テラーノベル
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大学3年・5月。
一瞬だけ着信。
直弥が携帯を見る。
『五島冬花 1件』
瞬間、声が頭の中でこだまする。
『あんたなんて』『顔しか』
一瞬、息が止まる。
携帯を持つ手が震える。
目を強く閉じる。
「ワンギリ?」パソコンを見たまま、
気づいていない仁義が笑顔で言う。
「⋯うん。」荒い息をごまかすように、
口を塞いで、携帯をしまう直弥。
仁義「ねえ直弥くん、きょうお昼高円寺行かん?」
「高校の友達がバイトしよるんよ。」
高円寺のカレー屋。
ハル「おっ仁ちゃん!」「彼氏?」
仁義「ちゃうよ!」
ハル「びっくりした〜仁ちゃん俺のせいで男に走ったんかと思ったわ。」
仁義「ちゃうって!!」
ハル「いやだってさ。」
「美人連れてきじょったきん。」
直弥「…?」
仁義「美人って。」
ハル「いや美人やろ。」
仁義「どこが。」
ハル「目。」「あと鼻。」「あと顔。」
仁義「全部やん。」
直弥「……。」「ありがとうございます?」
仁義「いやいやいや。」
「そこで礼言わんで。」
ハルはニヤニヤしながら直弥を見る。
直弥「?」
ハル「知っじょる?こいつさ、17歳の誕生日の時───」
仁義「わーーーーーーーーー!!!!!!」
店中に響くくらいのでかい声。
ハル「うるっさ!」
仁義「いかん!!!」「そこ!!!」「言っちゃいかん!!!!!」
ハル「まだ言ってねぇ!」
「……?」
直弥はその横で完全に置いていかれてる。
仁義「ちゃうけん!!」
「ぜんぶちゃうけん!!」
ハル「じゃきんまだ何も言ってねぇって!」
仁義「き、聞かんといて……!」
直弥の頭に手をのばす仁義。
「(耳塞がな……)(いや。)(触る。)(無理。)」
その勢いのまま腕を引く。
ゴッ!!
肘がハルのみぞおちに直撃。
ハル「…………。」
静かに崩れる。
仁義「え。」「ご、ごめん!!」
直弥「……。」「死んだ?」
ハル「……生きじょる。」「けど肋骨いった。」
仁義「ほんまごめん!!」
ハル「いやもう確信した。」
「お前男に走っじょるやん。」
仁義「ちゃうけん黙って!!!」
ーーーーーーーーーー
家に帰って。
仁義「……。」
「(……ハルちゃんごめん。)」
自分の手を見つめる。
「……。」
「(直弥くんの髪。)」
「(サラサラそうやったな……。)」
そして
「(いや!!!!)」
布団に顔うずめる。
「(何考えとん僕!!)」
「(肘鉄入れたやん!!)」
「(まずそこ反省せぇよ!!!)」
「(……。)」
「(もうちょっとで触っとった。)」
「(……。)」
「(サラサラそうやった⋯。)」
再び自分の手を見つめる仁義。
「(いやいやいや!!)」
「(何考えとるん!!)」
椿屋四重奏『CRAZY ABOUT YOU』。
英語として、
crazy 「for」 youだと「恋焦がれている」みたいに恋愛色が強くなるらしいけど
crazy 「about」 youは
単に存在、性格、仕草、
「あなた」のあらゆることに夢中になっている状態
ニュアンス的に
「あなたのことばっかり考えてしまう」
「気になって仕方ない」
って意味らしいので。
恋愛じゃないんだなこれ。
恋愛じゃないです。
コメント
1件
うわ、第27話、めちゃくちゃ好きな回でした……! 直弥くんが冬花からの着信で一瞬で硬直するところ、あの「息が止まる」描写が痛いくらい伝わってきて苦しかったです。一方その後の仁義くんとのカレー屋シーンでのハルくんの絡み、仁義くんのパニックっぷりと肘鉄が鮮やかすぎて笑いました。そして帰宅後の「サラサラそうやったな……」「まずそこ反省せぇよ!!」の自問自答、もう完全に仁義くんの気持ちの芽生えが滲んでて尊い。最後のタイトル解説——「恋愛じゃないです」と断言しつつタイトルにCRAZY ABOUT YOUを持ってくる構成、めちゃくちゃ巧いと思います。夢中になることの定義を広げる、このさじ加減がすごく好きです。