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小さな洋食屋さん
洋食屋さんを営んでいるゆり組を書きたくて 生まれた作品です
食べ物の表現はなかなか難しいですね
ゆり組にハマりたてくらいのタイミングで書いたものなので、少し前の作品になっております
【設定】
全員が芸能人ではない
目黒→俳優
向井→フリーカメラマン(出てきません)
宮舘→洋食屋店主
渡辺→洋食屋店員
深澤→助監督(出てきません)
佐久間→振付師(出てきません)
岩本→消防士(出てきません)
ラウ→モデル(出てきません)
【カプ要素】
だてなべ、めめ→こじ(雰囲気のみ)
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✱目黒視点
目黒蓮、それが俺の名前。高校を卒業し、予てから勉強していた芝居の道へ進んだ。お芝居でたくさんの人に感動を届けること、それが俺の夢だった。芸能界という場所は、どの世界よりも華やかできらびやかな場所だった。そして、どの世界よりも黒く、汚く、人の欲望が渦巻く生地獄のような場所だった。全部が全部そうではないが、男女構わず袖の下や枕営業は当たり前。ドンと呼ばれる人に媚を売る。所によるが、犯罪スレスレなんてことは日常茶飯事。こんなゴミの掃溜めのような世界で、俺は今日も生きている。
“真面目に、誠実に。一番大切なのはファン”
これをモットーに今日まで走り抜けてきた。お陰様で”目黒蓮”は今一番勢いのある若手実力者俳優としての地位を築き上げた。忙しくさせてもらってはいるが、俺も人間なので疲労というものは蓄積していくわけで。もう何連勤したか正直思い出せないが、とうとう待ちに待った3連休がやってきた。重たい足を引き摺りながら、俺は帰路についていた。
「腹減った…」
最近ろくな物を食べていない。仕事で用意されたロケ弁で終わらせる毎日だった。このまま帰っても家にあるのはカップラーメンだけ。買い物をする気にもなれないし、何かを食べて帰るにも、俺は顔が割れすぎている。絶望的だ。
「……こんなとこに、洋食屋なんてあったっけ」
店と家が一体化している、小ぢんまりとしたかわいらしい洋食屋がある。”giglio”と書かれた看板。ここの店の名前か。とても温かくて、優しい雰囲気。俺は無意識にその店の扉を開いた。
「わっ」
「すみません。ぶつかっていませんか?」
「大丈夫です。こちらこそ、すいません」
「僕も大丈夫です」
「それはよかった。改めまして、こんばんは。お食事ですか?」
どうやら店の人も向こうから扉を開けたようで危うく正面衝突するところだった。鉢合わせしたにもかかわらず、相手は至極冷静で俺に挨拶をした。少し釣り目のくっきりとした二重。すっと通った鼻筋にぷっくりとした艷やかな唇。綺麗な黒髪は茄子の蔕のようなスタイル。細いのは間違いないのだが、この人はガタイがいい。俺よりずっと大きく見える。ふと扉に目をやると、看板に「Close 20:00 ✱ Last order 19:30」と書かれていた。現在時刻は19:52を指している。
「あ、えっと…まだ大丈夫、ですか?」
「はい、もちろんですよ」
「ありがとうございます」
穏やかに優しく答えるこの男性は、俺を親切に迎え入れてくれた。
「涼太〜。こっちは片付け済ん…ぅええ!?」
「あっ、す、すいません」
目の前にいる男性と思われる人物に驚かれる。無理もない。今俺は変装している。帽子にサングラスにマスク、完全に不審者である。後ろを振り返ると、涼太と呼ばれた男性はカーテンを全て降ろしてくれていた。それに安心して、俺は急いで変装グッズを取った。
「ぇええ!!?めっ目黒蓮!!?!?」
「翔太。お客様に対して失礼だよ」
「あっ!す、すいません!びっくりしてしまって」
「いえ、こちらこそ驚かせてしまってすいません」
翔太と呼ばれたこの男性、と思われる人…名前が翔太だから男の人か。明るい茶髪にパーマがかかっており、ふわふわとしたスタイル。垂れ目で奥二重、大きい涙袋と綺麗な鼻筋。薄い唇は猫のような形で近くに黒子がある。極めつけはその輝く美しい肌。
「メニュー表です。決まったら教えてくださいね」
「ありがとうございます。すいません、ラストオーダー過ぎてるのに…」
「大丈夫ですよ」
翔太さんはにっこり笑って答えた。洋食屋というだけあって、グラタンやハンバーグ、チキンカツやエビフライ、カニクリームコロッケなど定番のものは勿論、豚の生姜焼き、焼き魚や煮魚などの変わり種もあるようだ。想像するだけでも食欲が刺激されてお腹の虫が騒ぎそうになる。悩んでいる俺に、翔太さんが話しかけてきた。
「お水どうぞ。ちなみに俺が好きなのはグラタンです。オススメはハンバーグかな」
「ありがとうございます。すごく有り難いです」
「がっつりいきたいならチキンカツとか…流石にこの時間だから、俳優さんだったらキツイですよね」
「いや、俺今日はがっつり食べたくて…最近ろくな物食べてなかったから。揚げたての揚げ物なんて最高ですよ」
「ふふっ、美味しい食事は、日々の活力ですから」
涼太さんは優しくそう言った。本当に心から同意できる言葉だった。俺は食べるのが好きだ。でも、食べる気力なんて無くて。隙を見せないように立ち回り、気を張る毎日。敵に囲まれて擦り減っていく精神。今日はがっつり、絶対にがっつり食べる。絶対に。
「決めました。ミニグラタンとチキンカツにします」
エビフライ食べたかったけど、これは次回にしよう。
「承りました」
「よろしくお願いします」
「あの映画見ましたよ。俺もあいつもめちゃくちゃ泣いちゃいました」
「ありがとうございます。あの映画、役作り難しくて…ほんと頑張ったんです。最後の最後まで悩みましたし」
「うわぁすごいなぁ…俺にはできないだろうなぁ」
「お兄さんはモデルとかできそうですけど…」
「モデル?あはは、芸能界なんて勘弁してください」
「ですよね。芸能界なんて、クソ喰らえです」
「うはは!けっこう言いますね!」
悪戯っ子のように笑う翔太さん。これは数多くの女の人を泣かせてきてるだろうなぁと想像する。
「すいません、俺は渡辺です。そっちで料理してるのが宮舘。好きに呼んでください」
「渡辺さんと宮舘さんですね。お二人はどんな関係なんですか?」
「俺らですか?俺らは幼馴染なんです」
「おいくつから?」
「3歳の頃に出会ったんで、付き合いは23年になります」
「23年!?俺の人生より長い…」
「何をするにも隣に宮舘がいるんです。不思議な縁ですよね。もうね、宮舘のいない人生なんて、考えられないんですよ。俺にとって宮舘は、空気みたいなもんなんです」
「へぇ…」
「俺も、翔太のいない人生なんて考えられないよ」
「…ばーか」
なんだろう、この甘い雰囲気は。まるで恋人同士のやり取りみたいな…俺の知ってる幼馴染とはちょっと、いや、大分違う気がするが。
「なんか、すごく好きです。このお店」
「それはそれは、どうもありがとうございます」
「お二人の雰囲気というか、おっきな幸せが溢れてて、すごくあったかいです」
「おっ、俺らの雰囲気…?」
何故か渡辺さんはしどろもどろになる。
「友達以上で、恋人未満なのかなって思いました。お二人の目線というか…なんだろ、見つめる眼差しというか…俺、役作りのために人を観察することが多くて。お二人の関係性が、お互いに尊敬尊重し合ってるのかなって。アイコンタクトとかもすごく多いなって感じますし、その眼差しが、すっごく優しくて。ずうっと連れ添ってきた老夫婦みたいな…そういう雰囲気って、思ってる以上に無いんですよ」
「ふふっ、やっぱり実力派俳優さんにもなると、少ない情報から色んなものを手に入れるんですね」
宮舘さんは控えめに笑って、俺の前にトレーを置いた。火傷するぞと言わんばかりのチーズたっぷりなグラタンに、俺の開いた手くらいの大きさなんじゃないかというくらいの揚げたてのチキンカツ。見ただけでもサクサクだということがわかる。
「おまたせしました。ミニグラタンとチキンカツです」
「わぁぁ…あれ?エビフライ…」
「エビフライ、食べたそうだったんで」
すごいな。料理人に限らず、職人という人たちはそんなところまで観察してるのか。人間観察と芝居には自信があったんだけど。
「それは、俺からのプレゼントです。目黒さん、俺はあなたのお芝居が好きです。芸能界という場所は、俺が想像している何倍も、何十倍も厳しく恐ろしいところなんでしょうね。どうか負けないでください。あなたはもっと、高みを目指せる人だと俺は思います。疲れたら、またここに来てください。美味しい食事の前では、みんな平等です。美味しい食事は、生きる活力ですから」
「そうですよ。疲れたら、逃げてもいいんです。俺たちはいつでも、ここで待ってますよ」
今日までがむしゃらに走ってきた。頼れる知り合いもいなければ、心を許せる友人もいない。寄ってくるのは甘い汁を吸いたいクソ野郎、俺を陥れたいゴシップ誌の奴ら、あわよくばと思っている品の無い女。こんなにあたたかい言葉をかけられることなんて無かった。涙を見せるなんて、弱みを見せるようなものだった。
「…っいただきます」
溢れる涙を堪えながら、たっぷりとソースを付けてチキンカツを一切れ頬張る。デミグラスソースとは違った、少しパンチがあるソース。かと言ってとんかつソースでもなければウスターソースでもない。トマトの酸味と風味が微かにあるが、ケチャップでもない、はじめましての味がした。薄い衣にジューシーな鶏肉。それらが口いっぱいに広がり、涙が零れ落ちた。
「っ美味しい、です…うぅ…っ」
「泣くほど美味いって涼太。よかったね」
「これからも精進するよ」
俺はその後も泣きながらご飯を食べ続けた。心の底から美味しいと感じた。美味しいご飯が食べれるって、こんなにも幸せなことだったんだと気付かされた。もっと頑張ろう。俺はもっとたくさんの人に感動を届けたい。そして、お腹が空いたらまたここに来よう。
「ご馳走様でした。すごく美味しかったです。冷やす氷まで…」
「いえいえ、お粗末様でした。翔太、あれ持ってきてくれる?」
「用意してるよ」
「ありがとう」
「目黒さん。これ、余ってる材料とかを調理して冷凍したやつです。全部涼太が作ってるし、俺は潔癖症だから、衛生管理はばっちりなんで」
そう言って渡辺さんは大きな紙袋を差し出してきた。
「蓋はプラスチックなので、取ってから電子レンジで温めてくださいね。捨てれる容器なので」
「えっ、えっ?どういうことですか?」
「お弁当です。残り物みたいな感じになっちゃいますけど…ご飯は炊けますよね?」
「えっ、炊けます、けど…そんな…そんなに甘えられません」
「俺は料理で人を幸せにしたい。俺の夢に、協力してくれませんか?」
「俺からもお願いします、目黒さん。涼太の夢は、俺の夢でもあるんです」
「そんなこと言われたら…断れないじゃないですか」
俺は渡辺さんから紙袋を受け取る。お弁当が6つ入っており、1つずつ丁寧にビニール袋に包んである。
「ありがとうございます。でもお支払いさせてください。これだけは譲れません」
「…わかりました」
宮舘さんはふっと微笑んだ。お弁当の分は大分割引をしてくれているようだ。会計を済ました後、渡辺さんが口を開いた。
「そうだ。佐久間大介って知ってます?」
「佐久間大介って…あの振付師の?」
「そうそう。ピンク色の」
「あいつ高校の同級生で。ダンス部で一緒だったんです。あいつにアクロバット教えたの涼太なんですよ」
「えっ!?そうなんですか!?」
「それはたまたま俺が最初にできただけだって」
「まだ面と向かってお会いしたことはないんですが…ダンスとアクロバット、本当にすごいですよね。いつかご一緒してみたいんです。宮舘さんと渡辺さんも踊れるんですね」
「涼太は上手いんですけど、俺はあんまり」
「そんなことないよ。それに翔太は歌だから」
「歌が得意なんですか?」
「得意というか、みんなより音程が取れるだけですよ」
「綺麗な声で。俺は大好きです」
「だっ、大好きって…ばかっ」
「あはは!ほんと仲良し!」
2人のやり取りを見てると、なんだかほっこりしてしまう。
「あと深澤辰哉って奴もいるんですよ。多分助監督をやってると思います」
「ふっかさんですか?」
「もうお知り合いですか?」
「はい。それこそこの前のドラマで」
「ああー!深澤の名前あったわ!あいつも同じ高校でダンス部だったんですよ!」
「なんか、世界って狭いっすね」
時計を見ると、もう21:30になっていた。
「すいません、こんな遅くまで」
「いえ、少しでも気分転換になったのなら嬉しいです」
「本当に、ありがとうございました。また来ます」
「お待ちしてます」
「気をつけて帰ってくださいね」
「はい、ありがとうございます。ご馳走様でした」
「おやすみなさい、目黒さん」
「おやすみなさい」
「…おやすみなさい、宮舘さん、渡辺さん」
「あと、俺たちが付き合っているかどうかは、ご想像にお任せしますね」
「涼太…ッ!」
「はは、わかりました」
俺は洋食屋を後にした。夏が終わり、秋が来た。涼しい夜だ。こんな日は、少し窓を開けて寝るのもいいかもしれない。とは思うが、セキュリティのために、鍵は締め切って。どこで、誰が見ているかわからないから。今日は素敵な出会いがあった。小さな洋食屋さんの宮舘涼太さんと渡辺翔太さん。二人は幼馴染で、3歳の頃から今日までずっと一緒。多分おそらく、二人はいわゆる恋人関係、もしくは友達以上恋人未満。この先の未来で、恋人を見つめるシーンがあった時、俺も宮舘さんのように、相手を見つめることができるだろうか。あの慈しむような、優しい優しいあの眼差しを。渡辺さんは、言葉ではツンとしていたが、宮舘さんに対するその眼差しは、常に「大好き」と伝えているかのようだった。
「美味しかったな」
お腹も心も満たされて、ずっと忘れていた幸福感に包まれる。ふっかさんに二人の話をしよう。そして、まだ会ったことのない佐久間大介さん。いつか一緒に仕事ができたらいいな。その時には、この話をしよう。
ふと公園の花壇に目をやると、そこには枯れた向日葵の花があった。向日葵、康二のような花。康二、君は今どこにいるの。どうして、俺から離れていってしまったの。君に会いたい。会って抱き締めたい。好きだよって伝えたい。でも俺は俳優。イメージ商売。この気持ちは、俳優を引退するまで鍵を掛けて仕舞っておくと決めたから。せめて、どこにいるのかだけでも、元気なのかだけでも、俺に教えてほしい。大好きな康二。神様どうか、あの泣き虫が、悲しみの涙を流さずに過ごせていますように。
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