テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「なっちゃん〜?今日は出かけないの?」
らんがこてん、と首を傾げる。
……成人男性のクセに可愛い仕草しやがって。
「こんな雨降ってたら外出る気しねえよ」
「ほんと!?じゃあ、ゲームしよ!」
俺が答えた瞬間、らんの顔がぱあっと晴れる。
らんは引き出しから引っ張り出してきたらしいカセットを持ってにこにこしている。
つられて俺も口角が上がってしまう。
「しゃあねーな……。負けねえぞ?」
「俺だってなっちゃんのこと負かしちゃうんだから!」
らんが威勢のいい言葉をはく。
ま、言うまでもなく俺のがゲーム上手いけど。
……でも、最初会った時からこんな風に打ち解けられるなんて思わなかったな。
……確か俺とらんが出会ってからもうすぐ1年になるのか……。
「は?」
「あ、ども」
俺はあの日、見えてはいけないものが見えた。
そう。幽霊である。
俺が大学に入り一人暮らしをするのに選んだ家はいわゆる事故物件というやつだった。
東京にあるのにクソ安かったのが住む決め手になった。
第一幽霊なんぞ信じちゃいなかったから事故物件だなんて全く気にならなかったのだが。
……だけどどうだ。引っ越してはや二週間。部屋に“出た”のだ。
「えっと君新しい住人?」
「俺はらん。これからよろしくね〜」
前髪だけピンク色の珍妙な見た目をした男はへらへらと俺に話しかけてきた。
あんまりにも普通に俺の部屋にいたもんだから俺は驚きのあまり何も言えなかった。
だけど、ソイツはよく見ると夏なのにセーターを着てて、うっすらと体が透けていて……
俺の中でコイツの正体についての一つの解が出た。
「お、お前……幽霊!?」
「ご名答〜〜!そう俺は、」
「うわああああああああああああああああ」
前髪ピンクが満面の笑みを浮かべた瞬間、俺は一瞬でパニックに陥った。
本当にムリなのである。幽霊とかそういうオカルトの類は。
前髪ピンクはそんな俺の気も知らないでへらへらとしていた。
「名前なんてゆーの?」
「あ、俺になんて呼んでほしいかとかでも……」
「お前に名前呼ばれたくねーよバーーーカ!泣」
「ええひど!?」
逆になんで怯えてる人間の前でんなことが言えんだよ……。
ヤバい怖い幽霊って実際いたんだ。
俺きっとコイツに呪い殺されて死ぬんだ……!
「いや別に呪い殺さないよ!?」
「声に出てた!?」
「いや、出てたけど……」
前髪ピンクは困惑気味に言う。
なんかこういうヤツにそういう顔されるとなんか居た堪れなくなる。
……待って、別にコイツ全然怖くなくね?
「確かにお前には呪い殺すとかはできなそうだな」
「まあね!俺人畜無害だから!」
そう返すと前髪ピンクはすぐにふふん、と胸を張った。
……随分単純な性格らしい。見た目は20代前半くらいに見えるけど。
「あ、今俺のこと単純って思った!?」
「いや?」
首をすくめてみるがあっちは納得していないらしい。ちょっとむくれている。
そして、一番気になっていたことを口に出してみる。
「お前ここに住み着いてる幽霊とか言わねえよな」
ここが事故物件と言われる所以。まさかこんなふざけたヤツじゃないよな……。
前髪ピンクは一瞬戸惑った顔をして
「そうだよ!」
とニコニコと答えた。まさしく人畜無害そうな顔で。
……なんだ。じゃー怖くねえじゃん。
「ねーねー、名前教えてよ」
前髪ピンクはまだしつこく聞いてくる。
……まあ別に教えてもいいか。
「暇 夏樹」
名乗っただけで前髪ピンクは嬉しそうな表情を浮かべた。
「なっちゃん!これからよろしく!」
なっちゃん……?
随分可愛らしいあだ名だな。俺には似合わない感じの。
……別にいいけど。
「お前の名前は?」
聞き返すと前髪ピンクは不服そうな顔をした。
「さっき言ったじゃんっ!」
「いや、ごめん。さっき気が動転してて全然聞いてなかった」
「らんだよ。ら・んっ!」
「おけおけ」
なんかころころ表情が変わって面白い。
かなりいじりがいがありそうなヤツだ。
「ま、俺実質同居人みたいなもんだからさ。よろしく!なっちゃん」
にこにことらんは手を差し出す。握手がしたいのだろう。
コイツが同居人とか……ちょっと楽しそうかも。
「ん、よろ」
俺は一拍置いてかららんの手をとった。
そしてなんやかんや1年。
2人でゲームしたり映画見たり寝っ転げたり……。
思い返すといろんなことをしたもんだ。
「なっちゃーん?もうセットしたよ?」
らんが俺の顔を覗き込んできた。手には俺の分のコントローラー。
「ありがと」
らんからコントローラーを受け取る。
「よっしゃ、今日こそ勝あーつ!」
視界の端でらんが息巻いている。
何だかんだいっしょにいて楽しいんだよな。
腕まくりまで始めたらんにふっと笑いかける。
「絶対俺が勝つ!」
240
6,775
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!