ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。私が撃たれて三日が経ちました。相変わらず私は部屋に押し込まれたままです。
お風呂も入れないので、暖かいお湯に浸したタオルで清拭する日々。もちろんシスターがやってくれます。何故かルイが立候補して拳骨されていました。気持ちは嬉しいのですが、節度は大切です。
脚の痛みは継続しています。包帯を交換する際に薬草を煎じた塗り薬を塗ってくれるのですが、これが無いと痛くて眠れないと思います。撃たれると激しく痛い。学習しました。
ただ、惜しいこともありました。
「駄目だったぜ、シャーリィ。あいつ死んでたよ。気合いが足りねぇな。死体は片付けといた」
「ありがとう、ルイ」
三日間私が動けない、つまり放置してしまった結果、地下室に監禁していたヘルシェル博士が死んでしまいました。実に残念です。まだまだ償いには足りないのに、楽にさせてしまいました。ごめんなさい、ルミ。
「落ち込むなよ、あんな奴生きてるより死んだ方が良いに決まってる」
ルイが慰めてくれます。
「それはもちろんですが…」
「それより、明るい話をしようぜ。エレノアの姐さんが帰るのは今日の予定だったっけ?」
そうでした、記念すべき第一回目の貿易から戻る日です。予定では、ですけど。
「あくまでも予定日です。数日前後するのは当たり前だとエレノアさんも言ってましたよ」
「風向き次第って話だった。海の上も大変だよなぁ」
「エレノアさん達船乗りの皆さんには頭が下がります。慰労の用意をしなきゃいけないのに」
「なら、セレスティンの旦那に伝えとくぜ。状況が状況だから、あんまり派手にはやれないだろうけどさ」
「お願いします、なにもやらないよりはマシです。労らないと」
「おう、行ってくる」
ルイを見送り、私はエレノアさん達の無事を祈るのでした。
~夕方 シェルドハーフェン港湾エリア 『暁』保有の桟橋~
やぁ、エレノアだよ。いやー、久しぶりのシェルドハーフェン、我が家みたいな安心感があるね。
今回初めてアルカディア帝国との密貿易をやったわけだが、先方はこちらが運んだ薬草に大喜び。
話を聞けば、アルカディア帝国じゃ今皇帝家のお家騒動の真っ最中らしくてな、内戦の気配もあって需要がうなぎ登り。次も薬草を山ほど持ってくると伝えたら大層喜んでたよ。まさか、うちの農園で育ててるとは言えないが…お陰でぼろ儲けだ。
「私は先に知らせてくる。お前達も羽を伸ばすんだよ!留守役はちゃんと仕事しな!」
「へーい!」
まっ、部下達は今から遊びに行くんだろうね。港湾エリアにゃ娼館に酒場、賭場。遊ぶ場所には困らないからねぇ。
で、意気揚々と教会に戻ってみればフル装備の戦闘員達が巡回して物々しい雰囲気だ。留守の間に何かあったのかねぇ?
おっ、マクベスの旦那が居る。
「マクベスの旦那!」
「これはエレノア殿、無事で何よりだ」
「簡単なことさ。それより、この物々しさはなんだい?戦争でもするってのかい?」
「似たような状況だ。お嬢様が狙撃されて負傷した」
「は?」
シャーリィちゃんが!?狙撃!?怪我をしただって!?
「何処のどいつだい!?ふざけやがって!魚のエサにしてやる!」
「落ち着かれよ、幸い大事には至っていない。今はゆっくりとお部屋で休まれている。詳しくはシスターに聞くといい」
「随分と冷静じゃないか、旦那。悔しく無いのかい?」
「無論この二年の恩義を思えば下手人を的にしてやりたいが、指揮官たるもの冷静に努めねばならん。エレノア殿も冷静に、先走ることはお嬢様の望みではない」
「そりゃ分かるがよぉ…いや、先ずは顔を見ないとね。邪魔したね、旦那」
「エレノア殿も身辺には充分注意なされよ」
マクベスの旦那と分かれた私は、礼拝堂の扉を開いて中に入った。宿舎は礼拝堂と併設してるからね。
で、祭壇の上に腰かけたシスターが目に入った。
「エレノア、戻りましたか」
「ああ、シャーリィちゃんが撃たれたんだって?」
「そうです。右足を撃たれましたが、幸いセレスティンの治療で経過も順調。今は部屋で休ませています」
「そうかい…なら、下手人には先ず右足を差し出して貰わないとね」
「ええ、報いは当然受けて貰いますよ。さあ、先ずはシャーリィに元気な姿を見せてあげてください。貴女のことも随分と心配していましたから」
「そうさせてもらうよ、また詳しく話を聞かせてね」
シスターと分かれて宿舎にあるシャーリィちゃんの部屋の前に来て、ノックしてみる。
「はい」
シャーリィちゃんの声だ。ふぅ、ちょっと安心したよ。
「エレノアだよ、さっき戻ったんだ。入って良いかい?」
「どうぞ」
「失礼するよ」
扉を開けて中に入ると、相変わらず質素な部屋が広がりベッドから身体を起こしたシャーリィちゃんとルイスが視界に映った。やれやれ、元気そうだ。
「お帰りなさい、エレノアさん」
「お帰り、エレノアの姐さん」
「おう、今帰ったよ。聞いたよ、撃たれたんだって?」
「不覚を取りました。それで首尾は?」
自分の怪我より先ずは成果かい。相変わらずな感じに顔がにやけるのを感じるよ。
「ああ、上々さ。いや、予想以上だね。成果を言えば…そうだね、今回だけで星金貨八枚にはなるかねぇ」
「星金貨八枚だぁ!?」
「それは凄い、何事ですか?」
「どうやら、アルカディアもキナ臭いみたいでね。需要が凄いことになってるんだ。お家騒動からの内戦間近、しばらく緊張は続くみたいだねぇ」
「ほう」
シャーリィちゃんが考え込んでる。そりゃそうだ、今回は試験も兼ねて少ししか薬草を運んでいない。それでも星金貨八枚、馬鹿みたいな利益だよ。
「この波を逃す手はありませんね。在庫はたくさんあります。ロウと相談して、積み込めるだけの薬草を積み込んで売り払うべきですね」
「数が増えたら値段も下がるんじゃないかい?」
「長い目で見れば流通が増えると値段も下がりますが、今は問題ありません。それに、こちらは農園で育てているだけ。ロウ曰く、ほとんど手間も掛からないのだとか。売れる内に売ります。後々値段が下がろうとも、私達は痛くも痒くもありません」
「それなら、直ぐに出港するとしようかね。少しは手下達を休ませたいから、来月になるけど」
「構いません、エレノアさんもしっかり休んでください」
「いや、仕返しに参加させて貰うよ。構わないだろう?」
当たり前だ。シャーリィちゃんを傷物にした報いは受けて貰わないとねぇ。
「愛されてるなぁ、シャーリィ」
「嬉しい限りです。エレノアさん、よろしくお願いします」
「当たり前のことだよ。うちに手を出したことを後悔させてやろうじゃないか。存分にね」
エレノアは隻眼を怪しく光らせ、海賊衆の帰還により戦力を増した『暁』の反撃が始まろうとしていた。
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