テラーノベル
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夕闇が街を飲み込む頃、俺と和幸
それに選りすぐりの若い衆数人は、蛇頭会が根城にしている場末の廃ビルへと向かっとった。
「……兄貴、蛇頭会の阿部は、このビルの三階にある闇賭場を仕切ってるようです」
和幸が小声で報告してくる。
俺は無言で頷き、懐の短刀を指先で確認した。
あいつらは一線を越えた。
ひまりを脅しの道具に使ったその瞬間、蛇頭会という組織の寿命は尽きたんや。
「……和幸、お前らはここで待機や。誰一人、外へ逃がすなよ」
「えっ、兄貴!また一人で行くんですか!? 相手は武装してるって噂ですよ!」
「やかましい。……ひまりに『おかえり』を言う前に、余計な火薬の匂いを付けたくないんや。…ワシ一人で十分や」
俺は眼鏡をクイと押し上げ、重い鉄扉を蹴破った。
中にいたのは、安っぽい紫煙を吐き出しながら博打に興じとる、煮ても焼いても食えんようなクズどもや。
「……黒龍院…ッ!?」
阿部が、椅子から転げ落ちそうになりながら声を上げた。
俺は返事もせず、最短距離であいつの胸ぐらを掴み上げた。
「……阿部。…ワシの娘を、口に出したな」
「ま、待て!あれはただの脅しで……!」
「……脅しで済むと思うたか? ワシの魂を土足で踏みにじって、タダで帰れる道など、この世のどこにもあらへんぞ」
周りの連中がドスやバットを手に襲いかかってくる。
俺は阿部を盾にするような真似はせん。
男を放り投げ、向かってくる奴らの急所を、一撃、また一撃と的確に沈めていった。
「狂刃……!!化けもんがよッ!」
あいつらの悲鳴が狭い部屋に響く。
だが、俺の耳に届いているのは、今朝ひまりの鈴を転がすような声だけや。
「……阿部。…最後や。二度と、あの子の視界に入るな。次があったら、ワシの短刀は鞘に収まらんぞ」
俺は阿部の足元に、短刀の鞘を突き立てた。
それだけであいつは失禁し、地面を這い蹲る。
掃除完了や。
事務所に戻り、玄関のノブに手をかけた時、不意に自分の手が震えていることに気づいた。
恐怖やない。
……あまりの怒りと、ひまりに合わせる顔を選ぼうとする葛藤や。
「……ふぅ。…和幸、血の匂い、せえへんか?」
「……大丈夫っす」
和幸が無理に明るく振る舞いおる。
俺は眼鏡を外し、目元を強く擦ってからドアを開けた。
「……ただいま。ひまり」
「おかえりなさい、おじさん!…おじさん、大丈夫…?顔、疲れてる」
子供の勘は、恐ろしいほど鋭い。
俺は苦笑いしながら、ひまりの小さな体を抱き上げた。
「……ちょっとな。…悪い草が、また生えてきとったから。…抜いてきたんや」
「……そっか。おじさん、お疲れ様」
ひまりが俺の首に手を回す。
その温もりが、俺の荒んだ魂を少しずつ洗い流していく。
いつか、この手を完全に汚さないで済む日が来るんやろうか。
……いや、ワシが汚れることで、あの子が光の中を歩けるんやったら。
俺はこの「掃除人」という役を、喜んで引き受ける。
それが、ワシという男の、たった一つの生きる理由や。
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