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翌朝。俺達は準備を終えると馬車で移動を始めた。
広場のような所に差し掛かったところで馬車を止める。
「馬車から馬を外そう」
「はい」
馬を外したら馬車を家へと転移させた。
「馬は安全そうな森のどこかに連れて行っておこう」
「そうですね」
昨日の馬車が落ちていた山(切り立った崖)とは違い、ここは起伏の少なそうな森の中だ。
街道は森を逸れて王都へと向かっている。街道の近くは魔物が出にくいようだから、俺達は離れていく。
少し進むと開けた場所に出た。
「この辺りにはまだ魔物の反応がないから、ここに馬を置いていこう」
「はい。繋いでおきますね」
ミランが馬を繋いだのを確認してから、森の奥へと進んだ。
「反応がいくつかある。近いところから行くか?」
「そうですね。強さはどうですか?」
反応の強弱はそこまで違わないな。
「変わらないと思うぞ」
「では、近いところから行きましょう」
俺達は300mほど離れた位置にある反応に近づく。
「いました」
魔法があるので方向と距離はわかるが、俺にはまだ目視で捉えられない。
肉眼は諦めてスコープを覗くと、その姿を見ることができた。
「なんかデカイな…」
「はい。あれはオークと呼ばれる魔物でしょう。私も見るのは初めてですが、組合で聞いた特徴と一致します」
さすミラ(流石ミランの略)だな。頼りになるぜ!
「あれがオークか。確かに俺の知っているオークだわ」
豚顔に二足歩行、体長は人と同じか少し大きいくらいだな。
「強さ的には冒険者ランクでEランクパーティ以上推奨とされています」
「そうか。なら今の銃がまだ効きそうだな」
強い魔物は生半可な攻撃は効かないと聞いている。
俺たちがギリギリ倒した赤目熊はCランク相当。この辺りのレベルになると今の銃では肉体を貫けない。
まぁ、俺に魔法があるからなんとかなったが……
偶々目にも当たったしな。
「なんにしても態々危険を冒すことはない。ここから撃つ」
ミランにそう告げた俺はライフルを構えて引き金を引いた。
バァンッ
ドサッ
「ナイスッ!ヘッドショットでしたね!」
褒められた!
夜中にこっそり転移して練習していた甲斐があったな!
「まあこんなもんか。回収に向かおう」
なんてことないですよ?感を出して、オークの元へと向かった。
仕留めたオークは首を落として血抜きをした後、肉も売れるようなので川に転移して解体をして、野営場所に再び転移して魔法で氷をいくつも出し、肉を氷で包んでおいた。
「よし。この調子で沢山仕留めよう」
「はい!次は私の番ですね!」
俺達はその後も討伐という名の狩りを楽しんだ。
夕方前に、そろそろ帰ろうかと提案しようとした時、魔力波の範囲内に反応があった。
「なにかいる…いや、これは…向かって来ている?」
「どういうことでしょうか?」
「オークなんかより明らかに強い反応が、こちらに向かって来ている」
ヤバいな。かなりの速さだぞ。
「どうやら俺たちが目的みたいだ。かなりの移動速度だから逃げられない。迎え撃つぞ!」
「はいっ!」
手持ちの武器はライフルにハンドガン。それに手榴弾が2つ。後は魔導書か。
「ミランは手榴弾の扱いを覚えているな?」
「はい。どうするんですか?」
距離は300mを切った。
「あれは…オーガか?」
スコープを覗いて相手を確認した俺は、その容貌からオーガを連想した。
頭にツノが生えた筋肉ダルマの巨人だ。
バァンッバァンッバァンッ
引き金を3回引き、全て命中した。
「血は出てるけど…擦り傷かよ。一キロくらいの距離なら確実に人なら殺せるって代物なのにな」
こちらに遠距離の攻撃方法があるとわかり、まだ距離は離れているがオーガは慎重に距離を詰めてくる。
だが、これで俺に集中してくれたな。
後は俺が上手い具合に誘導出来るかどうか……
バァンッバァンッ
「ガードした!?嘘だろ!?」
オーガは着弾前に顔の前に腕を持っていき、銃弾から身を守って見せた。
『グォオアアアッ!!!』
ビリビリッ
「くそっ!なんて雄叫びだ!」
ライフルの構えを解き、耳を塞いだ俺を見て、オーガは一気に距離を詰めて来た。
「くっ!」
バァンッバァンッバァンッ
『ファイアウォール』
ハンドガンで銃撃しつつも、詠唱を暗記していた魔法を繰り出す。
『グゥオオッ!』
炎は苦手なようだな!
炎の壁で時間稼ぎが出来た俺は、大木の方へ移動してライフルを再び構えた。
ドンッ
凄まじい衝撃音と共に、オーガは魔法が消える前に炎の壁を飛び越えて来た。
好都合だっ!
『ファイアウォール』
もう一度同じ魔法を唱えてオーガの前後を炎の壁で塞いだ。
「ミランッ!」
俺の掛け声の後に、
「えいっ!」
可愛らしい声が聞こえた。
直後。
ドガーーンッ!
手榴弾が炸裂する。
・
・
・
ファイアウォールも消えて砂塵も落ち着いた。
『がぁああ』
片膝をつきながらもまだ生きている。しぶといやつだ。
だが、もう終わりだ。
『アイスバーン』
詠唱時間が稼げた俺は、上級魔法を放った。
手榴弾の影響で片膝をつき、こちらを窺っていたオーガの下半身は凍りついた。
「大丈夫ですか!?」
木の上からミランが心配の声をあげた。
「大丈夫だ。詠唱に入るから見ててくれ。変な動きをしたら遠慮なく手榴弾をお見舞いしてやってくれ」
「はいっ!」
ミランの元気な返事を聞いて、俺は魔導書に目を落とす。
そもそもが意味のない音の羅列だ。中級魔法くらいなら覚えられるが上級魔法はまだまだ無理だった。
知らない言語の歌の方が簡単に覚えられる。それくらい頭に入らない、覚えられないように作ったとしか思えない詠唱だ。
30秒程の詠唱を終えて、漸く最後の言葉を残し、詠唱が完了を迎える。
『アイスブロック』
森の中に轟音と衝撃が走った。
「そのまま持って来たけど、オーガはどこが売れるんだ?」
森から転移で戻った俺達は、オーガをその場に残し、俺は馬車を、ミランは馬を取ってきて、再び集まった。
「討伐証明部位としては、2本のツノが納品出来るようです。
後は魔石ぐらいではないでしょうか?」
「肉は食えないのか?」
「聞いたことがありませんね」
じゃあ食えないのかもな。そもそもがリゴルドーでは滅多に見かけない魔物らしく、よくわからんとのこと。
「じゃあ、他は燃やしてしまおう。防御力は高かったけど火を恐れていたから燃えるだろう」
これが間違いだった……
「うげぇー」
「うっうぅー」
俺達は吐き気と目の痛みに襲われていた。
「セイさん!水魔法で消してください!」
「わかった!おぇっ」
これも間違いだった……
燃えているものへと半端に水を掛けると、水蒸気を含んだ煙が多く出る。
「おぇぇぇっ」
「うっぷ。離れましょう…」
俺達は諦めて、その場を離れた。
「何だったんだ?」
「オーガの何かが燃えるとああなるんでしょうね」
必ず処理方法を学ぼう。
俺は心に決めた。
「とりあえず聖奈を迎えに行くまでに、野営の準備をしてしまおう」
「はい…」
俺達は何とか立ち直り、夜を迎える準備をした。
「そんなことがあったんだね…初めて地球にいて良かったって思ったよ」
聖奈さんを迎えに行き、今日の出来事を話すと、そんな感想があった。
「聖奈にも是非体験してもらいたかったな」
「セイさん…あれは殺人的ですよ…」
「ははは…そんなにすごかったんだね。
私の方は無事にバイトさん達を迎え入れれたくらいかな。
あっ。あと温泉旅館も抑えたよ!」
オーガのショックで忘れていたな。
オイルショックならぬ、オーガショックと名付けよう。
「そうか。ありがとう。親父達に伝えるから、また今度教えてくれ」
「教えちゃうの?どうせセイくんが送迎するんだから、場所はサプライズにすれば良いのに」
えっ?俺が送るのか!?
「なんて顔をしているのかな?親孝行なんだからそれくらいしてあげないとね!」
「その間、こっちはどうするんだよ?」
「それはお休みだよ!ミランちゃんもその時はそこに留まるか、リゴルドーに転移で戻るか考えておいてね!」
「はい!それより明日は、いよいよ王都ですね!」
そうだ。明日の昼くらいには王都に着く。
旅に出る前と違って、異世界でも地球でもやらなくてはならないことが増えたな……
その日は3人で、代わる代わる夜番をした。
翌朝。問題なく夜を過ごした俺達は、馬車に乗り込んで王都を目指した。
行く道で沢山の馬車や旅人、冒険者とすれ違う。
やはり王都と言うだけあって、かなりの人が集まり、また散らばって行くのだろう。
王都の人口は200,000人らしい。国の総人口が、3,000,000だから1割に満たない。
江戸の人口が最大100万人で江戸時代の日本の最大人口が3,800万人だったことからも、この世界の人達がいかに纏まって暮らしているのかがわかる。
確かに、オーガとか強い魔物が出るのに、村や集落の規模ばかりだと守れないもんな。
街道沿いにはそこそこ小さな集落はあったが、それは街道が近いからだからな。
農業とかも纏まって大規模でしているのだろう。
そんなことをボーッと考えていたら、道の先の光景に、圧倒されることになった。