に研究員がコケそうになっていたのを助けようと手を伸ばしたら、研究員の肋骨が折れて内臓に刺さってそのまま亡くなってしまったの。」
静かに聞くことしかできなかった。
「その研究員がこけそうになったのが、咄嗟の事で手加減もできなくて、結果は悲惨な事になってしまったわ」
私はそれでどうしたのだろうと思い、呟いてしまった…
「それと関係はあるのですか?」
そうすると炎夏先生は顔をしかめて「ちゃんと聞いててね」と言った。
「1号にとってもその研究員は人間でいう親と同じくらい大切な人だったから、人間は傷つけてはいけないものとして暗示をかけたのよ。その後、造られたAIは1号のプログラムを媒体として造られているからそれが引き継がれているのよ」
レイは「面白い話ですね」と言った。
炎夏先生もニコリと笑って、
「もう着いたみたいね、夜柱先生のところに行きなさい」
その呼び掛けに2人揃って
『はい』
と答えた。