テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
それから、数ヶ月が経った。
城の庭は、もう“荒廃の名残”ではなかった。
小さな区画に整えられた土。
手入れされた畝。
そこに根を張る、いくつもの命。
赤く実ったトマト。
風に揺れるバジル。
他にも、少しずつ増えた野菜たち。
かつては死の匂いしかなかった場所に、
今は、土と緑の匂いがある。
ノスフェラトゥは、長いテーブルの前にいた。
「マルゲリータだ」
pizza guyが皿を置く。
「……ああ」
ノスフェラトゥが、静かに言う。
「新鮮な野菜はいいな」
一口、口にする。
「生命力に満ちている」
「だろ」
軽く笑う。
「缶詰とは違う」
「当たり前だ」
短いやり取り。
それだけで、十分だった。
食後。
皿が空になる。
静かな満足が、部屋に残る。
「……」
ノスフェラトゥが、わずかに視線を上げる。
「メインディッシュは」
「やめろ、その言い方」
すぐに返す。
思わず笑う。
その軽さは、作られたものじゃない。
自然に出るものになっていた。
「……」
立ち上がって、歩み寄る。
そして――
そのまま、ノスフェラトゥの膝に乗る。
「……」
距離が、一気に近くなる。
髪をかき上げる。
首元を、さらす。
「……ほら」
軽く言う。
「ちゃんと加減しろよ」
ノスフェラトゥの瞳が、わずかに細まる。
ゆっくりと、襟元を広げる。
牙が触れる。
そして――
沈む。
「う……っ」
小さく息が漏れる。
刺さる感覚。
鋭い痛み。
だが、それは長く続かない。
すぐに、変わる。
じん、と。
痺れに似た感覚。
視界が白く染まる。
力が抜ける。
「……」
ノスフェラトゥは、急がない。
奪うようにではなく。
確かめるように。
ゆっくりと、吸う。
味わうように。
「……は…」
呼吸が、少しずつ乱れる。
でも――
拒まない。
もう、それは“恐怖”じゃない。
「……」
やがて、離れる。
必要な分だけ。
それ以上は、求めない。
「……」
静かな余韻。
体温が、少し下がる。
でも、嫌じゃない。
「……」
ノスフェラトゥが、ふと口を開く。
「明日のピザは、何にする」
何気ない問い。
日常の延長。
「……」
少しだけ、考える。
そして。
「明日はないかもしれないな」
軽く言う。
冗談みたいに。
でも、嘘じゃない。
「……」
ノスフェラトゥの瞳が、わずかに揺れる。
「私が、堪えきれなくなるか」
低く言う。
「俺が、許せなくなるか」
続ける。
二人とも、分かっている。
この関係は、均衡の上にある。
ほんの少し崩れれば、終わる。
どちらかが壊れる。
どちらかが選ぶ。
「……」
それでも。
今は、ここにいる。
「……」
pizza guyは、目を閉じる。
ふと、思う。
もし。
本当に“明日がない”としても。
「……」
あの時。
エリオットが、自分を庇ったように。
迷いなく。
笑って。
「……」
誰かのために。
この命を使えるなら。
「……」
それはきっと。
悪くない終わりだ。
窓の外。
風が、畑を揺らす。
赤いトマトが、静かに揺れていた。
まるで。
まだ続くかもしれない“明日”を、信じているみたいに。
ーーーEND
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
10,618