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ユーゴスラビア×セルビア
だいぶにわかです。
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なんだ、これは?
俺はそう思った。
頭がふわふわする。身体が雲の上に乗っているような感覚だ。硬い床や椅子を感じないけれど、完全に浮いているわけじゃなくて、なんだかおぼろげで形のはっきりしないものに寝転んでいるような、そんな感覚。
俺は何をしていたっけ。
未だ頭がふわふわするが、俺は目をぎゅっと閉じて集中し、頭の中の記憶を駆け巡る。…ああ、そうだ。俺は疲れていたから、風呂に入ってベッドに寝転んで目を閉じたんだった。なら、ここは夢の世界か。
そう理解した途端謎の安心感と幸福感が俺の心を包んだ。夢の中なら、俺の邪魔をするものは誰もいないだろう。俺は夢の中ならありのままで、何も考えず、楽でいられる。バルカン半島の俺の領土は偉大な歴史が詰まった世界最高の土地だが、あそこはどうも窮屈で神経を使い過ぎる。
俺は目を開ける。先ほどまでぼんやりとしか見えていなかった風景が鮮明に見えてきて、自分の寝転んでいる場所もだいたいわかってきた。
…懐かしい。ここは家の中だ。
”ユーゴスラヴィア”という、今はもうない大きな家の、俺のベッドの上だ。
夢の中とはいえ、懐かしいかつ今はないという事実が感慨深く感じられる。そういえば、俺のベッドにはテディベアが置いてあったな。俺が毎日のように怖い夢を見て父さんに泣きつくから、父さんがプレゼントしてくれたんだっけ。あれ以降、俺は怖い夢を見てもテディベアを父さんだと思って抱いてねれば、快適に眠ることができたんだよな。今考えると、昔の俺すっごいかわいい。
すると、ふと、横から誰かの寝息が聞こえてきた。
ばっと横を向くと、そこにはユーゴ構成国の頃の俺がすやすやと寝ていた。
どうしてさっきから気づいていなかったのだろうか。…まあ、そんなことはどうでもいいか。昔の俺は今の俺よりずっと小さく、ずっと可愛かった。すうすうと寝息を立てていて、、ほんのり赤いほっぺには大きな魅力を感じる。昔の俺に懐かしさを感じながらも、俺は昔の俺を起こさないようにベッドから立ち上がり、二段ベッドの梯子をそっと降りた。その部屋に置いてある二段ベッドにはそれぞれクロアチア、モンテネグロ、スロベニア、ボスニア、マケドニア、…昔の俺達がすやすやと眠っていた。このころから沢山喧嘩をしていたが、今見るとみんな可愛らしい。俺はふっと笑ったあと、部屋から静かに出て扉をパタンと閉めた。
暗い廊下を静かに歩く。昔は夜のこの廊下がどうにも怖くてクロアチアやモンテネグロを起こして一緒に歩いたが、大人になった俺には怖くもなんともなかった。自分の成長にしんみりしながら、俺はリビングへ続く階段へと向かった。
階段の下からは、わずかに光が漏れていた。リビングに人がいる、…つまり、父さんが起きている、ということだ。俺は少し緊張しながらも、階段を下った。
階段の壁からちらっと、頭を少しだけ出してリビングの方を見る。
…そこには、ロッキングチェアをゆっくりと揺らしながら、じっくりと本を読んでいる父さん、…”ユーゴスラビア”がいた。
そばの机には、ファイルやら資料やらが置かれている。きっと、民族運動だとか、国内の問題だとか、そんな資料ばかりなのだろう。俺は、夜な夜な父さんが国内の動向に頭を悩ませていたのを知っている。今読んでいる本だって、きっと民族関連の本だろう。
父さんは色々苦労してくれたわけだが、俺達は結局酷い内戦を引き起こして父さんを崩壊させてしまった。俺はそれを知っている。きゅっと心が締め付けられた。ふと、あの地獄の紛争を思い出す。
兄弟と殺し合う。
兄弟の国民を殺す。虐殺する。NATOから、国連から、爆撃される。誰も何も信じれない日々。父さんに支援してもらったあの時、なのに父さんを壊してしまったあの時の俺。
全部全部が俺の心を締め付けて離れない。過去は変えられないけれど、変えられるなら今すぐ変えてしまいたい。そのくらいあの時は必死で、嫌な過去だから。
そんなことを考えていると、父さんが、ふと、俺の方を見た。
父さんは俺を見てびっくりしたような、…不思議そうな顔をした。
父さんが俺を手招きする。俺はなんだか恥ずかしくなってしまった。…だけど、いまさらだ。俺は父さんの方に駆け寄った。
「…セルビアか?」
懐かしい、もう聞けない父さんの強くて暖かい声が俺の鼓膜を、耳を、脳を刺激する。俺は今すぐ泣きながら抱きつきたい気持ちに陥ったが、俺はもう大人になった。その気持ちを胸にぐっと自分をこらえて、返事をする。
「…うん、父さん。」
もう、父さんを呼ぶことは金輪際ないと思っていた。ユーゴスラビアの復活なんて、有り得ないからだ。
「…そうか、」
父さんは少し間を開けて、言った。
「…大きくなったな。頼もしい顔つきと、声だ。
子供のお前も可愛らしくて大好きだが、…今のお前も悪くないな」
俺は嬉しくてたまらなくなった。もう泣いちゃいそうなほど俺の心は父さんに満たされていた。
「ありがとう、….」
だけど、そんな父さんを壊した張本人は俺だ。俺達だ。やっぱり、心が苦しくてどうしようもない。
「…そんな顔をするな。」
父さんは優しく俺の頭を撫でた。俺は耐えられなかった。目を閉じると、大粒の涙がまぶたから溢れ出した。俺は腕でそれを強くぬぐったけど、涙は止まらなかった。
「未来のセルビア、….。
きっと、俺は、そっちではとっくに死んでいる。そうだろう?」
父さんはそう言った。僕は驚いた。
「…そう、そうだ。ユーゴスラビアはもうない、…けど」
「やっぱりか。…なんとなく察していたんだ。ヨーロッパの火薬庫を押さえつける方法を、オーストリアもオスマン・トルコも、どんな覇権国家でも見つけられなかった。」
「俺も努力はしていた。…だけど、これは努力でどうにかなるものではない。ユーゴスラビアが何年も続くなんて、俺は考えてなかった。」
父さんは悲しそうにそういう。嫌だ。そんなこと言わないでほしい。父さんは昔から、俺の、俺達の支えだったんだ。
「そんなことない!!」
俺は無責任に言った。だけど、ユーゴスラビアは静かに言い放った。
「だが、ユーゴスラビアは崩壊してしまったのだろう?俺の思う通りだったな。」
俺は返す言葉が見つからなくて、黙り込んでしまった。黙りたくないのに。ここで黙ったら、父さんの言うことを全て肯定したことに、”父さんはヨーロッパの火薬庫を抑えられない”ということが正しいということになってしまう。だけど、どれだけ頑張って考えても言葉が見つからなかった。
「いいんだ、セルビア。…今のお前は幸せに暮らせているのだろう?」
「…うん」
ばか、なんで肯定してしまうんだ。これじゃあ、ユーゴスラビアが崩壊したことが正解、…すなわち、”父さんは要らなかった”と言っているようなものじゃないか。でも俺は大人になったとはいえまだまだ未熟で、言葉がなかなかに思いつかない。俺は俺の頭の不足を恨んだ。
「…お前らが幸せなら。それはいいことだ。父さんにとって、それが一番の幸福だから」
父さんはふっと笑った。俺はまた大粒の涙を流し始めた。せっかくおさまって来たのに。
俺のばか、頼りない。
すると、急に、周りの情景が少しずつぼやけてくるのに気が付いた。
「…そろそろ起床の時間だろう。お前が起きずして、誰がモンテネグロを起こすんだ。」
父さんはそういう。俺も口を開いた
「…嫌だ、っ!!」
俺は叫んだ。
「嫌だ、いやだよ、父さん、…..。離れたくないよ、俺を独りにしないでくれよ、….。」
俺は思わず父さんに抱きついた。父さんは俺の頭を撫でた。
「独りじゃないさ。モンテネグロだって、クロアチアだっているのだろう。」
「違う、違うんだ。父さんがいないと駄目なんだ。…父さんがいなくして、俺は誰に頼って、誰に泣きつけばいいんだよ…」
俺は長男だから、他の兄弟に弱いところは見せられない。兄弟を守らなきゃいけない。だけど、俺を守ってくれる人はいない。俺は悩みの相談も、今すぐ泣きたい気持ちも、抱きついて一緒に寝たい気持ちも、今の世界で誰に宛てればいいか知らない。
「…大丈夫。父さんはお前をいつだって見守っているし、お前には友達が沢山いる。
お前のことだから今も兄弟や友達と喧嘩ばかりしていると思うが、たまには弱いところも見せてみろ。絶対、優しく包み込んでくれるさ。…今のお前たちに、俺はもういらないから。」
父さんを抱きしめている感覚も、撫でられている感覚も、おぼろげなものになっていく。ああ、ダメだ。朝日が昇ってしまう。目覚めてしまう。
「やだ、やだよ、父さん…!!!ずっと、一緒に居てよ…!!!!」
視界が白く染まっていく。父さんの顔も見えなくなっていく。ああ、なんて世界は残酷なんだ。いつもそうだった。いつも、世界は俺の切実な嘆きを、叫びを、願いを、微塵も聞いてくれやしない。
俺はいつのまにか、意識を夢の中から手放していた。
…チュンチュン…
小鳥のさえずりが聞こえる。セルビアは、セルビア共和国はぱっと瞼を開いた。
セルビアの視界にはいつもの無機質な自宅の天井が映し出されいた。セルビアは先ほどまで見ていた幸せな夢を思い出して大きくため息をついた。…ああ、何故目覚めてしまったんだろう。セルビアは上半身だけを起こして、顔を手で覆い、小さく泣き始めた。
…ああ、父さん。会いたいよ、父さん。
もう離れたくない。離れたくないのに。離れたくなかったのに。
いつも喧嘩ばかりして、父さんを壊してごめん。俺は父さんがいないと駄目だ。駄目なのに。
ふと、そばに置いてあったカッターを手に取り、カチカチと刃を出す。そして、自分の喉に当ててみる。冷たい金属の感触が喉仏をなぞって切ない。
___このままこのカッターを思い切りナナメ横に引けば、真っ赤な血と共に、俺は死んで、”あっち”にいくことが出来るだろう。そうすれば、きっと、父さんは俺を待っていてくれるだろう。
そして、俺が駆けよれば、その大きな体と長い腕で俺を包み込んで、そのまま手を繋いで家まで案内して、お花畑も見せてくれるだろう。俺は未来に待ち受けている幸せに酔っ払いそうになった。
”…セルビア。”
聞き覚えのある声が脳内をよぎる。
”セルビア。兄弟が、お友達が、悲しむぞ。”
…やめてくれ。
”セルビアは、偉大で強い国家だからな。もっと、発展しなければいけない。”
やめてくれったら、
”…セルビア。”
「あぁ、っ、!!!…もうっ、….」
俺はカッターを掛け布団の上に落とす。カッターはそのままカシャンと音を立てて床へ落ちた。
「…もう…辞めてくれよ…ずっと、ずっとこのままじゃねえかよ……」
ずっと、死ねないじゃんかよ。
あと何年、父さんの居ない世界を生きなきゃいけないんだよ……
俺は声を出して泣いた。
俺は、いっそ、子供の頃に戻りたいと思った。
…「おはよう、父さん!」…
明るい、少し高めの声がリビングへと響く。
…「ああ、クロアチア。おはよう。」…
…「父さん!聞いてくれよ、今日は怖い夢を見ず、途中で起きずにぐっすり寝れたんだぜ!」…
…「ああ、セルビア。それはよかったな、セルビアも大人になったな!」…
…「へへっ、聞いたかモンテネグロ!俺大人になったんだぞ!」…
…「よかったね、兄さん…ふわぁ、眠い。」…
…「父さん、今日の朝ごはんなに?」…
…「スロベニア、今日はパンと、…そうそう、沢山ジャムを買ってきたから、それを塗って食べよう。」…
…「やったぁ、ジャム大好き!嬉しいね、ボスニア!」…
…「うん!マケドニアは何を塗るの?」…
…「僕は食べ比べしちゃおうかな~!」…
…「いいね、僕もやる!」…
その家は確かに幸せが詰まっていた。
…「父さん、なんかぐったりしてる?寝てないの?」…
…「セルビア、…大丈夫、父さんもちゃんと寝てるからな。
…ただちょっと、嬉しい夢を見たんだ!」…
…「へー!どんな夢?」…
…「こらっクロアチア、今俺が父さんと喋ってたんだぞ!」…
確かに、その家の住人は、みんな、笑っていた。
いつまでも、これが続きますように。
家の主は、ただ、それだけを、願っていた。
答えを知ってしまったにもかかわらず、だ。
「問題は、演説や多数決ではなく、…鉄と血によって解決される。」
___オッ├ー・フォ冫・匕”スマルク
「国家がある限り自由はない。国家の消滅が、自由を打ち立てるのだ。」
___ウラ=/“ーミル・レーニ冫
ご、5000文字!?(戦慄)
推しのお話になると凄く気合いが入りますね…((
コメント
2件
ぼろぼろ泣いちゃった…、だって優しすぎるもん…ユーゴ。読んでて苦しくなっちゃった… セルビアが「離れたくない」って言うのもすごく苦しい…。 ユーゴはもしかしたら、嬉しかったりして。自分が見ることは絶対叶わない「大人になったセルビア」を見ることが出来たからさ…? 本当に子供達のことを愛してたんだなぁってひしひしと伝わるし、セルビアにもしっかり伝わってたんだなって…泣 良さに気づきました、本当に…
こら!!お子様は寝てなくちゃダメな時間よ!!(我 中1(((お前が寝ろ