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俺は春樹、12歳の中学生だ。
俺は今叶えたい夢がある。それは、ギタリストになることだ。
僕は器用じゃないし才能がある訳でもない。
飽き性なので殆どの夢は諦めてきた。
だから正直将来の夢など考えなかった。
だが、そんな僕にもとうとう本気で叶えたい夢が出来た。
僕の熱意が次第に親に伝わり、ギターを買い、レッスンを受けることになった。
でも、飽き性な僕はレッスンすら楽しくなくなっていた。
「ああ、出来ないや」
指が曲に追いつかない。
だが、軽く楽しそうに演奏する憧れのギタリストを見て、「いつか絶対こうなってやる」と思う気持ちだけは忘れなかった。
じゃないと諦めてしまうと思ったからだ。
「お前、将来の夢とかある?」
「ん〜、俺はお笑い芸人かな笑笑」
「お前にすげえ合ってると思うよ!」
学校の休み時間、クラスのお調子者である駿翔と、いつも一緒にいる啓太が将来の夢について話していた。
僕も駿翔達とよく話すので、いつものように話に混ざった。
「今何の話してんの〜?」
「将来の夢だよ!あ、春樹はなんかないのか?」
「俺はー、ギタリストだよ!」
元気よく自分の夢を話した。だが、
「お、おー。意外だな。」
「なんか、な、お前がギタリスト。へぇ〜、意外」
思っていた反応と違った。
さっき啓太にした反応のように、合っていると言われる事を期待していたのに。
「啓太、土日のどっちかで遊べる?」
「全然遊べるよ!」
「あ、春樹来るか?」
「ごめん、レッスンで…」
「あー、おっけー分かった。」
明らかに場の空気を盛り下げてしまったと後悔した。
「ごめんな、行けなくて」
「お、おう、頑張れよ」
友達も一応応援してくれていると感じ、少し嬉しかった。
「おい春樹、今日レッスンの日だろ」
「あれ、?今日土曜日か!レッスン行かないと」
最近はレッスンの遅刻が増え、バタバタすることも多くなった。
早く準備をしないと…あぁ、これ忘れてたよ。
「じゃあ、この曲のこの部分は…」
説明をしっかり聞いているはずなのに全く頭に入らない。自分でも不器用どころの話ではないと思うようになった。
「ここはこんな感じに…って、おーい、春樹くん、ぼーっとしないでくれ」
また別のことを考えてしまっていた。
「一旦ここやってみて 」
やってみてって言われてもなあ…
「すみません、出来なかったです」
「んー、そういう時もあるって言いたいところなんだけど、ミス多くないか?家での練習もしてないと上手くならないよ」
家でもしっかり練習しているはずだ。
自分の記憶になくても紙に記録しておけばいいと思い、メモを持っていったが効果は無かった。
「本当に上手くなろうって気、ある?」
やる気は絶対にある。逆に、無いはずがないと思う程だ。でも、練習してない人でも口で言うのは簡単だ。絶対信じて貰えないだろうと思った。
「あ、あります…」
「ならちゃんと練習してこようぜ?」
してるのに…俺だって頑張ってるのにという気持ちが溢れそうになった。
翌日、母が部屋に入ってこう言った。
「あんた、ギター全然出来ないみたいだけど大丈夫?」
「ごめん、今はその話聞きたくないかも」
昨日の溢れそうな感情で頭が痛くなる中、そんな話をされたら耐えられない。
「ふーん、でも大丈夫?ギター、向いてないんじゃない?」
可哀想な事に母は黙ることが出来ないみたいだ。
よりによって黙って欲しい時に黙れなくなり、都合の悪い時は黙る。不治の病よりも救いようがない。
「とりあえず部屋から出てって。」
部屋から親を追い出すしか無かった。
確かに不器用で覚えが遅い俺も悪かった。
だけどみんな俺を馬鹿にしていた。
俺がギタリストになろうが勝手だ。
覚えが遅いのも今更しょうがないんだ。
向いてなくても続けたらいいんだ。
絶対に見返してやる。
とは思ったが、俺にそんなことが出来る力なんて無い。
俺はどうしようかと考えたが、その日のうちに見返す方法を考えることは出来なかった。
あの日から年月が経ち、俺は中学2年生だ。
かれこれ1年半、未だに馬鹿にされ続けている。
見返す策を考えるとか、甘かったなぁ。
ギターを諦めることは無かったが、ほとんどレッスンは意味が無くなり、通わなくなってしまった。
独学で少しやってみたりもするが、頭に入らないものは入らない。どうしようもないんだ。
息抜きで散歩をする。
「そうだ、いつも行く方向の反対に行ってみよう。」
久しぶりの冒険も悪くない。一度も行ったことのない反対方向は意外と店も多く、ぴったりな場所だった。
「へぇ、こんな店もあるんだ」
商店街のように並ぶ店を一つずつ見ていく。
僕はある店の中の商品に目を向けた。
どうやらそこは薬局であり、「逆転の薬」と書かれた商品が置いてあった。
「逆転の薬…?なんだそれ。」
「すみません、店員さん。これなんですか?」
僕は近くにいた年寄りの店員さんに声をかけた。
「ああ、それね。それは、例えば喧嘩で負けると思った時に飲めば逆転で勝つことが出来たり」
「馬鹿にされていてもこの薬を飲めば才能が発揮できたり…」
僕はその言葉にドキッとした。
この店員さんは僕の心を読んでいるのでは無いかと思った。
「まあ、君みたいな優しそうな人なら喧嘩をすることも無いし飲む機会は無いね。」
「すみません、これ何円しますか?買いたいです。」
「え?」
店員さんは困惑しているようだった。
「まさか、喧嘩でもしているのかい?」
「いえ、そんな事は無いです。ただ、夢を叶えたくて。」
僕は今までの事情を全て話した。
「なるほどね…じゃあ、君だけ特別に無料で差し上げるよ。」
「いやいや!さすがに申し訳ないですよ。」
「いいのいいの、遠慮しないで。」
僕は少し驚いたが、店員さんの真剣な顔を見て受け取ることにした。
「本当に効果あるのかよ、胡散臭いな。」
そう思いながら薬を開ける。
「13歳は…3錠ね」
瓶の中から3錠取り出し、口に入れ、水で飲み込む。
「うわ!苦いな…」
思わず顔を顰めて吐き出しそうになる。
だが、「良薬は口に苦し」とはこの事だろうと信じて効果を待ってみた。
飲んでから1時間が経過した。
実際に効果が出てるのかは分からなかった。
「ちょっとギターに触れてみるか…」
ギターを持って弾こうとした時、いつもと明らかに何かが違った。
「何故か…分かる….分かるぞ」
前までは手が縛られたかのように動きもしなかったが、今なら何でも弾ける気がする。
試しにいつもの様に独学で進めてみる。
何故か全てが上手くいく。薬が効いていると言える!!
「待てよ、他の楽器は…」
家にある楽器をすべて弾いてみた。
ギター、ベース、ピアノ
全部が上手くいく。
「やばい…凄いことが起こっている!!!」
「これまさか…文化祭でも使えるかも?」
文化祭はすぐに楽器を担当することにした。
効果は一生続くらしい。これが一生だなんて!
「とうとう文化祭か」
「そうだな〜!楽しみだ!」
まだ始まってすら無いのにはしゃいでいる友達とウキウキしながら開始を待つ。
「お!始まるぞ!!」
文化祭が始まった。次々と順調に進んでいった。
「次、春樹じゃないか?」
「ほんとだ。」
「お前ベースやんの!?」
「ギターでも壊滅的…なんでもない。」
やはり友達はバカにしてきている。
今すぐこの力を見せつけてやるんだ。
「え、?春樹…上手すぎだろ…」
「こんなに上手かったの…? 」
「いや待て…こんなの嘘だ…」
明らかに馬鹿にしていた奴らの顔色が変わる。
「かっこよすぎるだろ…。」
皆は俺の演奏に釘付けになっていた。
今までの出し物とは比にならない上手さと音の良さに魅了されてしまっていた。
無事に文化祭が終わり、帰ることになった。
「おい春樹!!!お前凄かったぞ!!」
「そんな上手くなってんなら言ってくれよ!」
「ベース、ちょっとだけ教えてくれねえか、?」
「教えれないよ笑笑すまんな!」
俺はこの時、1番輝いていたと信じている。
やりたいことはそれだけじゃない。