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四月十八日……午前八時十五分……。

この日、ビッグボード国内でモンスター化した人たちがまちや人を襲う事件が起こった。

今から始まるのは、その事件のほんの一部である。


「ふむ。そろそろ僕の出番のようですね」


彼の名前は『時坂《ときさか》 賢太郎《けんたろう》』。黒縁《くろぶち》メガネが特徴的な時坂式時間拘束術の使い手である。


「まあ、とりあえずあれをやりますか」


彼はそう言うと、力を使った。


「時坂式時間拘束術……壱《いち》の型一番『周囲拘束』!」


その直後、彼の周囲の時間が止まった。


「これでしばらくはモンスター化した人たちと戦うことなく、自由にまちを歩けますね」


彼はそう言うと、鼻歌を歌いながら、前に進み始めた。


「ふむふむ。どうやらモンスター化しているのは男性だけのようですね。しかし、どうしてでしょうね。女性の方が平均年齢も生物学的にも男性を凌《しの》ぐというのに」


彼はモンスター化した人たちを観察しながら、ブツブツとそんなことを言っていた。

このまち自体をなんらかの実験に使っているのだとしたら、成人男性をモルモットの代わりに……しかし、まちにいる成人男性を一斉にモンスター化することなどできるのでしょうか?

成人男性のみに効果を発揮する特殊な光線か何かを浴びせた、もしくはそういう魔法を発動したと見るべきでしょうか……。

しかし、いったい誰がそんなことを……。


「おっと……僕の悪い癖《くせ》が出てしまいましたね。一度、深呼吸しましょう」


彼は一度、深呼吸すると空を見上げた。


「それにしても今日はいい天気ですね。こんなことが起きなければ、最高の一日になったかもしれないというのに……」


彼は空を見上げたまま、そんなことを呟《つぶや》いた。


「そういえば、このまちの温泉は僕たちのいた世界でいうと、大分県の別府市にある温泉に似ていますね。どこの温泉かは忘れてしまいましたが、とても懐《なつ》かしい感じがしましたね……。さて、そろそろまちの探索を再開するとしましょう。いつまでも考えていたら、前に進めませんからね……」


彼はそう言うと、まちの探索を再開した。



「はぁ……いくら進んでもモンスター化した人たちとあちこち傷《いた》んだ建造物ばかりですね……。さすがに飽きてきました……」


これ以上、周囲の時間を止めていても何も見つけられないだろうと思った彼は一度、『周囲拘束』を解《と》くことにした。

しかし、その直後……体長三十メートルの巨人が彼から数十メートル離れた場所に出現した。


「おおー! これは久しぶりに面白いことになりそうですね!」


彼はそう言うと、そいつに攻撃しようとした。

しかし、彼が攻撃する直前に、二本の黒い槍が飛んできて、巨人の両目を潰《つぶ》してしまった。


「ああっ! もったいない! 実にもったいない! この僕が少し手を加えれば、もっと効率よく倒せたというのに!!」


彼は少しの間、ブツブツと愚痴《ぐち》を言っていた。

そのせいで、モンスター化した人たちが彼のところに集まってきた。


「おっと、僕としたことが周囲に気を配るのを忘れていました」


嘘である……。

彼は彼らを自分のところに、おびき寄せるためにわざと愚痴《ぐち》を言っていたのである。


「まあ、あなたたちのような不完全な生命体がいくら集まろうと、時間を拘束できる力を持つ僕の敵ではないですけどね」


彼は一瞬、微笑みを浮かべると思い切りジャンプした。


「時坂式時間拘束術……壱《いち》の型二番『部分拘束』!」


彼がそう言うと、彼らの両足は全く動かなくなった。


「ふっふっふっふっふ……。どうやら、頭の中では動けと命令しているのに前に進めないという不思議な現象に動揺しているようですね」


彼はそう言いながら、その場にいるモンスター化した人たち全員にデコピンをして回った。


「僕の力の影響を受けない存在はこの世に一人しかいませんから、あなたたちが僕に勝つことは不可能です。しかし、あなたたちが先ほどの巨人のように一つになれば、僕に勝てるかもしれませんね……」


彼がそう言うと、モンスター化した人たちは両手をビヨーンと伸ばして、手を繋《つな》ぎ始めた。

どうやら両足を動かせなくても、合体はできるようだ。


「そう……それでいいのです。その人間離れした異常な肉体こそ、あなたたちの本性! さぁ、見せてください。人を超えた者たちの力がどれほどのものであるのかを!!」


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


彼らは体長十メートルの『黒い狼』になると、その声を辺り一帯に響かせた。


「感じますよ。あなたたちの憎《にく》しみや恨《うら》みの感情を。あなたたちは僕を殺したくて仕方がない……。そうでしょう?」


「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルル……」


唸《うな》り声をあげながら、彼を睨《にら》む『黒い狼』はその赤い瞳で彼を威嚇《いかく》している。


「そんな目で見られるのは久しぶりですよ。まあ、あの時とは気迫も殺意も薄っぺらいですがね……」


「ガウッ! ……ガウッ! ガウッ!」


「ほう、この僕を前にしても、まだそんな闘争心が残っているとは驚きですね。しかし、それがいつまで続くでしょうね?」


「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


『黒い狼』は雄叫びをあげると、彼に向かって突進した。

その鋭い牙《きば》と爪《つめ》で彼を殺すために、全速力で走った。

しかし、彼の前ではそんなものは無意味である。


「はい、ストップ」


「ガウッ!?」


『黒い狼』は彼の言葉を聞いた瞬間、全く動けなくなってしまった。


「ふむふむ。やはり、『部分拘束』はあらゆる生命体に対して、有効なようですね。あっ、こっちの話です。気にしないでください。まあ、その前に両足をどうにかしないといけませんがね?」


『黒い狼』はようやく気づいた。

自分の両足が彼の力によって、停止されてしまったということに……。


「合体しても、その程度ですか? あなたたちは僕よりずっと強いはずなのに、僕に傷《きず》一つ付けることができない。どうしてでしょうね?」


「ガウッ! ……ガウッ! ガウッ! ガウッ!」


「今のあなたたちに、相応《ふさわ》しい言葉があるのですが、聞きたいですか?」


「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!」


「まあまあ、そんなに警戒しないでくださいよ。僕だって、好きでこんなことをしているわけではないのですよ?」


「……ガルルルルルルルルルルルルルルルルル!!」


「……まあ、とりあえず言っておきましょうか。今のあなたたちに相応《ふさわ》しい言葉……それは……『絶対絶命』です」


「……ガウッ!?」


「おやおや、どうやら理解できていないようですね。まあ、頭で理解するよりも体に刻み込んだ方が早いですから、そうすることにしましょう」


彼はそう言うと、『部分拘束』で『黒い狼』の体を完全に固定した。


「どうですか? 声を出すことも、僕を攻撃することもできないでしょう? あなたたちは今、攻撃できる手段はあるのにそれを実行できない状況にある……。これがどういうことなのか、一つずつ教えていきますよ」


彼は『黒い狼』の鋭い牙《きば》に触れると、それを引っこ抜いた。


「痛覚はあるのに泣き叫ぶことができない……。それすなわち、助けを呼ぶことができないということです。そして、これからあなたたちの牙《きば》を全て抜き終わるまで、これは続きます」


彼はそう言うと、一本ずつ『黒い狼』の牙《きば》を抜き始めた。

出血はしない……。

まあ、彼が『黒い狼』の体を固定している間だけだが。

一本……また一本と『黒い狼』の牙《きば》が人という自分より弱い生命体によって、抜かれていく。

『黒い狼』はそれを失う度《たび》に思った。

この人間は、狂っていると……。


「今のあなたたちの目は、あの頃の……僕の高校時代の友人たちの目にそっくりです。僕をサイコパスだと思っているかのような……まるで人ではない何かを見るような目です。しかし、彼だけは違いました。『本田《ほんだ》 直人《なおと》』という人物だけは、僕のことを人間扱いしてくれました。彼のおかげで僕はクラスのみんなとも仲良くなれました。こんな僕でも、人と接していいのだと思いました。だから、僕は例え、みんながやりたくないことでも、率先してやろうと決めたんですよ。汚れ仕事でも、辛いことでも……。そのおかげで僕はこうしてあなたたちの体の一部を躊躇《ためら》うことなく、引き抜くことができます。なので、もうしばらく我慢してくださいね?」


「……!!」


彼の瞳から、ハイライトが消えていたのを『黒い狼』は見てしまった……。

人間であって、人間ではない何かに体を壊されていく。

そんな感覚を知ってしまった『黒い狼』は、徐々に抵抗心を無《な》くしていった……。


「……これで牙《きば》は終了ですね。さて、次は爪《つめ》ですかね」


「…………」


『黒い狼』の目には、もう覇気が無かった。

こんなことになると分かっていれば、彼に挑んだりしなかった……。しかし、もう遅い。


「おやおや、これはもうダメみたいですね。まあ、僕の前に姿を現した時点でこうなることは目に見えていましたから、仕方ないですけどね……」


彼はそう言うと、『黒い狼』を解放した。


「…………ガ……ゥ……」


『黒い狼』は彼によって、あっけなく壊されてしまった。

たった一人の人間の力によって、『黒い狼』は精神的にも肉体的にも、もうどうしようもないくらいにめちゃくちゃにされてしまった。

時を自在に操れる者が皆《みな》、彼のような人間ではない。

しかし、彼のように少しずつ相手の心を、そして肉体を攻撃し、最後には抵抗心すら消失させてしまう者が少なからずいるということを覚えておいてほしい。


「さてと……それじゃあ、行きますか」


彼はそう言うと、鼻歌を歌いながら、その場から離れていった。

ダンボール箱の中に入っていた〇〇とその同類たちと共に異世界を旅することになった件 〜ダン件〜

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