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#前世
shima7a
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第105話 「冬を越えて」2025年11月。
秋季大会敗退から、一か月。
柳城高校野球部に笑顔は少なかった。
まだ薄暗い中、部員たちが集まる。
福間監督は時計を見る。
「始めましょう。」
冬の練習が始まった。
ランニング。
坂道ダッシュ。
タイヤ引き。
体幹トレーニング。
そして。
何百回もの素振り。
冬の柳城は、毎年こうだった。
ある日。
練習が終わったあと。
啓介部長は、一人の一年生を見つけた。
誰もいないグラウンドで、一人素振りを続けている。
「まだやるのか。」
啓介が声を掛ける。
一年生は汗を拭きながら答えた。
「レギュラーになりたいんです。」
「秋はベンチにも入れませんでした。」
「だから、この冬で変わりたいんです。」
啓介は高校一年生だった頃を思い出した。
自分も同じだった。
誰よりも早くグラウンドへ来て。
誰よりも遅く帰った。
それでも。
甲子園へ行くことはできなかった。
啓介は静かに言った。
「努力は、すぐには結果にならない。」
「でも。」
「努力を続けた人だけが、春に笑える。」
一年生は力強く頷いた。
数日後。
放課後。
職員室。
啓介は福間監督へ尋ねる。
「先生。」
「はい。」
「どうして毎年、冬はこんなに走るんですか。」
福間監督は窓の外を見る。
グラウンドでは部員たちが走っていた。
「夏は技術で勝てません。」
「最後は体力です。」
「苦しい九回。」
「延長。」
「そこで足が動くチームが勝ちます。」
啓介は静かにメモを取る。
福間監督は続ける。
「もう一つあります。」
「冬は心を鍛える季節です。」
「誰にも拍手されません。」
「試合もありません。」
「それでも努力を続けられるか。」
「そこが、一番大切なのです。」
その言葉に。
啓介は何も返せなかった。
夕方。
練習終了。
部員たちが帰る。
グラウンドには。
一年生がまだ一人残っていた。
黙々と素振りを続ける。
その姿を。
福間監督と啓介は並んで見つめていた。
福間監督が小さく笑う。
「楽しみですね。」
啓介も頷く。
「はい。」
冬は長い。
寒く。
苦しい。
しかし。
春は必ずやって来る。
その春に笑うため。
柳城高校野球部は。
今日も白い息を吐きながら、前へ進み続けていた。
第102話 終
コメント
1件
うわ、もう102話…! 冬の稽古の肌を刺すような空気と、誰も見てないとこで素振りを続ける一年生の姿がすごく響きました。「努力を続けた人だけが春に笑える」って言葉、めちゃくちゃ染みる…。福間監督の「誰にも拍手されないからこそ」の真意、重いなあ。啓介くんと監督が並んでその一年生を見つめるラスト、静かだけどあたたかくて、次の春が楽しみすぎます🌙 更新ありがとうございます!