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atmz
春の匂いがまだ残る放課後。
教室の窓から差し込む夕陽の中、atは笑っていた。
その隣にいるのは、同じクラスの女子。
柔らかく肩に触れる指先。自然すぎる距離。
それを見ているだけで、胸の奥がじわりと痛む。
(……知ってるよ)
atには、もう恋人がいる。
正式に付き合っている。隠してもいない。
廊下で手を振る姿も、放課後に一緒に帰る背中も、何度も見た。
それでも。
at「mz、今日部活出る?」
不意に声をかけられて、心臓が跳ねる。
mz「……出る」
なるべく普通に返す。
普通の友達みたいに。何でもない顔で。
atは少しだけ首を傾げて笑った。
at「そっか。じゃ、後でな」
その一言が、こんなにも嬉しいなんて。
触れられない。
奪えない。
絶対に自分のものにはならない人。
分かってる。
分かってるのに、好きになるのを止められなかった。
⸻
体育館裏。
部活帰りの静かな空気の中、mzはひとり座り込んでいた。
夕焼けが滲んで見えるのは、きっと汗のせいだ。
そう思い込もうとする。
at「……何してんの」
聞き慣れた声。
顔を上げると、atが立っていた。
mz「別に」
at「嘘つけ。顔、変」
mz「変って何だよ」
笑って誤魔化そうとしたのに、声が少し震える。
atは少しだけ困ったように眉を下げた。
その優しさが、一番残酷だ。
mz「……あのさ」
気づけば、口が勝手に動いていた。
mz「もし、atが誰とも付き合ってなかったら」
自分でも何を言ってるのか分からない。
でも止まらない。
mz「俺にも、少しは可能性あった?」
沈黙。
風が吹いて、桜の花びらがひらりと落ちる。
atは、すぐには答えなかった。
やがて、静かに言う。
at「……今の俺には、答えられない」
その言葉で十分だった。
ああ、やっぱり。
mz「ごめん。変なこと言った」
立ち上がろうとした瞬間、手首を掴まれる。
at「でもさ」
低い声。
at「嫌いじゃない」
心臓が、壊れそうになる。
at「mzは大事だよ。友達として」
――友達。
一番欲しくない言葉なのに。
mz「……知ってる」
それでも、笑うしかなかった。
だって、
好きな人が幸せなら、それでいいなんて。
そんな綺麗なこと、言えないけど。
それでも。
誰かのものの君を、好きになったのは俺だ。
誰のものでもない想いだけは、俺のものだから。
夕焼けの中、掴まれていた手がそっと離れる。
もう二度と踏み込まない距離。
それでもきっと、明日も隣で笑う。
誰かのものの君を、
今日も変わらず好きなまま。