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#見捨てられた
リコりす@アナログタノピイ
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#shedletsky
ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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2x2の図書館を訪れてから、長い時が流れた。
世界は少しずつ変わっていた。
空を流れるコードは以前より張り詰め、神殿には見えない監視の気配が漂っている。
世界を創った絶対存在――Roblox。
その「修正」は、日に日に厳しくなっていた。
少しでも歪みがあれば消す。
少しでもバグがあれば直す。
世界は、完璧でなければならない。
そんな夜だった。
神殿の最奥で、テラモンは静かに自分の手を見つめていた。
「……。」
指先がちらつく。
バチッ。
小さなノイズが走る。
手のひらが一瞬だけ半透明になり、すぐ元へ戻る。
「またか。」
苦笑する。
最近、何度も起こる現象だった。
神としての自分。
そして、自ら切り離した半身。
その矛盾を世界が許さなくなり始めている。
「……限界だな。」
小さく呟く。
このままでは。
自分も。
1xも。
世界の修正によって消される。
それだけは嫌だった。
「絶対に。」
拳を握る。
「あいつだけは。」
その時だった。
「何一人で黄昏れてんだよ。」
聞き慣れた声。
振り返ると、いつものように1xが立っていた。
「バカテラモン。」
「お。」
「また変なこと考えてる顔してる。」
「分かる?」
「分かる。」
腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「どうせロクでもない。」
「ひどい。」
「当たってるだろ。」
「当たってる。」
「ほら。」
二人は思わず笑った。
1xの身体を包む黒緑の炎は、以前よりも濃くなっている。
世界の歪みを吸い上げるように、その力は少しずつ増していた。
テラモンは立ち上がる。
「ちょっと付き合え。」
「またコードパスタか?」
「違う。」
「じゃあ帰る。」
「帰るな。」
袖を引っ張る。
「鍛冶場。」
「……鍛冶場?」
首を傾げながらも、1xは黙って後をついてきた。
神殿の地下。
巨大な鍛冶場には七つの鉱石が並んでいた。
赤く燃える鉱石。
青く凍りついた鉱石。
黄金に輝く鉱石。
それぞれが神話の力を秘めた特別な素材だった。
「これ全部使う。」
テラモンは槌を握る。
「剣を作る。」
「剣?」
「七本。」
カン。
槌が振り下ろされる。
火花が散る。
「これから。」
もう一度。
カン。
「世界は変わる。」
また一撃。
カン。
「神だけじゃ守れなくなる。」
金属が少しずつ形を変える。
「だから。」
テラモンは笑った。
「人間でも世界を守れるようにする。」
「……。」
1xは黙って聞いていた。
「試練の場所も作る。」
「名前は?」
「Sword Fights on the Heights。」
「長い。」
「SFOTH。」
「それなら分かる。」
二人は少し笑う。
やがて。
一本。
また一本。
剣が完成していく。
炎を宿す剣。
氷を宿す剣。
雷。
闇。
そして。
一本だけ。
黒緑色の毒を宿した剣。
「……。」
1xの視線が止まる。
「これ。」
「ヴェノムシャンク。」
テラモンが答える。
その刃から漂う毒気は、1xの炎とよく似ていた。
「……変な感じ。」
1xは小さく呟く。
「俺の炎みたいだ。」
「そうかもね。」
テラモンは優しく笑った。
そして。
槌を置く。
「1x。」
「何だ。」
少しだけ真面目な顔になる。
「俺。」
深呼吸する。
「神をやめる。」
「……。」
「人間になる。」
その言葉に。
1xは固まった。
「……は?」
「だから。」
「神をやめる。」
「人間になる。」
「は?」
もう一度聞き返す。
「何言ってんだ。」
笑えない。
冗談にも聞こえない。
「神じゃなくなる?」
「うん。」
「全部捨てる?」
「うん。」
「力も?」
「うん。」
「なんでだよ!!」
思わず叫んでいた。
黒緑の炎が激しく揺れる。
「何考えてんだ!」
「この世界は!?」
「お前は!?」
「俺はどうなる!!」
テラモンは静かに答えた。
「お前は。」
迷いなく。
「俺の隣。」
その一言だけだった。
「神じゃなくても。」
「人間になっても。」
「一緒にいる。」
1xは何も言えない。
胸が熱い。
痛い。
苦しい。
嬉しい。
全部混ざっていた。
テラモンは照れくさそうに笑う。
「あ、人間になったら名前も変わる。」
「え?」
「シェドレツキー。」
「……。」
「どう?」
「変な名前。」
「ひどい。」
「覚えにくい。」
「頑張れ。」
「嫌だ。」
テラモンは笑いながら1xの頭を撫でた。
「これからは。」
優しく。
「開発者として世界を作る。」
「もっと自由な世界を。」
「だから。」
「隣で見てて。」
1xはぷいっと顔を背ける。
「誰が。」
小さく鼻を鳴らす。
「興味ねぇ。」
「そう?」
「お前が神だろうが。」
「人間だろうが。」
「俺には関係ない。」
そう言いながら。
半透明の手は。
いつものように。
ぎゅっとテラモンの服の裾を握っていた。
離れない。
絶対に。
(……置いていかない。)
心の中だけで呟く。
(もう。)
(捨てない。)
(そうだよな。)
その日。
神は姿を消した。
黄金の装飾を外し。
神衣を脱ぎ。
一人のRobloxianとして、新しい姿を得る。
茶色い天然パーマ。
白いシャツには、大きくこう書かれていた。
BLAME JOHN
「どう?」
新しい姿になった彼は照れくさそうに笑う。
「シェドレツキーだ。」
1xはしばらく黙って見つめていた。
「……。」
「似合わない。」
「えぇ?」
「でも。」
少しだけ笑う。
「まあ。」
ほんの少しだけ。
「悪くない。」
シェドレツキーは嬉しそうに笑った。
神ではなくなった。
これで監視から逃れられる。
そう信じていた。
けれど。
神の力を捨てた代わりに。
彼の心には、新しい感情が静かに芽吹き始めていた。
もっと世界を変えたい。
もっと多くを作りたい。
もっと上へ。
もっと自由に。
もっと。
もっと。
それは神にはなかった、人間だけが持つ欲望。
傲慢。
権力への渇望。
その小さな変化に。
誰よりも早く気付いたのは。
ずっと隣で彼を見続けてきた、たった一人の半身――1xだった。