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全員がクロから離れるのを見届けたあと、自分はもう一度、とり憑こうとしている女の霊と対峙する。改めてみると思っていたよりも霊気は少ない。
自分は感知タイプだ。霊とかはもちろんはっきり視える。しかし、霊気だとかも人によっては色として視える人もいる。その中で自分は感じるタイプだった。別に視ようと思えば視える。でも視覚よりも先に感じるのだ。
言葉では上手く表せないが、いろんなものが視覚以外で情報を受け取るのだ。
そして分かった。
この取り憑こうとしている霊の霊気が少ないことに。
最初は中級霊の可能性もあると考えていた。なぜならクロと触れたとき、自分の霊気を女に向けて放ったはずなのに霊は逃げていかないからだ。
ほとんどの場合、自分より強大な力を持つものを相手にすると逃げていくか、こちらへ攻撃を仕掛けてくる。
なんだ?
なにかがおかしい。
だが今ここで考えていたってしょうがないのだ。
とりあえず、結界だけ張ることにした。御札が無い分少々不安定な気もするが、仕方ない。
手を部員がいる方へとかざして、心の中で結界のイメージをする。大きさ、硬さ、位置、はっきりとイメージが出来たらそのまま
「結界」
短く一言、そう念じるだけで張ることが出来た。
結界を張る事で怨念などの負の感情が
結界も霊感のあるやつしか視えたり感じたりすることは出来ない。だからきっと人によってはなにをしているのか不思議だろう。まあそんなん知ったこっちゃない。
クロを取り返すとさっきから言っているが、まずクロはあの霊に憑依されかけている。1度されてしまえば最後、クロは悪霊になり果ててしまう。
まあまだ完全に憑依はされていないがこのまま攻撃をすると下手したらクロを傷つけてしまう為、霊を少し引き剥がす。
「くそっ。塩でも持ってくれば良かった。」
今呪具は全てカバンの中にある。めんどくさいが仕方ない。
「後で文句言ったって知らねえぞクロ。」
そうつぶやく。
「霊気解放、5%」
両手の掌に霊気を込める。
そのままクロの体に触れ霊気を流し込めば霊は離れていく。天ヶ瀬の霊気は1級品だ。並の低級霊なんかが取り込もうものなら逆に攻撃されて終わりだ。
ふう。
軽く息をつき次の瞬間、自分は思い切り踏み込んだ。
「クロ!目覚ませ!」
次の瞬間、
『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!』
と女の奇声と共にクロの長い足が飛んできた。咄嗟に避けようとして気づく。今自分が避けたらクロの足がバレーのポールにぶつかってしまう。ポールは鉄製だからそんな無理な力で蹴ったら足が使いもんにならない。
そう思い、避けることが出来なかった。
腹筋に思い切り力を入れ固めたから痣も出来ないとは思うが衝撃のまま吹き飛ばされた。
俺は壁側で零と黒尾(霊)と対峙しているのを見ていた。正直女子に(自分より背が高いよは気にしないとして)任せるというのはなんだか申し訳無かった。すると零が何かを呟いた。
その瞬間なにか壁のようなものが作られたような気がした。
気がしたのというのは俺は霊感が強いという訳じゃ無いため視ることは出来ないが何かを感じることが出来るのだ。視ることが出来ない分何が起きてるのか分からないので研磨に声をかけることにした。
「研磨!今零なにをしたんだ?」
「夜久さん声落として。」
「お、おう。すまん。」
きっと声を落とせと言ったのはあの2人の気を散らさないためだろう。
「今零がやったのは多分結界だと思う。」
「結界?」
そう聞き返したのは海だった。気づけば海がこちらを向いていて何をしたのか気になるようだった。
「きっと海さんも、もやみたいなのが見えてるんじゃない?」
「うん。目を凝らさないと分からないけどなにかがあるっていうのは分かる。」
「言わばこれは霊気の壁だよ。」
「霊気の壁?」
俺はイマイチぴんと来なくて声に出してみたがやっぱり想像がつきにくい。
「ゲームに例えるとシールドとかバリアみたいな」
「あー。なるほどな。」
「そういうことか。」
そう海が相槌をうったとき、
「霊気解放、5%」
と言ったのを聞いた。
すると僅かな霊気が零の掌に集まるのを感じた。
次の瞬間強烈な踏み込みをみせ、黒尾の懐に飛び込んでいく。
「クロ!目覚ませ!」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』
黒尾の声ではない。多分女の霊のけたたましい奇声とともに凄まじい蹴りが飛ぶ。
あ。
このままだとポールに黒尾の足がぶつかる。驚くことに零は避けることをしなかった。
「零!!!」
ドンッ!!
そう大きな声を出したのは研磨だった。間一髪で手を間に挟んだようだ。
零はそのまま体育館の扉まで吹っ飛ばされた。だが、俺は見逃さなかった。寸前のところで零の片手が黒尾に触れたのを。
しかしかなり吹っ飛ばされている。零は扉に寄りかかったまま動かない。
女の霊はずっと体を振り乱している。
まさか、
「零、?」
研磨の声が木霊する。
俺は感じたのだ。黒尾や研磨も俺からすれば強烈な霊気を持っているように思える。だが、零に会って確信した。
黒尾や研磨の比ではない。
もちろん、霊気の多さも凄まじいがなにより濃さと言えばいいだろうか?質が違うのだ。もっと昔からずっと研ぎ澄まされた、刀のような鋭さがあるのだ。ちょっとやそっとではあんな霊気にはならないだろう。
一体どれほどの期間と努力を重ねたのか。ずっとずっと練り続けられた霊気だった。
でもあの零は、いつまで経っても立たない。
自分も研磨も、もちろん周りの奴らも焦っている。いくら霊気が強くたって体が頑丈かは分からない。
声をかけようとしているのだが上手く出てくれない。
初めて感じる恐怖だった。あくまで普通の生活で部活をしていたはずなのに、2人の幼馴染が現れて、かと思ったら急に黒尾が倒れて、頭が追いつかなかった。
けど、今吹っ飛ばされて動かない零を見て急に現実味が出てきた。
怖いのだ。あの霊とかじゃなくて目の前で人が動かなくなったこの状況が、光景が。
「大丈夫。」
そう声を出したのは海だった。
何が大丈夫なのか?俺は意味が分からなくて海の方を見た。海は零から視線を外さない。俺もその先にいる零をもう一度見つめる。
「マジか。」