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翌日の夕方。市内のお寺の境内に併設された祭儀場。プレハブの建物の奥に棺が安置してあり、ミコの母親の慰霊が飾られている。
棺近くに置かれた折り畳み椅子に座っている黒ワンピースのミコと近藤。
北野とチバラキVの5人が入って来る。服の片腕に黒い腕章をつけて、順に焼香をする。
沙羅はミコに近づこうとして、ミコが必死に泣きそうになっているのに気づき、結局声をかけられないまま、他のみんなの後を追って外へ出る。
外は既に暗くなっていて、ポツポツと雨のしずくが落ちて来る。
それぞれ畳んだ傘を持って皆で歩きながら、智花が言う。
智花「ミコちゃんからは薬物の反応は出なかったらしいですね」
北野「はい、土壇場で我が子に飲ませるのは思いとどまったんでしょうね」
瑠美「当たり前だ。いくら実の親だって、子どもを勝手に道連れにする権利はないさ」
沙羅「なあ、ミコちゃん、これからどうなるんだ?」
北野「ここから先は児童相談所の管轄ですから。親族と連絡が取れないようなんで、児童養護施設へ行く事になるかと」
沙羅「だったら、あたしが引き取る!」
玲奈「はい? ミコちゃんを、ですか?」
倫「そりゃ無理だね。沙羅ちゃんはあの子の家族でも親戚でもないだろ」
沙羅「倫さん、弁護士だろ。何とかできないかよ?」
倫「法律的にも、現実的にも無理だね。特別養子縁組や養育里親が可能なのは、経済的に安定していて正式に結婚している夫婦だけだ。今の沙羅ちゃんの状況じゃ、家庭裁判所の許可はまず下りないよ」
沙羅「前にも言っただろ。そりゃ養護施設は決して悪いとこじゃないけど、それでも親や家族と暮らす、その代わりにはならねえんだよ! だったらあたしが引き取って、あたしが育てて」
智花「そして、あの子も将来キャバクラ嬢とかになるんですか?」
沙羅「てめえ!」
怒りで阿修羅のような表情になった沙羅が智花の服の胸ぐらをつかみ、頬を引っ叩くために片腕を振り上げる。
沙羅「今、何つった!」
智花は終始冷静な表情のまま、淡々と応える。
智花「前にあなた、自分で言ってたわよね。母親が水商売の世界の事しか知らない人だったから、大事な事を何も教えてもらえなかったって。じゃあ、今のあなたに出来るの?」
沙羅の表情が怒り狂ったそれから、茫然とした物に変わる。
智花「あなたはミコちゃんに、ちゃんと教えてあげられるの? 友達との普通の付き合い方や、学校の勉強のがんばり方や、就活の仕方や、社会に出てからの他人との付き合い方を」
振り上げた沙羅の腕がガクンと垂れ下がる。
智花「まだほとんど水商売の世界の事しか知らない今のあなたが、ミコちゃんにそれをしてあげられるの?」
沙羅が智花の胸ぐらをつかんでいた手を離し、後ろに数歩よろけ、ぺたんと地面に座り込み、両手を地面につく。
玲奈が駆け寄って沙羅の肩に手を置くが、沙羅は手でそれを振り払う。
玲奈「さ、沙羅さん」
沙羅「うっせえ! 触んな!」
沙羅は地面を見つめ、両目をかっと見開いたまま涙を流す。それに呼応するように大粒の雨がポツポツと落ちて来る。
沙羅「チキショウ、チキショウ、チキショウ」
沙羅は拳で地面を叩き続ける。
玲奈は何か言おうとするがかける言葉が見つからず、黙り込む。自分の傘を広げ、沙羅の体の上に差し掛ける。
ざあっと雨脚が強くなる。玲奈の髪を雨水がつたい顔にしたたる。
「チキショウ、チキショウ」と泣きながら地面を拳で殴り続ける沙羅。
自分はずぶ濡れになりながら、無言で沙羅の上に傘を差し掛け続ける玲奈。