空が白く濁っていた。
草木も白くぼやけて,寒露を飾る季節。
私,霧雨魔理沙はそんな窓の外を見てため息をついていた。
家の中とはいえ,部屋の中にまで寒さが伝わってくる。着込んだ服でも太刀打ちできない寒さ。なんとかならないのか。
座っていた木の椅子の温度がももに伝わって,少し身震いをする。そういえば暖炉があるのだった。本に埋れていて忘れていた。
「ふぅ……片付けるか。そろそろ正月だしな…」
そう考え事をしながら手元にあるものを動かす。今は実験をしている。毎回毎回材料を混ぜていると慣れるが、トカゲを溶かすとは何事か、と思った。
ガタンッ
「……うっ」
ぼーっとしていたらようやく進み始めた実験の器具が倒れてしまった。急いで腰を上げ,床に転がっている器具を拾い上げた。
よかった,割れていない。澄んだガラスの向こうに,濁ったガラスの向こうの景色が映った。
目にかざしていた器具を下げ,窓を見ると,この季節満開になるという青い花が咲き誇っていた。名前は確か……
ッックシュン!
寒さに耐えきれなくなったのか体が声を上げて来た。おかげで思い出せそうだった花の名前を忘れてしまった。
まぁいい,今度思い出そう。そう思って,暖炉の前のものを片付け,薪をくべ,火を……。
…そうだ。
「…霊夢のとこ、いくか。あいつ,なんだかんだ言ってあったかいお茶くれるからな」
そうと決まれば、と、マフラー、コート、手袋、ブーツと、あっという間にいつもの魔法使いの姿になる。ちょっと分厚いがな。
玄関のドアを開け,遥かに寒い冬の空気に凍えながらも、私は白い海に飛び立った。
空から見た冬の幻想郷は、少し霞んでいるけれど、それはそれは外の奴らが見れば絶景であった。
瓦屋根につく霜。冬の装いの人里。そして最も東側に、親友が住む神社がある。
「っし!今すぐ行ってやるからなーっ!」
箒を全速力で飛ばし,神社に飛んだ。
「っと。霊夢ー!いるかー?」
あっという間に境内につき,足先を石畳に下す。
神社を見渡すも,霊夢らしき姿はない。買い出しにでも行っているのだろうか。どうせこたつで丸まっているだろうと思ったが。
少し落胆して,神社の縁側に上がり込む。相変わらず冷たい。そろそろ私を許してくれ,冬の寒さよ。
カッ
不意に足跡と気配を背後に感じて,振り返ると何やらただごとではない時の…顔をしている霊夢が立っていた。
「霊夢…?お邪魔してるぜ…?」
「…ええ、いいわよ。……また茶菓子せびりに来たの?」
いつも通りの口調に安心すると同時に,違和感を感じた。
霊夢の目。
いつもの赤みがかった茶色じゃなくて,もっと……深い赤黒。
まるで心の底を見透かしているような…。
「何よ,飲むなら飲む!茶なら出すからさっさと入りなさい!」
「お、おうっ!」
霊夢が痺れを切らして出した大声に驚き,部屋に上がった。
霊夢と茶を交わし,甘味を交わし,楽しむ。
襖の隙間で降りしきる雪の粒はまるで灰だった。
幻想郷の輪郭は曖昧で、遠くの里も山もひび割れたガラス越しに覗いた景色のように歪んで見えた。
誰も知らない。
この日を境に、幻想郷が正しい形で存在していた最後の朝だったことを。
胸糞悪いほど静かで、美しい朝だった。
――視点:紫
「……来たわね。」
境界の亀裂が、彼女の背後で音もなく滲む。
紫は扇子で口元を覆ったまま空を見上げ、焦りを見せぬよう瞼を伏せる。
だが、指先は震えていた。
境内の空気が黒い水のように変質している。
空気という概念が腐っていく感覚。
意思を持った闇が、土を、石を、気配を、そして認識すら侵食していく。
「…馬鹿な。よりにもよって、これは…」
幻想郷の根を断つ毒。
世界そのものを別の存在に書き換える病原体。
紫ほどの妖怪ですら、ほんの一瞬、思考が止まった。
「呼吸をするだけで魂を削られる……こんなの、存在していいものじゃないわ。」
雪が降っているのではない。
分解された何かが空から舞っていた。
それに気づいた瞬間、紫の表情が凍った。
「……これは、里の人間の……骨灰。」
遠くで、寺の鐘が鳴った。
祈りでも、警告でもない。
ただ「残響」だけが世界に響いた。
* * * * *
――視点:霊夢
あの後魔理沙と共に人里に降り、買い出しからの帰り道、霊夢は笑っていた。
この世界の誰もが知るような、いつもの薄ら笑い。
けれど、その目は違った。
笑っているのに、何も映していないガラスの瞳。
「あー、寒かったね魔理沙。ほら帰る前に甘酒買って――」
言葉の途中で、ぴたりと止まった。
足元。
雪に埋もれていたはずのそこに、黒い泥のようなものがあった。
泥……ではない。
肉。
骨。
血。
だけど形がない。ただ存在している「質量」。
とろとろと、地面の上で生きているように脈動しながら、赤い眼がひとつ浮かび上がる。
魔理沙はゆっくり視線を落とす。
それは形容できない何かだった。
人間の身体が溶け、再構成され、思考も名前も形も奪われ、ただ「存在」という概念にだけ縛られた生き物。
「……なん、だよ、これ。」
霊夢は答えなかった。
代わりに、何故か優しく微笑んだ。
「踏んじゃった?」
その声は、笑っているのに色がなかった。
「おい霊夢、何言って…」
その言葉が届く前に,魔理沙はどこかへ消え去った。
「…え?」
私は何をしていたんだろう。確か,魔理沙とお茶飲んで…買い出しに来て…それから…?
突然襲って来た焦燥と不安感に苛まれ、顔を抑える。
なんだ、あれは。
一度触れてしまえば、全て溶けていくような、見ただけで,目が腐るような…何か。
「あ……あぁ…魔理沙…魔理沙!」
目の前から消えた友の声を叫ぶ。恐怖で声が震えていた。喉が掠れていた。
そのはるか遠くで,何か産み落とされるような音がした。
グチュリ…と。
私は飛び上がり,空から近くを見渡す。
魔理沙はいない。だが、森の方角の空気が甘く腐った、鉄の匂いがした。
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ここまでで始まり。
何か小話をしたいなぁ…。
ちなみにもうすでに伏線が何個か張られてます。気になる人は考えてみてね。
ちょっとチャットGPTに文章構成の相談とかはしてるのでそこは許しておくんなまし。物語書くの初めてなのじゃ。
じゃ、また次回お会いしましょう。







