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『偽りの無能、真の覚醒〜転生皇女はすべてを奪い返す〜』
最果ての祭壇で、3つ目の『封印の楔』を分子レベルで完全に粉砕した瞬間、私たちの目の前に広がっていた禍々しい闇の空間は、光の粒子となって綺麗に霧散していった。
「ふう……。これで本当に、魔王ディルクの全ての命綱が片付きましたわね、お兄様」
私が振り返って微笑むと、アルベルトお兄様は安心したようにその美しい銀髪を揺らし、私の頭をそっと優しく撫でてくれた。
「よくやったね、ローゼマリー。これで最上階にいる魔王の魔力供給は完全にストップした。今や奴の魔力は底を突きかけているはずだ。……さあ、一気に最上階へ上がり、奴の息の根を止めよう」
「はい。ローゼマリー様、お茶会の準備はいつでもできるように、すでに完璧に整えておりますわ」
影からスッと現れた侍女のリンも、おっとりとした笑顔に戻って私の後ろへと控える。
私たちは、世界を滅ぼそうとした伝説の魔王の最後を見届けるため、静かに古城の最上階へと向かう階段へ足をかけた。
しかし――。
私たちが考えていたよりも遥かに、あの「魔王」という生物の往生際の悪さと、私への恐怖心は、限界を突破していた。
◇
同じ時刻。永久凍土の古城の最上階、玉座の間。
最後の楔をも破壊された魔王ディルクは、血のように紅い瞳を激しく見開き、ガタガタと全身をみっともなく震わせていた。
「バ、バカな……! 3つの楔の防衛術式を、これほど一瞬で、何の抵抗もできぬまま消滅させられるなど……っ! 100年前の聖女シャルロットの魂を宿しているとはいえ、現代のあの娘(ローゼマリー)の力は何だ……!? あれは人族の、いや、世界の理を超えている……っ!」
かつて大陸の半分を焦土に変え、世界の王として君臨しかけた伝説の魔王のプライドなど、今の彼には一片すら残されていない。
あるのは、ただ一つ。
階段を上ってくる最強の皇女・ローゼマリーという『本物の化け物』に対する、脳髄が痺れるほどの圧倒的な生存本能の恐怖だけだった。
「このままでは……完全に目覚める前に私はあの娘に消される……。それだけは絶対に阻止せねばならん。人族の分際で、この私を怯えさせるな……っ!!」
恐怖のあまり狂乱しかけた魔王は、玉座の後ろにある隠し扉を開け、古城のさらに地下深くに隠された、100年間一度も開かれることのなかった『禁忌の奈落門』へと駆け下りていった。
今の底を突いた魔力では、ローゼマリーには逆立ちしても勝てない。ならば、世界の理の外側にある、さらに邪悪な禁忌の力に魂を売るしかなかった。
地下最深部。おぞましい生贄の血の匂いと、冷たい虚無の風が吹き荒れる儀式の間。
ディルクが自身の魔力を血に変えて古びた魔法陣へと捧げると、空間がベきべきと音を立てて裂け、そこから『純粋な漆黒の霧』が溢れ出してきた。
「ククク……、100年ぶりの目覚めが、まさか伝説の魔王の『泣き言』によるものだなんてね。滑稽だわ、ディルク」
暗闇の奥から響いたのは、鈴を転がすような、しかし聞くだけで魂が腐り落ちそうなほどに妖艶で邪悪な女性の声。
霧が集束し、そこに姿を現したのは、世界の創世記より生き続けると言われる伝説の存在――『深淵の魔女』だった。
「魔女よ……! 私を嘲笑いに来たのではない! 契約だ……お前が持つ、世界の外側の『闇の根源の力』を私に貸せ!」
ディルクは必死の形相で魔女に詰め寄る。魔女は禍々しい紫の瞳を細め、クスクスと愉しげに笑った。
「あの最強の皇女ローゼマリーが恐ろしいのね? いいわよ。ただし、その代償は重いわ。あなたの魂の半分と、完全復活した後に大陸の全人類の命を私に捧げること。それが条件よ」
「構わん……っ! あの娘を、ローゼマリーを殺せるのなら、魂などいくらでもくれてやる!」
ねむ
74
#転生
コシ
103
耀聖(ようせい)
1,401
287
ディルクが絶叫した瞬間、魔女は残酷な笑みを浮かべ、その白い指先を魔王の胸元へと突き立てた。
ドォン!!!!!!
その瞬間、古城の全体、いや、最北の永久凍土の全域を揺るがすほどの、凄まじい『漆黒の衝撃波』が爆発的に吹き荒れた。
世界の外側から流れ込む、純粋なる闇の根源の力。
「ガ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
ディルクの身体がメリメリと音を立てて変貌していく。
彼の背中から、これまでの魔族のものとは一線を画す、空間そのものを腐食させるような『漆黒の虚無の翼』が6枚も生え変わり、血の瞳はさらに深く、世界を呪うような禍々しい真紅へと染まっていく。
力の供給源であった『封印の楔』の有無など、もはや関係なかった。
魔女から与えられた闇の力は圧倒的であり、彼が手に入れた新しい魔力は、従来の魔王の領域を遥かに凌駕する、まさに『世界の破壊者』としての桁違いの神魔の力だった。
ディルクが軽く指先を動かしただけで、古城の地下室の頑丈な障壁が、音もなく一瞬で虚無の塵(ちり)となって消滅した。魔法の威力、呪いの密度、その全てが以前の100倍以上に跳ね上がっている。
「ハハハ……! ははははははは! 素晴らしい! これだ、この圧倒的な力こそが私に相応しい! 見ていろ、ローゼマリー……! お前がどれほど覚醒しようとも、世界の外側の力を手に入れた今の私の一撃の前に、塵となって消え失せるがいい!」
狂ったような高笑いが、最北の闇の中に響き渡る。
魔王は、さらなる絶望の化け物へと再誕を遂げたのだった。
◇
一方、その頃。
古城の長い階段を上っていた私たち。
「――っ!?」
突如として、古城全体が激しくグラグラと揺れ動き、肌が痛くなるほどの邪悪な魔力の波動が、足元の地下深くから伝わってきた。
「ローゼマリー、今の地響きは……。地下の深淵から、信じられないほどの高密度の魔力波が観測されたよ。……今までの魔王の力とは、明らかに性質が違う。空間そのものが歪んでいるようだ」
アルベルトお兄様が、即座に私を背に庇いながら、美しい銀髪をなびかせて鋭く目を細める。
「ローゼマリー様、私の影の索敵網にも、触れただけで魂が削られるような不気味な『闇』が引っかかりましたわ。……どうやらネズミめ、土壇場で往生際悪く、何か禁忌の仕掛けを起動したようです」
リンもいつものおっとりした笑顔を完全に消し、いつでもナイフを抜けるよう、私の斜め前で身構えている。
「ふふ、なるほどね。ただのゴミから、少しは歯ごたえのある化け物に進化したというわけかしら」
私はお兄様の背中から一歩前に出ると、自身の『光と氷の薔薇の翼』を小さく明滅させながら、冷酷で、そして最高に好戦的な笑みを浮かべた。
魔王がどんな禁忌の力を手に入れようと、私の絶対強者としての意思は揺るがない。むしろ、一撃で終わるよりも、少しは楽しませてくれた方が好都合だ。
「いいでしょう。どのような悪あがきをしてくるのか、上(玉座の間)で待ってあげますわ。お兄様、リン、行きましょう」
まだ敵の全貌は見えない。しかし、因縁の最終決戦の幕が上がる前に、魔王は最凶の力を手に入れ、私たちはその深淵へと向けて、
さらに階段を上っていくのだった。
コメント
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りるらさん、最新話読みました…! 魔王がまさか最後の最後で魔女と契約して再誕するとは思わなかったです💦 でもローゼマリー様の「少しは歯ごたえのある化け物に進化した」って台詞、完全に余裕の笑みが浮かんでる感じがして最高にカッコよかったです…! むしろ楽しみにしてる風格がもう、さすが覚醒皇女…って感じでニヤニヤしちゃいました。 次回、玉座の間での対決、本当に楽しみにしてます🔥