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#アモアスoc
ベルリウム
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ベルリウム
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宇宙の真ん中を漂う、The Skeld 32号船。
……漂うと言うには語弊がある。何故なら、この船は今も青い炎を連ねてどこかへと向かっているから。
この船の行く先も、行く末も、赤はよく知らない。ただ、「共存に最も近い船」と呼ばれていて、その存在の確かさこそがこの船の価値そのものなのだということしか。
窓ガラスに指先を滑らせた。
星、星、星。見渡す限り散りばめられたそれらが、広い広い宇宙に比べればゴマ粒程度のこの宇宙船へも光をもたらす。自分の背丈より遥かに大きいと見えたカフェテリアの大窓も、所詮はひとの手で作られたものに過ぎなくて。照明のついていない部屋は、仄暗い。
己の知らないものを数えてみた。
あの星の名前。絵本の挿絵に描かれた花の生態。あの村の伝統。
どこかの星の空の色。
「なにも知らない」
呟いたのは、指先で追った星に向かって。
内を流れる命の色をした身体を、名も顔も知らぬだれかが照らしてくれる。
ふと、赤が見つめるばかりだった星は、返事をした。
「知らない、と貴方は思うのですね」
「……うん」
それ以上の声は堰き止められたように途切れた。背後の彼女を振り向こうとして逸れかけた視線は、また空の間に囚われる。
ロリポップを回して、ころころ口で弄ぶ音がした。
「星の笑い声みたい」
「何がです?」
「その音」
「……貴方って不思議なたとえをしますよね」
今星を見ていたから。浮かぶ思考もつられてしまって。
考えもせず口にしたら、やっぱりコーラルは苦笑した。いつの日か、この味がお気に入りです、と言っていた金色の飴が刺さった棒。何味なの?って聞いたら、南国の果実の名前が返ってきた覚え。
「知らないものを思うには、知らないもので喩えなきゃいけないから」
「そんなものですか?」
「そんなものじゃない? 少なくとも、僕はそう」
「貴方が知らないものって、なんです?」
星の色を問われて、もう一度恒星を見つめ直した。それはあまりにも多すぎたから、仕方なく窓枠を指差す。
「いっぱいあるよ。わからないものもたくさん」
「例えば?」
「たとえば、きみとか」
「私、ですか」
コーラル。彼女はThe Skeld 32号船の副船長で、事務処理担当うんたらかんたら、みたいな役職も兼任してる、要するに書類仕事をするひと。飴が好き、絵を観るのが好き。赤の記憶は彼女のプロフィールを無意識下に並べてくれて、赤はそれをひとつひとつ手で選び取ることができる。
けど、それは名を知っているのと変わらない。赤は彼女のことがわからない。
「私でものを喩えるとどうなるんですか?」
「……副船長かぁ……。……桜は、副船長みたいだよ」
春に浸された花。薄暗い床は、想像ひとつで花びらを積もらせることができる。光が足りなくて くすんでしまったそれらは、ちょうど彼女と同じ色に見える、かもしれない。
幹は、機嫌良さそうに飴を咥え直して尋ねた。
「あら、褒めていただいているという認識で?」
「まぁ……。……桜ってね、花が綺麗だけど、葉っぱに物質が入ってるんだよ。成長抑制物質だったかな。それで夏に、周りの植物の成長を止めちゃうんだって。……だから、桜を知らないひとに説明するなら、副船長を挙げると思う」
「……それ、褒めてないですよね?」
渋い表情になってしまったコーラルを、赤はふわりと笑って宥める。
「うん、褒めても貶してもないよ。桜も副船長もそういう性質なんだから、それでいいよね、ってこと」
「……そうでしたか。まぁ、納得してあげましょう」
「僕、副船長の『夏』をまだ知らないし、『春』だって全然わかんないから。褒めるも何もないもん」
コーラルが耳を傾けるように黙り込む。どうやら続きを求められているらしいので、赤はまた語り始めてみる。
「僕、不思議なんだ。副船長は対価が欲しいって言うでしょ。それがよくわからなくて」
「……はあ、……なるほど」
「僕、誰かのためならずっと走ってられるよ。何かをもらうためじゃなくてね、他のひとが『よかった』って言ってくれるなら、それが一番嬉しいんだ。……上手くいくとは限らないんだけどね」
広げた自分の手のひら、指先にまで視線を流して、寂しそうに笑う。
「たとえば、僕がインポスターをさいごまで信じるでしょ。そうしたら、そのインポスターは後でふっと僕のことを思い出して、キルをやめてくれるかもしれないって。僕が命を擲って、たくさんのひとの命が助かるんだったら、それがいいな、って思ったんだ」
「理解できませんね」
冷たい声音が耳を打った。瞳を星の光に染めたコーラルは、煙草でも吹かすようにロリポップを指で挟んだ。
「情でひとは動かせませんよ」
「うん。きみはそう思うひとなんでしょ」
「ええ、動かないひとを山ほど見てきましたから」
「だから、同じになるの?」
「その方が生きやすいですから」
感情など不要だと切り捨てるように、目を伏せる。やがてぱっと浮かんだ眼差しは、見覚えのある形。
いくつもいくつも見てきた、諦めたような、ベストよりもベターを探しているような形。一度円卓に座り込んでしまうと、みんなそんな顔をする。
「本当にそう思ってる?」
「ええ、心より」
「いつから、そう思ったの?」
「ずっとですよ。子供の頃から。ひとは利で動くものだと知った時から」
彼女の目線が、カフェテリアの壁をぐるりと泳ぐ。刺さる先を追うと、額縁に入れられた一枚の絵画に行き当たった。あまり名の売れていない画家が描いた、けれど素敵なお花の絵。ご丁寧にコーラルは自ら足を運んでそれを買って、額縁に入れて、しかもこの船の壁に彩りを持たせることにしてくれたらしい。
「後悔も同情も、他者の心の内に見出だそうとするだけ無駄ですから。弁えるつもりのない相手には破局を叩きつければよろしい」
「きみは、後悔しないの?」
「ええ。私は、この命を下に見られるなど真っ平御免です」
蝿でも払うように手を振って、薄く微笑む。至っていつも通りの笑い方。見上げるでも見下すでもなく、こちらを対等な相手として見据えるときの瞳。
コーラルは、赤と話す時、よくそういう目をする。
「……何回考えても、副船長のこと、よくわかんないな」
「そうですか?」
「どうして、きみに罪悪感がないのか。どうして、きみは利益がないなら動かないなんて言えるのか」
「ええ、私も貴方のことが理解できませんよ。なぜ不確定なものに縋るのか。なぜ迷いながら生きるだなんて、面倒な真似をするのか」
理性のコーラル。感情の赤。
論理で詰めるコーラル。情に訴える赤。
金を選ぶひとと、愛を選ぶひと。
「……やっぱり僕、きみのこと、苦手かな」
赤は静かに苦笑した。
首を傾けた拍子、頭上のミントアイスに手を添える。
星々にもう一度だけ目を向けて、今度こそカフェテリアに帰ってくる。寄せた意識の先で、コーラルは、まだ笑っていた。
「あらあら、光栄ですね」
「そう?」
「貴方の口からそんな評価をいただけるとは思いませんでしたから」
くすりと笑って、コーラルは飴を舐め始めた。お話は終わり、という合図。
眠れない夜の幕引き。瞬くことを知らない星の仄明かりが、ふたりを柔く照らす。
「こんばんは、赤さん。どうかしましたか」
「少しだけ寝付けなかっただけ。おやすみなさい、副船長」
「おやすみなさい。Fais de beaux rêves」
「……―――、うん、Sweet dreams 」
コメント
3件
あのね、好き×好きってつまりは大好きなんだよ分かる??(逆ギレ) コーラル色と言うだけで好きになりがちなのだが、副せんちょは本当にそれ関係ないくらい愛してる このキャラクターに心から惹かれる 赤くんはいつでも好きですよ?もっと闇深いところ見せてくれてもいいんだよ? あと最後の終わり方は天才 余韻が丁度よくて心地いい
**はる。だわ。** 第6話、めっちゃ良かった…。 「知らない」って呟く赤の孤独感と、コーラルの理知的な距離感。桜の比喩で「褒めてない」って言い合う空気、好き。 「情で人は動かせない」って言い切るコーラルと、「誰かのために走る」赤。価値観の違いが美しくて切ない。 最後の「良い夢を」の掛け合い、心に残った。続きが気になる…!