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一晩経って俺の心に残っているものは、達成感ではなく虚無感だった。電車に揺られながら、その理由を見つけあぐねていた。

車窓に、田畑が混じり始める。

バルドゥビーダさんはスイスの、聞いたことのない町へと向かう。ミューズ社改め「音楽帝国」(M‐Empire)の本社……彼らの考えから言うと首都と言ったほうが適しているのかもしれない……が東京からそちらに移動する。日本(社内では「日本州」と呼んでいるそうだ)のトップには羽田氏が就任するという。昨日のライブのあとに初めて聞いたのだが。

昨日の俺を、真の挑戦者だと語ったバルドゥビーダ氏自らは、世界への挑戦者である。あの会社がこれから音楽の垣根を越えて、どんなことを起こしていくのかは、今日の俺にはわからない。

未来の俺は、昨日の俺も今日の俺も知らないことを、知っているはずだ。

「あの人はギターから生まれた。そして音楽に育った。今、手の届かない世界に行こうとしている」

独り言は声になっていたらしい。向かいの高校生らしきグループが、不審そうにこちらを見たあと、車両を変えた。

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