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簡単な協定を結んだシャーリィとマリアは、合流して一気に南下した。その最中、双方は情報交換を行い『ロウェルの森』でなにが起きたのか。『黄昏』でなにが起きたのかを共有した。
「その獣王って野郎がバカな考えを起こしたから、今回の事態が起きたって訳は」
「左様、獣王には古の恨みがある。それを果たそうと獣人達を巻き込んで決起した。それが真相であろう」
ベルモンド、ゼピスが情報交換を行う。残念ながらマリアとシャーリィは傍に居ると互いに不快感を増すらしく、代表して二人が交渉を行っていた。
「はた迷惑な話だな、お陰でうちは大損害だ。しかも見返りがないと来たもんだ」
「貴殿らはスタンピードを防いだのだ。誇るべきこと、名誉ではないか」
「残念だが旦那、名誉じゃ飯は食えねぇよ。感謝する奴もいないし、むしろ被害を出したうちを狙ってくる奴が出てくるだろうさ」
「何と不条理な。貴殿らが居なければ少なくともあのシェルドハーフェンなる街は滅んでいたのだぞ?」
「そんな不条理がまかり通るのがあの街なのさ。裏社会に騎士道精神なんて無いんだ。だから俺たちもこの人数で森に来た」
「嘆かわしいな。いっそのことお嬢様の庇護下に入られよ。さすれば無用な犠牲も無くせよう」
「はははっ、そりゃ無理な話さ旦那。あそこまで露骨に不機嫌なお嬢は見たことがない。聖女さんと仲良くやっていくのは無理だろうな」
ベルモンドが肩を竦める。それを見てゼピスもまた肩を落とす。
「因果なものだ。何れは貴殿と刃を交わす日が来るのだろうな」
「考えたくもないな。頼むからお嬢に敵対するような真似だけはさせないでくれよ。お嬢は敵に容赦がない。旦那みたいな話が分かる連中とやり合いたくはないからよ」
「我も同じ気持ちだ。なにより、勇者の力は我々の天敵。出来れば敵に回したくはないと言うのが本音だが、お嬢様がどう判断されるか分からん」
「帝都に戻るって考えはないのか?お嬢も今はまだシェルドハーフェンの外には目を向けていない」
「難しいだろう。弱者救済を掲げるお嬢様にとってあの街は救わねばならぬ場所。例え感謝をされずともな。それに、帝都に居ては下らぬ権力闘争に巻き込まれる」
「ああ……帝位継承で揉めてるんだったな。帝室や貴族様は呑気なもんだな」
「同意する。困窮に喘ぐ民を救えるだけの金が賄賂として消えていく。お嬢様に見せたくはないものだ」
一方狼獣人達の全滅を察知した獣王ガロンは。
「忠臣ガルフが討たれたか。最早是非もない。障害を討ち果たし、我が悲願を成就させん!」
残された二百弱の多種多様な獣人達を率いて神殿から出陣。討伐隊を迎え撃つべく北上を開始。双方は『ロウェルの森』中心部にある平原にて対峙することとなった。そこは奇しくもかつて獣王が勇者に破れた因縁の場所でもあった。
双方は一キロ程度の間を開けて対峙した。
「随分と少ないですね、代表」
「マリア達が粗方片付けた結果なのでしょう。で、あの大きな狼男が獣王ガロンですか?」
リナと語らいながらシャーリィは一際大きな狼獣人を指差す。
五メートルを越える巨体を持つ獣王ガロンは、遠目からもその圧倒的な存在感を示していた。
「その様です」
「ブラッディベアより小さいですね。ただ動きは俊敏なのかな?」
「狼獣人みたいですからね。どうします?」
「討ち果たします。と言いたいのですが、どうやら先にマリアが対話を試みるみたいですよ」
うんざりした表情を浮かべるシャーリィ。彼女は気付いていないが、マリアを相手にすると様々な表情が浮かび周りの皆を驚かせている。
「この期に及んで対話ですか。お優しいのですね」
「リナさんは優しいですね。ただ甘いだけですよ。戦闘準備を、一匹残さず殲滅します」
「お任せを」
リナがその場を離れると、代わりにルイスが傍に寄る。
「体調はどうだ?シャーリィ」
「しっかり休ませていただきましたからね、好調ですよ。ルイは?」
「シャーリィの膝枕で爆睡したからな。でも足りねぇから、この後もう一回頼む」
「ふふっ、分かりました。頑張ってくれたご褒美としましょう。お金では喜ばないでしょう?」
「当たり前だ。金なんか貰っても嬉しくない」
「でしょうね」
シャーリィは笑みを浮かべる。そんな彼女を見て、ルイスは声を潜める。
「あの聖女とか言う女、殺るか?」
「まだその時ではありませんよ。でも、何れはマリアと戦うことになりそうです」
シャーリィは何処かうんざりしたように隊列から出て獣王の下へ向かうマリアを眺めていた。
ダンバート、ロイスを連れたマリアは前に出て双方の中間地点で立ち止まる。
「お嬢様、危険だと判断したら直ぐに下がるからな。それを忘れるな」
「危険な真似だけはさせないからね」
「ロイス、ダンバート。ありがとう」
二人に礼を述べたマリアは、一人で前に出る。
「獣王ガロン!貴方が受けた古の雪辱!そして獣人族が今も虐げられている現状に強い怒りを抱いていることは知っています!それによって一連の騒動が引き起こされたことも承知しています!
私達はそれに抗い、双方に多大な犠牲者を出してしまいました!獣王ガロン!どうか矛を納めてください!これ以上血を流す必要はないはずです!
復讐ではなく、共存の道を模索しませんか!私も微力ながらお手伝いさせていただきます!どうか!これ以上の悲劇を防ぐためにも!」
声を張り上げて訴えるマリア。その健気な姿は双方に動揺を走らせるが、シャーリィだけは冷めた視線を向けていた。
「同じこと言われたらどうする?シャーリィ」
「排除しますね、邪魔なので。復讐はなにも産み出さない?それは道理です。前向きな行動では無いと思いますよ。ですが、復讐を果たすことで私の心は満たされます。死んだ皆の無念を晴らすことが出来ます。それで良いのです」
ルイスの質問にシャーリィは冷めた視線をマリアに向けたまま言葉を返す。
「では?」
「戦闘準備を。間違いなく決裂します。いや、しなくても殲滅します。どれだけの被害を出したと思っているのですか」
「分かりました!」
リナの指示によりエルフ達が臨戦態勢に移行する。
そして双方が見守る中、獣王ガロンによる返答は。
「むんっっっ!!!!」
「危ねぇ!!」
「お嬢様!」
手に持った大きなおのをマリア目掛けて投げ付け、ダンバートがマリアに飛び付いて庇い、そしてロイスが二人の盾として大剣で受け止めた。
「獣王ガロン!」
マリアの悲痛な叫びを無視するように、獣王ガロンは新たに手に取った手斧を掲げて吠える。
「あんな戯れ言に惑わされるな!我が一族の雪辱を晴らすのは今この時しかない!永き雌伏の時は終わりだ!我に続け!我が一族に栄光をーっ!!」
「「「おおおーっっ!!!」」」
獣王ガロンの檄に従い獣人達二百が武器を掲げて突撃を開始。ここに対話による解決は永久に失われ。
「放てーっ!!」
それを見越していたシャーリィの号令によりエルフ達二十名が矢を放ち、ここに最後の決戦が幕を開いたのである。