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🐱side
楓 )俺たち付き合ってないよね?
それを最初に言ったのは楓弥だった。
軽い調子で笑いながら。
俺は曖昧に笑ってうなずいた。
その時はそれで十分だと思ってた。
連絡は毎日。
朝の「起きた?」から夜の「もう寝る?」まで。
会わない日でも会ってるみたいに時間が流れる。
でも、恋人じゃない。
その言葉がなぜか免罪符みたいに使われていた。
楓 )今日、泊まる?
楓弥の部屋は俺の私物が増えていった。
歯ブラシ。
部屋着。
いつの間にか、合鍵。
でも、
誰も「一緒に住んでる」とは言わない。
他のメンバーと話していると楓弥は少しだけ距離を詰める。
肩に触れる。
腰に手を置く。
勇 )近いって
楓 )そう?
悪びれない。
恋人じゃないから嫉妬じゃないって顔。
夜、
同じベッドに並ぶ。
触れ合う距離。
吐息が混じる。
でも、 朝になると何事もなかったみたいに離れる。
楓 )おはよ
それだけ。
ある日、
思い切って聞いた。
勇 )……俺たち、何?
楓弥は少し考えてから言った。
楓 )一番近い
その答えに胸がぎゅっとなった。
勇 )恋人、じゃないの?
楓 )じゃないよ
即答。
なのに。
楓 )他と会うなら、教えて
連絡は返して
今日は俺のとこ来て
ルールだけは増えていく。
名前のない関係に決まり事だけが積み重なる。
逃げようと思えば逃げられた。
でも 離れる理由がなかった。
だって楓弥は優しい。
強く縛らない。
でも、放さない。
夜、
背中から抱き寄せられる。
楓 )勇馬くん
低い声。
名前を呼ばれるたび心臓が跳ねる。
恋人じゃないのに、恋人みたいに。
楓 )ねえ
勇 )なに
楓 )俺、重い?
冗談みたいに聞かれて、否定した。
勇 )……重くない
嘘だった。
重いのは俺のほうだ。
楓弥が他と話しているのを見ると胸がざわつく。
でも何も言えない。
恋人じゃないから。
ある夜、
ぽつりと言った。
勇 )……付き合うって、ないの?
楓弥は、俺の髪を撫でながら笑った。
楓 )今で困ってないでしょ
否定できなかった。
そのまま距離が縮まる。
言葉は飲み込まれた。
それ以上のことは 部屋の灯りが消えたところで 曖昧になった。
朝。
腕の中にいるのに、名前はつかない。
それが当たり前になっていく。
楓弥は言う。
楓 )恋人じゃないほうが楽じゃん
俺はうなずく。
楽なのは逃げなくていいから。
気づけば他の居場所がなくなっていた。
連絡しない友達。
減っていく予定。
楓弥のいない夜が怖い。
楓 )ねえ勇馬くん
ある日、
楓弥が囁いた。
楓 )俺から離れられる?
試すみたいな声。
俺は答えられなかった。
楓弥は、満足そうに笑う。
楓 )だよね
それで終わり。
でも、その瞬間に分かった。
俺らは恋人じゃない。
だけど一番逃げられない。
名前のない関係は別れもできない。
今日も楓弥の部屋に帰る。
「ただいま」も
「おかえり」も
言わないまま。
それでも、
ここが俺の居場所だと身体が知っている。