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ピタン、ピタン、ピタンッ。
「うっ!」
俺は鋭い痛みを発する頬に、水滴が当たって、慌てて顔を覆おうとした。目を開けると、そこは薄暗い空間だった。
どうやら、洞穴の中らしい。
あいにくと、頬は焼けただれているようで、今もヒリヒリと痛かった。いや、顔だけじゃないや。
「痛い。寒い。体中がヒリヒリする……」
ぼんやりと浮かぶ人魂が、明かりを発しながら俺の周りに浮いていた。洞穴は、意外にも、地面に小さな白い花が咲き乱れていた。
「綺麗なところだなあ……あ、でも?」
何故か俺には、ここにとてつもない絶望感を覚えた。
この白い花もどこか死よりも深い。そして、悲しいものを感じさせている。
頭がスッキリしていくと、ああ、そうか。と思えてきた。
「この先に阿鼻地獄があるんだ……」
俺は起き上がろうとした。
早く。洞穴から出ないといけない。
その出口は、阿鼻地獄で、きっと弥生がいるはずだからだ。
けれども、俺の身体は腕や小指すら動かすことのできない。ビクともしないものだった……。
「そこにいるのは、火端さんですか?」
「え?」
一瞬、空耳かと思った。
絶対に、ここには来ていないはずの音星の声が聞こえたからだ。
「まあ、そんなに火傷をして……ちょっと、待ってくださいね。今……よっこいしょっと……」
それから、俺の面前を懐かしい光が包んできた。
こ、これは?!
浄玻璃鏡?!
眩しさで、目をつぶってから、再び開けると、真夏の太陽の強い日差しが目に入り、眩しさで瞬きする。
クラクションの音。人々の忙しない雑踏。それから、小鳥のさえずりも。それらが、一辺に胸いっぱいに押し寄せて来た。
「お!」
「ふぅー、やっと戻ってこれましたね」
俺は涙がでそうになったが、弥生のことが胸にチクリとした。
「火端さん? 救急車呼んできますね」
俺は生まれて初めての救急車に乗って、八天病院へしばらく入院することになった。その間。音星に、おじさん、おばさん、古葉さん。谷柿さんに霧木さんがお見舞いに来てくれた。
「りんご剥こうか?」
「いや、バナナだろ?」
「あー、わかってないな。この場合はメロンだろ」
「いやいや、アイスなんてのもいいかもな」
「ええー、この場合って、桃の缶詰でしょ?」
みんなが一斉に、色々な食べ物を持って迫って来るので、身体が包帯でグルグル巻きの俺は青ざめた。
「そんなに食えないよーーー!!」
「あ、さっき。大福を食べてくれましたよ」
消毒薬の臭い漂う病室のベッドで、音星が取り繕ってくれた。
せっかくなので、音星と今後の話をすることにした。
俺はベッドから音星の方を向くと、
「阿鼻地獄は、もうすぐそこだ。でも、広部康介はどうして金の腕時計を音星に渡して来たんだろ?」
「さあ、でも。この金の腕時計は、これから先で、とっても重要な意味を持つと思いますよ」
「うーん……金の腕時計か……」
音星が静かに大福を箱から一個取り出した。
「火端さん。もう一ついかがですか?」
「いやいや、ここは俺のバナナがだな」
「あんた。ここはりんごさね」
「みんな。わかってないなあ」
「うーん。アイスは?」
「それより、缶詰でしょ」
「いや、いいって。いいって。俺はもう腹減ってないんだ」
俺は口を両手で押さえたい衝動に駆られた。
その時、メロン片手の古葉さんが、ふと。
「なあ、火端よ。覚えているか? あのテレビ番組のこと?」
「? テレビ番組?」
「ああ、その番組で広部康介は妹を自室で変死していたのを、発見したんだけどな。だが、確かなあ……。次の日のテレビ番組でやっていたんだが、実は犯人が広部康介自身なんだってさ」
「「えええええーーーー!!」」
古葉さんの言葉に、俺を含め。みんなが驚いた。