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気づけば俺は自分の部屋のベッドで横たわっていた。
ビリビリと音がなり、瑛人は倒れた。
それはフェイクでもなんでもなく、身体を痙攣させて床に倒れ込んだ。
「瑛人……!」
かけよって身体を揺すってもぴくりともしない。彼は息をしていなかった。
「無駄だ。高圧電流だ、一瞬で死に導くさ」
村田義彦に心は無かった。
実の息子である彼の姿をこの目で見ても、表情ひとつ崩さずに背中を向ける。
「おい……っお前、」
考えられなかった。こんな人間がいるなんて。
こんなこと平気で出来る人間がいるなんて思いもしなかった。
「なんでこんなこと平気で出来るんだよ!」
俺は村田義彦に掴みかかった。
「本当の息子なんだろ?」
尋ねても振り返らない。
ただ足を止めて小さく呟いた。
「無論。使えないものは消すまで。今後の社会において重要なことだからな」
手を力強く握り締める。
耐えられない。
こんな考えをするやつが側にいるなんて。
「覚えておくといい。今の社会、弱いものを助けて切磋琢磨する資本主義なんて言っている余裕すらなくなってくる。必要なのは使える人間だけ。使えない人間の代わりはロボットが出来る。それが実の息子であろうと関係ない。今の今まで甘さが無駄を呼びこんな状態になって来たのだからな」
俺はかっとなって村田義彦の腕を掴んだ。
「最低だな。お前の考えは生まれ変わったって理解出来ねぇよ」
睨みつけると、勢いよく腕を振り払われた。
そして村田義彦は言った。
「つまみ出せ」
「おい、やめろ!」
こうしてガードマンがふたりがかりで俺を抑えつけ、俺は強制退場させられた。
そこからはあまり覚えてない。
暴れまくってここに放り投げられたのか、気づけば意識を失っていた――。
瑛人……今でも強い喪失感がある。
そういえば、あの3人はどうなったのだろう。
目の前の時計は【98人】と表している。
減った人数はひとりだけ。
瑛人だけか……。
そんなことを考えていた時、大きめのアナウンスが流れた。
「皆さんに重要なお知らせがあります」
なんだ……!?
突然言われた言葉に耳を傾ける。
すると、アナウンスは驚くことを伝えた。
「次のディスカッションにより、規定人数に達することが見込まれましたので、明日のディスカッションが最後のディスカッションと致します」
明日が最後のディスカッション!?
こんなに突然、終わりがくるのか。
今まで終わりが見えずにやって来たことにやっと終止符が打たれる。
不安と安心が入り混じった変な感覚だった。
「明日は10時40分から開始しますので、この時間までに指定の部屋に集まって下さい」
ラストのディスカッション。
どんなものが来るのだろう。
まるで見当がつかない。
もしかしたら俺の命が明日、尽きる可能性もあるんだよな。
決して油断してはいけない。
今日一日色んなことがあり過ぎたせいか、俺にはもう何かをする体力は残っていなかった。
極度の緊張や喪失感。
明日の今頃は不安から解放されているんだろうか。
それとも俺はもう……。
ダメだ。
考えるのをやめよう。
俺はベッドに横になるとそのまま眠ってしまったーー。
翌朝。
目がさめると、俺はディスカッションの準備をした。
朝食をとり、ノートを見返していた時。
アナウンスが鳴る。
「部屋のロックを解錠しますので今から15分以内に指定の部屋に集まって下さい。部屋番号はいつも通り、時計を見て確認してください」
時計を確認すると俺の部屋番号は【3】を表示していた。
最後のディスカッション。
どんな議論になるのだろう。
そんなことを考えながら部屋を出る。
廊下を歩いている時、あの3人に会うことは無かった。
あの後3人はどうなったのだろう。
俺が無事だということは3人もしっかり部屋に帰されたと信じたいが……。
【3】と書かれたドアをガチャっと開けると、そこには円になるように椅子が並べられていた。
ざっと数えて10人席か……。
いつもよりは多い。
残りが98人であるならば、単純に計算して10グループ出来る感じか?
自分の名前が書かれた席に座る。
もう数人がすでに来ていて、何かを話しているようだった。
「あの、」
俺が隣に座る男に話しかけた時、周りがざわめいた。
「お前……朝井良樹か」
「な、なんで知ってるんだ」
この場にいる全員が俺を見ている。
「なんでも何もねぇよ!昨日のゲーム、見てたやつなら全員知ってる」
すると俺の向いに座っていたやつも合わせて言う。
「彼についていけば間違いないぞ!」
「いや……俺はそんなんじゃ……」
「謙遜はいいって、いいかみんな。何があっても彼の意見に賛同しよう」
周りが揃ってうなずく。
おいおい……。
マズいことになったぞ。
期待値が高すぎる。
昨日の個別ディスカッションに勝利したという功績はデカかった。
その後も後から入って来た人たちは皆俺を見て同じ反応をした。
昨日の奴だ!と騒ぎ、アイツについていけば間違いはないという信頼を寄せる。
上手くいけばいい方にいく。
しかしディスカッション中にそうでもないと気づかれたら?
信頼が傾けば俺は一気に落ちていくはずだ。
俺は極度の緊張からか、手が震えだした。
こんな時、どうすればいい?
落ちつかなければ。
でもみんなが見ている。
震える手を必死に握りしめた。
「制限時間になりました」
そしてアナウンスが鳴り響く。
「射殺の対象者はいません」
最後のディスカッション。
時間内にこの部屋に集まらなかった者はいなかった。
最後という言葉にみんな期待を持っている。
これさえ終われば、ここで勝ち上がれば帰れる。
そんな期待の中、ぶつかり合うディスカッションはどんなものになるのだろう。
そう考えていた時、アナウンスがぶちっと切られた。
そして発した声は聞き覚えのある声だった。
「今からディスカッションを始める。最後のディスカッションはスカウトディスカッションだ」
村田義彦の声だった。
スカウトディスカッション……。
今までとは違うことは明らかであった。
「このディスカッションは点数は関係ないものとする。今、モニター越しにそれぞれの会社の人事担当者がキミたちの議論を見ている。ディスカッション終了後、採用したいと思った人に投票をしてもらう。つまりここでキミたちの就職先が決まる」
ここで決まる……。
そういうことか。
俺は村田義彦の考えていることがなんとなくわかった。
決まる、場合だけではない。
「人事担当者は100人、つまり100社用意した。1会社1票のスカウト権がある。つまり今キミたちが残っている人数よりも多いということ」
「単純に言えば全員が受かる可能性もあるディスカッションだ」
そんなうまくいくはずがない。
目立つ人、いい意見を言った人。
注目された人。
そんな人にスカウトの表が集まるに決まってる。
会社だって自分の会社の将来を考えている。
妥協して人を選んだりはしない。
つまり、これは今までで一番厳しいディスカッションになるということだ。
村田義彦は声のトーンを落として続けた
「当然、どの会社からもスカウトの表が集まらなかった場合、死を意味する」
アイツのやり方はもうわかっている。
つまり簡単。
需要がない人は必要がないということだ。
みんながごくりと唾をのむ。
目の色が変わった。
これこそ勝負だ。
ここにいる人を蹴落として、自分が選ばれなくてはいけない。
「では議論のテーマを発表する。〝議論のテーマは人間がAIに劣らない点を議論せよ” 議論の時間は30分」
なるほど……今までこのディスカッションのをやって来た意味を問うような議論だ。
それにしても30分……異常に短いな。
「今回はひとりひとりの意見を出すということでグループでまとめて発表する必要はない」
なるほどな。
自分がいかに良い意見を言うか。
「それでは始め」
村田義彦の声を合図に議論が始まる。
ひとまず自己紹介から始めて、俺たちは議題に入ることにした。
司会進行役は俺の右隣に座っていた荒巻耕哉(あらまきこうや)だ。
今回も司会をやろうとしたが、期待されている雰囲気の中手を挙げにくく俺は役職にはつかないことにした。
さあ、どう出てくる。
荒巻は言った。
「とりあえず、ひとりずつ意見を言って行きましょう」
全員が意見を言える場を作った。
荒巻がまず、自分の思う意見をみんなに伝えてから、荒巻の右となりに座っている者から順に意見を言っていき、最後は俺という順番で発表することになった。
荒巻の隣にいる佐藤しおりが発言をする。
「人がAIに劣らない点はクリエイティブな発想力だと思います」
そう静かに言った佐藤しおりは言葉をつづけた。
「機械に出来ることは、今既に存在しているものをテンプレートとして呼び起したり、それを組み替えたりするだけです。
つまり、存在しないデータを呼び起したり、またその逆、存在していたデータを歪曲することはできない。そこが人間知性との違いです」
なるほど。
確かにその通りだ。
人は昔にあった出来事をハッキリ覚えている時もあればかすかにしか覚えていない時もある。
覚えていることの中にも事実が曲がっていたり、本来そうでなかったものをそうだと思い込んでいたりすることもある。
“思い出は美化されやすい”
よく聞くことの言葉も人間だからこそ出来ることで、事実の中に生まれる創造力と歪曲した事実から生まれる想像力の2つが存在する。
機械にはそれがない。
正しいデータからしかモノは生み出されない。
「では次、吉沢さんお願いします」
俺は黙って話を聞いていた。
後半に行けば行くほど被りやすく、〇〇さんと同じ意見ですが……という言葉が強くなった。
そう考えると、人間にAIが勝てるもはあまりないのか……。
いや、そうじゃない。
他にもたくさんあるはずだ。
「僕が考えるのは……」
茂木と名乗った男はしっかりとした口調で言った。
「人と人を繋げるコミュニケーションを必要とするものは機械には出来ません。例えばロボットが教えることと、人が教えること、全く同じように教えていても、変わってくる。人とのふれあいを中心とするものはAIに負けないと思います」
おもてなしと呼ばれるもの。
ロボットがいくら早く、いくらタイミングよく出してくれたとしてもそこに愛は生まれない。
心でしっかり感じ取ることでまた来たい、知りたい、という感情に繋がる。
茂木の発表が終わると次は俺の番だった。
俺は静かに話し始めた。
「まずひとつ、AIが人に劣らない点はたくさんあります。ひとつは感情があるということ。AIに感情はありません。人の言葉に影響されたり、他人の行動に感動したりそんな気持が動かすものは何もありません。でも人にはあります。誰かの言葉で変われた、誰かの行動ひとつで動きだした。そういうことってたくさんあると思うんです」
真剣に話した。
このシステムは間違っている。
多くの人が犠牲になって来た。
その人たちのためにも自分のためにも決して意見を曲げてはいけない。
「だから人間の行動はデータなどで図ることが出来ません。つまり人間の成長は未知数です。必要のない人間がいるとするのなら、それは人をロボットと同じように見ているからです。人と人が混じり合った時に何か生まれることを考えていないからです。
それを必要と判断されたものだけが残される時代になるのなら、この世界は新たなものを生み出さない世界になります。
決められたこと、決められた範囲内での発想。想像を超えることは無くなる。それこそがロボットの住む町です。俺は人の価値ってそんな簡単に決められるものじゃないと思うんです」
自分の意見をすべて言い終わった時、周りはシーンと静かになった。
独りよがりの意見かもしれない。
それでもすべてを伝えられたことにほっとした。
「終了です。話し合いをやめて下さい」
こうしてディスカッションは終了した。
「ここからは企業の皆さんの投票時間になります」
ドクン。
投票……。
そうだった。
忘れてはいけない。
今から投票が始まることを。
俺の意見はこれから国が作っていく社会に合わないと思われたら1票も入らない可能性だってある。
ここで終わりか、それともここを抜け出せるのか。
すべて今日決まるんだ。
しばらく俺たちは待たされた。
何もすることがない時間をじっと過ごしていた時、アナウンスが言った。
「集計が終わりました。これから目の前のスクリーンにて名前と獲得数を発表します。名前が無かった人は処刑の対象となります」
じっとモニターを見つめる。
待っているとパっと名前リストが挙がりはじめた。
【1位:藤崎斗真 36票】
藤崎!?アイツが1位……。
しかも獲得数36票。
これから単純にひとり1票入ったとしても36人の犠牲が決まったということだ……。
このディスカッション、一番簡単に見せておいて、最も残酷なディスカッションだ。
【2位:星沼朱莉 12票】
朱莉……。
やっぱり俺はすごい奴らとのディスカッションを乗り越えて来ていたんだな。
朱莉が入っていてくれたことに俺はほっとした。
これで残りの表は52票。
何がひとり1票入れば助かるんだ。
こんなのいい意見に票が集まっていくに決まってる。
どうなるんだ……このまま票が集まり続けたら……。
【3位:朝井良樹 9票】
俺はモニターを見て声にならない声を漏らした。
「……っ」
3位。
9票の表が集まった。
ぎゅっと手を握り締める。
1票集まればいいと思っていた意見で9票だ。
3位以降は一斉に発表された。
当然それ以降から1票ずつなんてキレイに別れるわけもなく……犠牲になる人は増えていくばかりだった。
そんな中でも千春の名前が6位に入っていて俺は安心した。
みんな助かったのか……。
これでここを出られる。みんな揃って……。
しかし処刑の時間はやって来た。
「獲得数0の人間、総勢56人を処刑します」
票を1票も獲得できなかった人は半分以上になった。
初めから運営側はこの人数を望んでいたのだろうか。
多くここに集まった人間が気づけばもう50人以下になってしまっている。
ぎしっと歯を食いしばる。
その瞬間、目の前にいる人たちの腕時計がバチバチと音を立て始めた。
なんだ!?
見てみれば、火花を散らしている。
そしてその瞬間、ビリビリと電気が身体を伝った。
短い電流で一気に人を死に導く感電死だった。
電流に打たれた人は一瞬身体を痙攣させたものの、あとは白目を剥いて床に倒れ落ちた。
誰も息をしていなかった。
「……っ」
俺の部屋の中では3人が倒れる結果になった。
「最終ディスカッションを終了します」
最後のディスカッションが終わった。
それでもとても手をあげて喜べる状況ではない。
こんなことをする意味がどこにあるんだろう。
誰も言葉を発しないまま、俺たちはその部屋から出た。
部屋を出て自分の部屋に戻ると少しの休憩時間があり、その後にまたステージに来るようにというアナウンスが入った。
【43人】
生き残ったのは43人か……。
始めは300人近くいたのに。
多くの人が犠牲になってしまった。
「生き残った皆さまはステージへお越しください」
アナウンスが鳴り、疲れがたまったままステージに向かう。
最初はたくさんいて窮屈だったステージもスカスカになってしまっていた。
その中には、藤崎や朱莉、千春の姿がある。
それだけが唯一の救いだ。
最後、誰かが犠牲になることがあったら俺は耐えられなかっただろう。
しばらく待っていると、ステージに村田義彦がやって来た。
「生き残った皆さん、おめでとう。キミたちは社会的に必要な人物として選ばれました。
ゲームの最初で言ったようにキミたちには就職権が与えられます。
どこの会社に就きたいか自ら選んで申請してください。必ず入社出来る仕組みになっています」
村田義彦は今後の説明をし始めた。
どうやらここから本当に出ることが出来るらしい。
そして、出たら自分の就職先を選ぶことが出来る。
どこでも入ることが出来るが面接は一応するらしい。
最終ディスカッションでスカウトが自分に来ていた会社に入る場合は面接も必要無し。勝ち残った人には不自由しない生活を与えると言っていた。
そして。
「もちろん就職権を放棄することも可能です」
村田義彦は言った。
就職権の放棄。
企業をするもの、留学をするもの、など理由はさまざまだがそういう人たちにも金銭的な援助はするらしい。
すると1位から順番に村田義彦は名前を呼んだ。
「藤崎斗真くん」
ステージに上がるように促され、藤崎はそこに向かう。
「あなたは就職権を受けますか」
その質問に藤崎は頷いた。
「もちろんです」
そうだよな……。
藤崎は自分のメリットになることは受けるタイプの人間だ。そうやってここまで勝ち上がって来た。
あれが彼のやり方だった。
あの日、俺の手助けをしてくれたのは本当に奇跡的なことだ。
「星沼朱莉さん」
そして朱莉が呼ばれる。
「あなたは就職権を受けますか」
その言葉に朱莉は首を振った。
「自分で1から選ばせて頂きます」
朱莉……。
朱莉は就職権を放棄した。
意外だった。
あの冷たいまなざしをして、感情よりも勝つことを優先していた彼女が今は自分で進路を選びたいという。
みんなゲームをやる過程で気持ちに僅かでも変化があった。
そう思ってもいいだろう。
人っていうのはそういうものだ。
気持が動く、変われる。
クリエイティブな世界を目指すというならば、様々な考えに触れ、人に触れ、新たに生み出すことをしなければ、同じような発想しか生まれない。
「朝井良樹くん」
名前を呼ばれて、ゆっくりステージまで向かう。
村田義彦と向き合って、俺はその男を睨みつけた。
様々な死をこの目で見て来た。
数ある未来を消して、優秀だと上が決めた人だけがこの世界に残る。
愚かだと思う。
それこそAIに支配された人間が考えることだ。
でも残念なのは、彼だけが人を消せばいいと考えているわけじゃない。
国全体でその考えがあったからこそ、クリエイティブ社会向上法は可決した。
本当に愚かだ。
「あなたは就職権を受けますか」
村田義彦の問いに俺はまっすぐ見つめて答えを出した。
「受け取りません」
ずっとおかしいと思って来たこのシステム。
ゲームを終えたところでその気持ちは一切変わらなかった。
自分の道は自分で決める。
俺はゲームのこの国のいいなりになりたくなかった。
村田義彦は俺にしか聞こえないくらいの声で言った。
「そうか。残念だな……キミは優秀な人物だ。こちらでいい会社を用意しようと思ったのに」
「結構です」
力強くそう言った。
村田義彦と瑛人は目元がよく似ている。
瑛人……。
それでも俺はお前のこと、村田義彦と似ていたとは思わない。
親父の言われるがままに、素直に行動して来たのだろう。
俺は瑛人が最後見せた表情を忘れない。
『出来そこないめ』
村田義彦が言い放った言葉に、彼は寂しそうな表情でつぶやいた。
『父さん……』
恐らく俺にしか聞こえて無かっただろう。
その時の瞳が、言葉がすべてを物語っていた。
瑛人は本当はそんな風に生きていきたかったんじゃないんだと――。
まるで汚れのないような空。
でもそれが偽りであることを知っている。
「本当、何してるのかしらね私たちは」
朱莉が言う。
選び抜かれた人々だけが住む世界を作り出してしまった。
これから一体どうなるのだろう。
「朱莉ちゃんも就職権受け取らなかったんだね」
千春が尋ねる。
千春と俺と朱莉。3人は就職権を放棄した。
「悪い?」
「ううん。ちょっと意外だったから……」
「そうね、前の私だったら就職権を受け取ったかもね」
「僕は最初から受け取るつもりだったけどね」
藤崎が横から口を挟んだ。
「そうだろうな」
「君たち、起業したら?」
「なんだよ突然」
俺の言葉に藤崎はにこっと笑顔を作って言った。
「だってなんか言いたいことがあるみたいだし?どうせ自分で探した他の会社に行っても何も変わらないんだしさ」
変わらない……確かにそうかもしれない。
「いいかも」
千春も言った。
「僕にメリットがありそうなくらい成長出来たら入ってもいいよ」
「本当、藤崎は変わらないよな」
あのゲームを行い、変わったものも変わらないものもある。
でも発信していかなくては何も変わらない。
この状態を嘆いているだけじゃダメだと思った。
クリエイティブ社会向上法。
恐ろしいシステムだと知った。
変えていかなくちゃいけない。
能力がないと判断した人間を平気切り捨てることできるこの世界を。
力強く手を握りしめ、俺は目をつぶった。
数々の犠牲や裏切り。
もう2度とこんなことが起きないように、俺たちは1歩生み出したーー。