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「夕焼け小焼けの赤とんぼ。」
トランクを持った男が歌いながら人混みを歩いてゆく。
人々は男の歌声が聞こえないのか、気にすることなく歩いてゆく。
路地からは黒服の男たちが彼の事を見つめている。
「負われてみたのは、いつの日か」
彼は歩き、歩き、歩く。
くるくる道を曲がり、進む彼を追いかける黒服の男たち。
人の多い大通りを切れかけの街灯がチカチカと明滅するマンションの近くの道をビルとビルのすき間の薄暗い換気扇の音の響く路地を彼は迷うように迷い無く進んでゆく。
そして、また建物の影に隠れた彼を追い、覗き込んだ黒服の男たちはありえないことを目にする。
横濱の街の真ん中にあるはずのない田園地帯。
たくさんの田んぼとそこにある畦道。そして彼が歩いている特別大きな道は、間に踏切を挟んで鬱蒼とした小さな林に続いている。
「夕焼け小焼けの赤とんぼ。」
彼は踏切の中へ歩いていく。
カンカンと踏切は大きな警告音を鳴らしながら閉まっていく。
「とまっているよ。竿の先」
歌が終わる前にゴウ、と電車が通ってゆく。
通り過ぎた後には、何ものこっていなかった。
黒服の男たちが混乱し、呆然としているうちに、田園地帯は暗い路地裏に変わっていた。
・・・
場所はかわり、どこかにある大きな日本家屋と西洋の屋敷の融合体のような建物に彼は入ってゆく。
建物にパチン、パチンと明かりがつき、そしてひとりでに扉の横にかかっていた準備中の札がくるりと営業中に変わる。
真暗になったあたりと空に、暖かな色の光りが染み込んでゆく。
看板の文字は「夕凪書店喫茶」と書いてあった。