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こんにちは、沫です。
「あの夏の3分24秒」の第2話となります。
炎夏
_失敗
「…あつーい。」
彼女は手でぱたぱたと仰ぎながら言った。
外に出るとより太陽の光が肌をじりじりと焼き付けていた。
私たちの声は呆気なく蝉の騒々しい音にかき消されるように、2年生はグラウンドで準備体操を始めようしていた所だった。
「…急ご!」
彼女は私より一足先にグラウンドまで走っていった。
それに追いつこうと私は重い足をなんとか前に出して、グラウンドまで走った。
__キーンコーンカーンコーン
準備体操が終わり、授業の始まりを告げる音が鳴る。
体育科の加藤の声が蝉の騒がしい声に負けないくらい大きな声がグラウンド中に響いた。
「…再来週の体育大会に向けて、俺たち黄団の僥倖種目”台風の目”は一致団結していこう。」
私は思わず鼻で笑った。
“一致団結していこう”
(一致団結?口だけじゃん…)
頭の片隅にはそんな皮肉っぽい考えが浮かぶ。
それにしても、”台風の目”…か。
2年生の僥倖種目。「台風の目」
横6人くらいが棒を持って、指定されたコーンをぐるっと回り、棒を下にくぐったり上をくぐったりしてゴールに戻る。
途中で棒を落としたり転んだりすると、チームのタイムが止まってしまう。
その為、みんなで息を合わせて一気に通すことが大事な競技。
呆れるようにため息をついた。
(よりによってチームワークが大切な競技…)
毎回、棒を下にくぐす時が怪我人が出る。
それは一生懸命やっていることであり、仕方の無いことだと加藤は言ったが…
まぁ、私も端で棒をくぐす役目であり、共感できる部分もあった。
__ピーッッ!
笛の合図と共に先頭の人が地面を勢いよく蹴り、走り出す。
「頑張れー!」
この声は…あぁ、彼女(中川さん)だ。
たまたま同じグループになった彼女とは、同じ先端にいる棒をくぐしたりする役割であり、最も責任重大な役割でもある。
グループ決めの時、端になったことは別に対して気にしていなかったのだが、ましてや彼女とこの競技をするだなんて思ってもいなかった。
そうこう考えている内に、先頭のグループがこちらに向かって走ってきていた。
…ジャンプしないと。
棒が下からくぐられていることに少し怯みながらも、思わず目をつぶって跳んだ。
一瞬の出来事だった。
__ガタンッッ
棒が地面に落ちた音だとすぐ分かった。
クラスメートが棒に引っかかって転んでしまっている。
そんな所を目の当たりにしてしまった。
そこでもうタイムが止まってしまっていると思うと、何も出来ない自分がどうしたらいいのか分からず情けない姿を晒すだけだった。
「…あ、あの…」
手を差し伸べようとしたが、それよりも先に彼女がしゃがんで優しく声をかけていた。
「…大丈夫?」
そのクラスメートは立ち上がり、彼女は砂埃を払ってあげていた。
落ちていた棒を端の人が拾い、残りの人もくぐっていく。
転んでいた人は彼女にお礼をし、心配かけまいと笑顔だった、きっと。
さぞ痛かっただろうに、どうしてあの状況で笑顔を作れるのか、意味がわからない。
ふいに肩を軽く叩かれ、振り向く。
「…次だよ、頑張ろうね。」
彼女だった。
そうこうしている内に自分の番がやってきて、棒を掴み、走り出す。
1周。
2個目の3角コーンに向かって走り続ける。
__前しか見てなかった。
3角コーンを2周、先に行かないと。私が。
その時だった。
__ガタンッッ
映像のないコマ送りのように視界がゆっくりに見えた。
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第2話はここまでで終わりです。
最後までご覧いただきありがとうございます。
次回の更新をお楽しみに𓈒𓏸