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第22話
「あの子。何で、この学校に?」
調合している途中に、エミー先生が口を開いた。
……やっぱり、声が可愛い。
「教皇様が推薦したみたいな話が、濃厚ですけど……本当の事は分かりません」
「……そうね……大分、食べていないみたいだったけど……」
ゴリゴリと何かの葉っぱをすり潰している。
そしてまた別の葉っぱを棚から取り出して合わせる。薬を調合するのは初めて見る。
かなり難しいから……誰でもできるってことじゃない。
「あの子。学校を抜け出して森の中で、魔物を倒してた子だっけ?」
「はい」
「……かなり、無理をしたんだね」
そう言って魔法を重ね掛けをしている。賢者級の魔法の扱いだ。
……ん? 普通に、すごくね?
一歩間違ったら……魔力中毒になる、魔法回路だ。授業で習った。
「編入してくる時からそうでしたから……というか、全部、規格外なんですよ」
「ま、訳アリか……この前、運び込まれてきた時よりも酷いから、腕の鳴らし所ね」
エミー先生は、初めて見る笑顔を私に向けて、腕まくりをした。
……カッコいいっ!!!
私は心の中でそう叫びながら、ハンナが無事に治る事を願うだけだった。
✵
ハンナは、あれから……呼吸が浅くなっていた。
お願いっ……逝くなっ……。
「……色々と、めちゃくちゃなハンナが、簡単に死ぬと思うのか?」
鼻で笑いながら、ミヒャエルが心を読んだような台詞を俺に向かって言い放った。
「……でも、こんなになるのは……初めてなんだ」
だから……っ……怖いんだ……
「だからこそ、めちゃくちゃなんだろ。それに……俺の妹は、この前までこんな感じだったんだ。簡単にそんな事を考えるな」
「えっ……?」
俺は、少し圧が強くなったミヒャエルに睨まれて、言葉を返せなかった。
「慢性的なやつだろ? 休めばどうにかなる」
「休んでくれればこんな事になってない」
俺は、ハンナの頬に流れていた涙を拭った。
「……それに、血濡れた俺たちには難しいんだ。簡単に休めないし、自分の事を大切に生きるとか……ハンナは考えられない所まで来てしまってるんだ」
ミヒャエルは、それから黙った。
気まずい沈黙が流れた。
俺は、ベランダで会った黒髪黒目のハンナくらいの年頃の女の子を思い出した。
あんな言葉……マズかったかっ……
ハンナの頬に、涙も流れている。
なぜだろう?
何で泣いているのだろう?
何もできないの?
「ほら、これを飲ませて」
そう言って白衣を着た女性が俺にコップを渡した。
「え? 俺?」
「……使い魔の方が都合がいいの」
俺はぎこちなく頷いて、何かが混ざっている上に魔法がかけられた水を受け取った。
光魔法をかけながら、ハンナの上半身を起こして水を飲ませた。少しむせているけど……大丈夫だと思う。
「ハンナは、大丈夫なの?」
マリアが真っ青なハンナの顔を覗きながら、俺に聞いた。
「多分な。でも、そっちの先生の方が目覚めるのは後になりそうだな」
そう言っている内に、ハンナの赤い瞳が俺をとらえていた。
……でも、涙は止まらない。
「大丈夫だ。近くにいる」
ハンナは微笑むだけ。
……無理に笑っている。本当に、作り笑いが下手っぴなんだから……
「ごめんな。苦しいよな」
俺が寂しそうな顔になりながら謝ると、笑顔を消して首を横に振った。
「ち、がっう……くろっ、ねこは……」
「大丈夫だから、喋らないで。生存率が下がるわ」
白衣を着た女性が口を挟んだ。確かにこの人は、医療の知識を沢山蓄えている。
「最低でも、一週間。剣を握らず、気を張らず、魔法を使わないで過ごして頂戴。残りも、飲めるなら今のうちにのんじゃって」
ハンナは、俯きながら小さく頷いて、コップに入った水を一気飲みした。
「……後は、使い魔さんに任せようかしら。私も、技術はこの国トップクラスなので、忙しいんだよね」
そう言って、白衣を着た女性はカーテンの裏へ行ってしまった。
……この国、トップクラス……? 凄っ……
俺はそれから、部屋に戻ってハンナを寝かせた。
ベットの側で、猫の姿で爆睡……ではなく、寝ながら気を張り詰めて、警戒をしていた。
ハンナの顔色は、あの薬の効果なのか……よくなった。
すやすやと寝ている。というか、魔力の動きからして、今までがあまり寝れて無かったらしい。
……ごめんな。俺が助けられなくて……っ……
俺は、光魔法をかけてら、結界を部屋の中だけで作った。苦手な魔法の内の一つだ。
「ほら、一人じゃない」
俺は、寝ているハンナにそう語りかけてから、仮眠を取った。
コメント
1件
うわあ……今回も重くて温かい回でしたね。エミー先生の「カッコいいっ!!」に思わず笑ったけど、その後のハンナの呼吸が浅くなるシーンは本当にヒヤッとしました。ミヒャエルが「俺の妹はこの前までこんな感じだった」と話すところ、彼もずっと同じ痛みを抱えて生きてきたんだなって……。それでも「ほら、一人じゃない」って小さな猫の姿で寄り添う使い魔さんの優しさに、じんわり来ました。無理に笑うハンナに「作り笑いが下手っぴ」って気づいてる視点も好きです。なんとか持ち直してほしい……次が気になります。