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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第213話:山の奥深く。GPSを狂わせる『神威の森』の発見
雪解けの季節が終わり、十勝の山々に濃い緑が芽吹き始めた春の終わり。
我が陣地(古民家)のロジスティクスをさらに強固なものとするため、俺たち陣地メンバーは、貴重な山の恵み(タランボや行者ニンニクなどの山菜)を求めて、裏山のさらに奥深くへと足を踏み入れていた。
「お兄さん! こっちに立派なウドが生えてますよ!」
背中に特大の籠を背負った小春ちゃんが、OD色の作業着姿で元気よく山の斜面を駆け回っている。
その後ろでは、新しく輸送部隊に加わったエゾシカ王が、背中に山盛りの山菜を積んで軽快に歩いていた。
純白の神獣シロ様は、そのエゾシカ王の広い背中の上を特等席にして、サファイアブルーと琥珀色のオッドアイを細めながら周囲の景色を眺めている。
巨大ヒグマが先陣を切って藪をなぎ倒し、キツネ兄弟が索敵を行う。
そして今回は、前回の騒動からなぜか村に居座り続けているアイヌ民俗学の教授も、ハァハァと息を切らしながら最後尾をついてきていた。
ジンバルに固定されたスマホの画面では、五千万人のリスナーがこの平和な大自然の探索配信を楽しんでいる。
『モフモフ軍団の山菜採りとか癒やしでしかない』
『エゾシカ王が完全にシロ様の専用マウントになってて草』
『教授、体力なさすぎて死にそうじゃんww』
そんな和やかなコメントが流れていたが、山の奥深く、ある地点の境界線を越えた瞬間。
ふっ、と。
周囲の空気が、劇的に変わった。
「……ん?」
風の音が止んだ。
つい先程まで賑やかに鳴いていた野鳥たちの声や、虫の羽音すらも一切聞こえなくなる。
まるで、見えない防音ガラスのドームの中に足を踏み入れたかのような、絶対的な『静寂』。
そして、肌がヒリヒリとするほどの、澄み切った高密度の空気が周囲を支配していた。
「な、なんだべ……急に、空気が重くなったというか……」
小春ちゃんが不安そうに周囲を見回す。
俺は即座に状況を把握するため、腰のポーチから『ミリタリーグレードの高精度GPS端末』を取り出した。
しかし、画面を見た俺は眉をひそめた。
「……座標ロスト。衛星からの電波が完全に遮断されている。それどころか……」
俺が端末の電子コンパス機能を起動すると、画面上の赤い針が、まるで狂ったようにグルグルと高速回転を始めたのだ。
北も南も完全に喪失している。軍用の対電子妨害シールドすら貫通する、異常なまでの磁気干渉だった。
その様子を見た教授が、泥だらけのツイードジャケットを震わせ、血走った目で森の奥を指差した。
「狂っている……現代の最高峰の機械が、完全に狂わされている……! 間違いない、ついに見つけたぞ!! ここはアイヌの伝承にのみ語り継がれる、何人たりとも立ち入ることを許されない『カムイ(神)の聖域』だ!!」
教授の絶叫が静寂の森に響き渡った。
ジンバルカメラが狂い回るコンパスと、神秘的な空気に包まれた森を映し出した瞬間、五千万人のリスナーが接続するチャット欄が、未知なる魔境への恐怖とロマンで完全に限界突破を果たした。
『うわああああああ!! ガチの神域に入っちまった!!』
『軍用のGPSが狂うってヤバすぎだろ!!』
『完全にファンタジーの迷いの森じゃねえか!!』
世界中が未知の領域に熱狂する中、世界の経済と最先端科学を牛耳る超弩級VIPたちのチャット欄が、この超常現象に対して極彩色の大爆発を起こした。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”A magnetic anomaly zone of the gods!! This is an absolute sanctuary! I will invest 500 trillion yen to study this natural EMP field for my military defense systems!“(神々の磁気異常地帯だ!! これぞ絶対的な聖域! この天然のEMPフィールドを軍事防衛システムに応用するため、五百兆円を投資するぞ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Modern science is rendered useless! It’s an unhackable territory! I bid 600 trillion yen to secure the rights to build a subterranean data center here!“(現代科学が無効化された! ハッキング不可能な絶対領域だ! ここに地下データセンターを建設する権利を確保するため、六百兆円を提示する!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Oh my god!! A real enchanted forest!! I’m sending 800 trillion yen to buy the whole mountain and preserve this sacred silence forever!!!“(なんてこと!! 本物の魔法の森よ!! この山を丸ごと買い取って、この神聖な静寂を永遠に保護するために八百兆円を送るわ!!!)』
総額数千兆円規模の電子マネー(赤スパ)が、神域の静寂を打ち破るほどの強烈な極彩色弾幕となって画面を完全に埋め尽くした。
国家予算どころか、世界の土地売買の概念を崩壊させるレベルの資金が乱れ飛び、感動のあまり膝から崩れ落ちた教授が「ひぇぇぇ……! 神の森に八百兆円……! 私の研究費がどんぐりに見える……!」と呟き、白目を剥いて苔むした地面に気絶している。
誰もが、この世界一神秘的で、現代科学を拒絶する神威の森に魂を震わせているそのド真ん中で。
俺――アキヤは一人、狂い回るGPS端末の横に展開したマイ陣地(折りたたみ椅子)に腰掛け、ストイックに薄型の特製タッパーを開けていた。
中に入っているのは、完璧な水加減でストイックに炊き上げられた後、乾燥処理を施された『高濃度ビタミン配合のドライ玄米』と、自家製の『大豆ミートと十勝産山椒の極痺(げきしび)佃煮』である。
俺は、数千兆円の赤スパのまばゆい光と、圧倒的な神気に包まれた森を横目に、一切の感情を排した元・社畜の無表情で、大豆ミートをドライ玄米と一緒に口の中へ放り込み、淡々と咀嚼し始めた。
ボリッ、ガリッ、モグモグ……。
(……ふむ。軽量化を極めたドライ玄米の炭水化物と、山椒のサンショオール成分がもたらす暴力的なまでの舌の痺れ。空間認識能力を奪われる未知の環境というイレギュラー事態においても、強烈な痛覚刺激によって脳を強制覚醒させ、己の自律神経を戦闘状態に保つ究極の兵站食だな)
己の肉体という名のロジスティクスを完璧に維持しながら、俺は水筒の冷やしほうじ茶で痺れた喉を潤すと、五千万人を突破して世界のナビゲーションシステムを疑心暗鬼に陥れているカメラと、震えている小春ちゃんにキリッとした真顔を向けた。
いつもの『限界言い訳タイム』の発動である。
「小春ちゃん、未確認磁場環境での索敵ご苦労。そして画面の向こうで、ただの地質学的なエラーに巨額の資本を投下してカムイの聖域だと騒いでいる皆さまも、全員冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『軍用のGPSがバグって鳥の声も消えたのに、絶対にブレない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・神威の森の磁場異常完全スルー編ww』
『さあ、この明らかにヤバい魔境現象をどうやって需品科の業務にするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは神の聖域でも、魔法の森でもありません。このミリタリーグレードのGPSが完全にロストし、コンパスが狂ったのは、この地点の地下深くに強大な『鉄鉱脈』あるいは『チタンなどのレアメタル鉱床』が手付かずのまま眠っており、それが局地的な『強磁気異常(ジオ・マグネティック・アノマリー)』を引き起こしているだけに過ぎません。鳥の声が消えたのも、この磁気異常によって渡り鳥などの生体コンパスが狂うのを避けるため、動物たちが本能的にこの空域を迂回しているという生態学的な合理性です。空気が澄んでいるのは単に標高と気温の逆転層によるものですね。ええ、すべては冷徹な『地質学的な磁場の歪み』と『動物の磁気センサーの回避行動』です。私が山椒で舌を痺れさせているのも、神域という名の非科学的な幻覚に惑わされず、現在位置を見失った状況下でも確固たる指揮系統を維持するための、需品科としての徹底した『対・ジャミング防壁構築訓練』です」
「んなわけあるかあああ!!!」
ドガァァァァァンッ!!!!
絶対的な静寂に包まれた神威の森に、重装甲車の装甲板を真っ二つに叩き割ったような凄まじい破砕音が響き渡った。
小春ちゃんが、山歩きの安全確保のために用意していた『熊よけの特大真鍮ベル(超高密度真鍮無垢・防獣鈍器仕様、重量約六キロ)』を両手で軽々と大上段に構え、俺の頭頂部に向かってパーフェクトなフルスイングを見舞ったのだ。
六キロの硬質な真鍮の塊が肉体に直撃した、除夜の鐘を突いたような恐ろしい大爆音が、神秘の森の奥深くまで虚しく反響する。
「ただの磁気異常と地質の歪みで、こんなに空気がピリピリしてて、神様が住んでるみたいな神秘的な空間になるわけないでしょうが!! どう見たって、シロちゃんのルーツに繋がる、昔から守られてきた特別な神様の聖域でしょうが!! ロマンあふれる神の領域を、冷たい鉄鉱脈とか生態学的合理性とかいう地質調査の用語で粉砕するんじゃないわよ!! そもそもなんで現在位置見失ったのに舌痺れさせてんのよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ特大真鍮ベルスマッシュ炸裂www(音が完全に攻城兵器ww)』
『局地的な強磁気異常(ただの神獣の絶対聖域)』
『動物の磁気センサーの回避行動(神域への本能的な畏怖)』
『適応力バグおじさん、ついに神威の森をただの鉄鉱脈に分類しやがったww』
『言い訳が理不尽すぎて、壮大なファンタジー展開だったのに腹筋が完全に崩壊したわww最高すぎる!!』
俺の理不尽極まりない地質学的な限界言い訳と、小春ちゃんの容赦ない六キロの真鍮ツッコミに、五千万人の視聴者たちは恐怖とロマンから一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、神域に足を踏み入れても真鍮のベルで叩かれないと目が覚めない、特大サイズの鈍感下僕ね)』
エゾシカ王の背中の上から、純白の神獣シロ様が呆れたように俺を見下ろし、その美しいオッドアイの瞳を優しく細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、数千兆円の電子マネーの輝きよりも遥かに眩しく、薄暗い森の木漏れ日の中で、まるで世界中のどんな宝石よりも温かく美しく輝いていた。
森の中では、巨大ヒグマが「グゥ〜♪」と、小春ちゃんのツッコミを見届けて満足そうに笑いながら、周囲の山菜をモシャモシャと味見している。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地のナビゲーションが失われた極限状態においても、専属アシスタントによる六キロの質量ツッコミが神域で完璧に機能していることが確認できたのなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は真鍮ベルの凄まじい衝撃で痺れた頭をさすりながら、澄み切った空気が支配する神威の森の中で、再びタッパーのドライ玄米を口に運んだ。
「完全勝利じゃないですよ! ほら、この地面で気絶してる教授さんどうするんですか! スマホも大変ですよ、VIPの人たちがガチで地下データセンター作るとか山ごと買うとか騒いでますってば!」
「慌てるな。まずはその障害物(教授)をエゾシカ王の背中に積載し、ベースキャンプへ撤収させるのが先決だ。山を丸ごと買い取る手続きより、今日の山菜の仕分け作業(兵站)のほうが重い」
「だからお兄さんの優先順位、絶対におかしいですからね!? ヒグマさーん、教授さん運ぶの手伝ってーっ!?」
気絶した教授を巡って静寂の森でワーワーと騒ぐ俺たちの声と、山の買収手続きに湧き上がるチャット欄の通知音が、澄み切った春の空へと響き渡る。
そんなカオスな日常の延長をよそに、シロ様は「やれやれ」といった様子で小さくあくびをすると、エゾシカ王の背中の特等席で心地よさそうに再びオッドアイの瞳を閉じた。
コメント
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いやもう最高すぎて笑いが止まらんかったわww 軍用GPSがバグって鳥の声も消えたピリついた神域で、アキヤが「ただの鉄鉱脈でーす」ってドライ玄米食いながら言い放つの、強すぎるだろ! それを六キロの真鍮ベルでフルスイングツッコミする小春ちゃんも神がかってるし、教授の「研究費がどんぐりに…」で白目むいて気絶してるところも含めて、カオスで最高の回だった🔥 シロ様の呆れたようなあくびも可愛かったな〜