テラーノベル
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街はすっかり暗くなって、駅前のツリーが一番輝く時間帯。黒尾はマフラーに顔をうずめながら、何度目か分からない時計チェックをしていた。
(遅いとかじゃねぇけど……)
受験、模試、進路。
最近は会話の半分がそんな話で、デートも短時間ばかり。
だからこそ今日のクリスマスの夜は、少し特別で――少し、緊張していた。
「てつくん」
振り向いた瞬間、黒尾の思考が全部止まる。
「………」
白いニットに、落ち着いた色のコート。
短めのスカートにタイツ、足元は小さなブーツ。
派手じゃないのに、🌸らしさが詰まった“可愛い”がそこにあった。
「……え、ちょっと
なにそれ」
「え、変?」
「逆。
可愛すぎて、今ちょっと困ってる」
黒尾は額に手を当てて、わざとらしくため息をつく。
🌸はそれを見て小さく笑った。
「受験生のデートだから、あんまり派手にはできないなって思って」
「その気遣いがもう可愛いんだっての」
そう言って、自然に手を取る。
互いの指が絡むと、少しだけ強く握った。
「最近さ……」
歩きながら、黒尾がぽつりと切り出す。
「会うたびに『次はいつ勉強だ』『模試だ』って話ばっかでさ。
今日くらい、全部忘れたかった」
「私も」
🌸はコートの袖をぎゅっと掴みながら頷いた。
「正直、不安になる。
春になったら、環境も時間も変わるんじゃないかって」
イルミネーションの下で立ち止まり、二人は向き合う。
きらきらした光の中で、黒尾の表情はいつもより真剣だった。
「でもさ」
黒尾は少し屈んで、🌸と目線を合わせる。
「受験だから離れるとか、忙しいから冷めるとか、
俺はそういうの信じたくない。
てか離れる気もない。」
「……てつくん」
「ちゃんとやる。勉強も、🌸のことも、将来も。
だから――」
一瞬言葉を探してから、照れたように笑う。
「こうやって隣にいる時間、大事にさせてくれ」
🌸の目が潤んで、でもすぐに笑顔になる。
「うん。
じゃあ私も、ちゃんと頑張る。てつくんの隣にいられるように」
黒尾は照れ隠しに頭をぽん、と軽く撫でた。
「🌸らしいよ」
屋台で買ったホットココアを半分こして、
寒さに肩を寄せ合いながら歩く。
「ね、来年の今頃はさ」
🌸が言う。
「受験終わって、もうちょっと余裕あるデートしてるのかな」
黒尾は即答だった。
「してる。
その時は今日よりもっと甘やかす」
「え、今でも十分甘いのに?」
「まだ本気出せないだけですヨ」
そう言って笑う黒尾に、🌸は顔を埋める。
夜の終わり、帰り道。
名残惜しくて、駅の前で足が止まる。
「メリークリスマス、🌸」
「メリークリスマス、てつくん」
短い時間でも、確かに心に残る夜。
受験という大きな壁の前で、二人はそっと手を握り合ったまま、
それぞれの未来へ向かう覚悟を静かに確かめ合っていた。
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